Neetel Inside ニートノベル
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 処刑のあったその日の夜、私とラドルフは村の宿屋の一室に軟禁され何もすること無くただベットの上に寝そべっていた。
 ラドルフはあれ以降一度も口を開いていない。
 私が何か言葉を懸けて慰めるべきなのかもしれないが、私に人の心を癒すような言葉を紡げるわけが無い。だからこそ、私はただラドルフの傍に黙って居続けた。私にできることは、ラドルフに”客観的な事実”を語ることしかできないのだから。
 夜も更け、部屋の入口の監視が2度交替した頃、ラドルフはようやく口を開く。
「あの副隊長、なんであんな風に…」
 その独り言ともとれる言葉は、部屋に響き、やがて消える。だが、その言葉がラドルフの考えに考えた末の疑問ならば、例え独り言であったとしても、私は答えるべきなのだろう。
「あれは恐らく教会出身者だ」
「…教会?」
「能力も人望も無い貴族が、騎士でそれなりの部隊を指揮する場合、教会で育てられた優秀な人間が補佐に付くことは珍しくない」
「だからって、同じ人間を――」
「同じではない、と教えられ、洗脳に近い教育を受けてきたのだろう。この国と、この国の神に害成す者は皆悪敵だと、あるいは悪だと」
 それを聞いてラドルフの顔色がさらに悪くなった。にぎりしめた拳は爪が食い込み、薄っすらと血が流れている。
「じゃあクレストや、神様が悪だって言ったらそいつはみんな悪なのかよ!」
「教会で育てられた者にとってはそうなのだろうな。そういう考えを持った者は、国にとって有益だ」
「有益って、そんなのただ言い成りになるだけの人間なんて、まるで――」
 そこまで言ってラドルフは言葉を止める。そこから先に紡ぐ言葉は、かつてのラドルフを、ラドールを指す言葉だ。
「お前はあいつと違い、自分で何が悪なのか決めることができる。だから考えろ。考え続ければ、少しは自分の思い描く”何か”に近づけるだろう」
 私の言葉を聞いて、ラドルフはベットに大の字に寝転んだ。寝てはいないようだが、心なしかさっきよりは顔色が良くなっている。
 そう、ここから先を考えるのはラドルフ自身がやるべきことだ。自分で考え、やるべきことを判断する力は、傭兵として生きていく上で最も必要な能力と言える。
 この力こそが、ラドルフの生存確率をより一層高めることとなるだろう。

 軟禁されてから約2週間、私達の疑いは晴れたようで、ようやく解放された。
 ラドルフも自分の中で何か決着がついたのか、軟禁される直前とは見違えるほど落ち着いているようだ。
 私達が預けていた武器や荷物を受け取る直前、例の副隊長がラドルフに話しかけてきた。
「一応、最後の確認として聞いておきましょう。少年、あなたにとって闘神とは何ですか?」
 ラドルフは少し考えると、真っ直ぐ副隊長を見詰め、ハッキリした声で言った。
「この人は誰よりも強くて、尊敬できる、俺の師匠です」
 ラドルフはそう言うと、私の方を見てにっこりと笑う。

 このことを後々思い出すと、その時の私には”嬉しい”という感情が僅かながらも存在していたように思う。そして正体不明の自身の感情に、戸惑いすら覚えていた。
 だが、そのわずかな戸惑いが何なのか分からないままでも、情勢は容赦なく変化していく。
 ”わたし”の想いと”私”の想いが混ざり、あやふやになりながら、ラドルフとの別れは、目前にまで迫っていたのだ。

       

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