Neetel Inside ニートノベル
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蒼き星の挿話
神として

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 暗い。
 全ての知覚を遮断され、私は再びわたしの中へ沈む。
 ただひたすらにわたしから情報を流され、私はそれを受け止める。2度目であるせいか、前のように混乱することは少なくなった。
 流れてくる情報はわたしの記憶、感情、価値観、そしてその願い。
 私はここに至って自身の役割を理解する。
 人間の持つ技術、その発達を促進させることがわたしの願いを叶える最短距離なのだ――。

 私は再び地表に意識を戻される。人間の観察をしたせいか、体はより人間に近い外見で形成された。しかし、その性能は人間とは比較にならない。
 私がこの体を利用してまず始めたのは、神という立場を用いて人間社会に干渉することだった。
 神、それは人間の信仰の対象であり、信仰の根源だ。
 人間はその高すぎる知性のせいか、心があまり強くない。日々訪れるかもしれない危険に怯え、自身の未来に不安を抱き、いつか訪れる死に恐怖する。そして、それらに耐えるための手法の一つとして、宗教が用いられた。
 しかし、宗教の役割はそれだけではない。不安や恐怖を抑え込むだけでなく、統率力を高めるための規律として用いられることもある。
 例えば、全体を生かすために犠牲が必要な時も、犠牲になる個体に宗教的な誉れを与えることによって、進んで死を受け入れさせたりする場合大いに役立つ。
 全体が生きるための少数の犠牲は、生態系の中ではたいして珍しくも無いことではあるが、知性が高いがために個性を強く持った人間には受け入れがたいことなのだろう。それは犠牲を強いる側にも少なからず罪悪感を抱かせるようだ。
 だが、集団で行動する生き物が犠牲を受け入れずに進歩することはない。人間達は分かっていないのだ。所詮人間は集団で生きてようやく、命の輪を繋ぐことができるということを。
 ならば私がしてやることは、人間達の統率性をより強め、全体のためなら命を投げ出せる価値観を作り出すことにある。
 私は早速神として人間達に干渉を始めた。

 結果だけ言ってしまえば、それは実にたやすいことだった。神として人間の前に現れ、秩序を構築し、その敵対者を全て排除して行くだけだ。
 時に人では得られぬ情報を与え、人では決断しにくいことを判断し、一つの集まりを強く、大きく育てていく。
 たった150年、それだけで私が味方した人間の国はその大陸を統治した。
 国の名はムラクモミレミアム。根強い信仰から生まれた厳しい規則の下に統治された国家。危険分子は私が天罰と称してそのほとんどを排除した為、全体的に見て安定した平和な国がそこにあった。

 だが、その国が大陸を統治してから200年ほどが経ち、私は間違いに気付く。
 完全な平和は技術の発達を遅らせるものだったのだ。
 利権、宗教上の縛り、そして技術躍進への欲求の減少。
 技術は力だ。力は使う相手、競う相手がいるからこそ、より強い力を求めるものだ。
 そして何より、神として私の存在が認知されているためか、何かしらの困難が降りかかった時、自分達の力ではなく、神である私に頼り切ってしまうのが最大の問題と言える。
 もはや事ここに至っては、私の存在をこの国から忘れさせることは不可能だと判断した私はこの国を、大陸を捨てることにした。
 これは後で知ったことだが、私が居なくなり、ムラクモミレミアムは50年後に内乱で壊滅した…。

       

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