Neetel Inside ニートノベル
表紙

蒼き星の挿話
月光の残滓

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 唱響の聖唱女暗殺計画が実行に移された。
 リーズナ―の存在が露見する危険もあるこの計画は、綿密な計画を持って慎重に実行される。暗殺を実行する者達が少数で数か所に分かれミラージュに侵入した後、別同隊が国境付近で騒ぎを起こし、国外へと逃げ、国境に警戒を集中させている間に標的を仕留める算段だ。
 無論私自身の侵入は容易い。常に知覚範囲を広げ周囲の状況に気を配りつつ、必要とあらば実行部隊に情報を与えるのが私の役目だ。
 特にニーシャとディアの方へ気を配りつつ、全体の動きを把握する。この二人に変わりはいない。まだかろうじてディアの予備は用意しているものの、暗殺が実行されるという時にディアが捕えられでもしたら士気に関わるためだ。

 しかし、私の心配とは裏腹にミラージュへの潜入は滞りなく進み、いよいよ暗殺が実行に移されるという時だった。
 私は暗殺実行部隊の周囲に不審な動きが無いかを探るため、意識をさらに集中する。
「……?」
 そこで私は妙な違和感を感じた。
 暗殺を行う場所からは大分離れてはいるものの、ある場所だけ不自然に音がしない。この現象には覚えがある。そう、ムーンライトソードだ。
 いくら私の知覚能力が優れ、隠蔽工作を入念にしていたとしても、一度世に広まった物を完全に無かったことにはできない。あくまでムーンライトソードはお伽噺の中だけの物、という印象操作を行ってはいたが、それを本格的に調べ上げた人間がミラージュに存在すれば、ムーンライトソードの復元は決して不可能ではないだろう。
 正直、今の段階で世の中にムーンライトソードの存在を認知されるのは、非常に好ましくない。しかもムーンライトソードの復元を行ったのがミラージュならば尚更だ。私の予定では、ムーンライトソードが世に出るのは、国々の対立が深刻化し、コトダマ使い以上の兵器が開発された後でなければならない。
 このままでは予定よりさらに時間が必要となってしまうだろう。ミラージュの戦力を落とすための暗殺も重要ではあるが、ムーンライトソードが世に出ればそれどころではなくなってしまうかもしれない。
 私は再び周囲の状況を念入りに調べ、暗殺に支障が無いことを確認すると、さっき違和感を感じた場所へ体を消したまま移動した。
 不自然に音のしない場所へとたどり着くと、そこは庶民が住むには大きく、裕福な人間が住むには小さい家だった。ムーンライトソードの研究をしている場所がミラージュの専用施設だった場合、研究の存在を知っている人間を皆殺しにするのは手間だと考えていたが、どうやら個人でムーンライトソードのことを調べ上げ復元した人間がいるようだ。
 音が最も吸収されている場所へ行くと、そこには輝石の小さな欠片がいくつか机の上に置かれていた。それらは周囲の音を吸収して薄っすらと光っている。
 輝石の状態から察するに、かつて私が鍛冶屋にムーンライトソードを作らせた際に出た廃材なのだろう。私は全て回収したと思っていたが、取りこぼしがあったらしい。
 輝石の状態を確認した私は研究をまとめたノートに目を通す。その内容は輝石の性質についての実験データと、恐らくムーンライトソードは実在していたであろうということが簡潔にまとめられていた。しかし、その内容はまだまだ綻びがあり、研究が完成しているとは言い難いモノだ。
 全ての内容に目を通した後、私は表紙に書いてある研究者の名前を確認した。

 ――エネウッド・ラーク――

 少なくともエネウッドに関わる人間は一通り始末しなくてはならない。
 家の中に居る人間はたった3人。あらかじめ私の力で心臓を圧迫し心不全を起こさせ、後は火をつければ証拠隠滅だ。

 私は一通りの作業を終えると、再び暗殺実行部隊の方へと意識を集中させる。
 どうやら向こうは順調に暗殺を遂行したらしく、今まさに引き上げようとしている所だった。ディアは上手くやった様でニーシャの出番は無く、手筈通りのルートでミラージュから脱出しようとしている。
 私も一応周りの状況を探り警戒していたが、追手の動きは明らかにディア達の位置を掴んでおらず、私が指示を与えることなく実行部隊は引き揚げることに成功した。

 だが、この時はまだ暗殺の結果が失敗に終わっていることを誰一人認識していなかった。無論、私も含めて――。

       

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