Neetel Inside ニートノベル
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 私はジノーヴィを連れてダンテリオと約束した場所へ向かう。
 その途中でジノーヴィを連れ戻そうと3人の追手がわたし達の前に現れたものの、ジノーヴィは自らそれを追い払った。
 正直その時の私は少なからず不安を抱いていたように思う。私の目的が達成される直前でジノーヴィが心変わりをする可能性があったからだ。
 しかしそれも杞憂に終わった。私が何をするでもなく、ジノーヴィ自ら追手を追い払うことを申し出たからだ。その行動はよりジノーヴィの決意を固めさせ、この後のコトダマ行使にもいい影響を与えることだろう。
 ジノーヴィを連れ戻そうとしていた者達にとって彼は恐らく大切な人間であったはずだ。そしてそれはジノーヴィにとっても同様だろう。そんな人間と決別する覚悟、意思の強さは恐らく私が今まで見てきた人間の中でも最も強い部類なのだろう。
 ジノーヴィにとって大切な友と言える人間達を追いかえした後、私はふとダンテリオのことを思い出した。

 ジノーヴィをミラージュから連れ出す直前、私はダンテリオについに終わりの時が来たことを告げた。
 その私の言葉でいつものようにダンテリオは無邪気な笑顔を浮かべ、一頻り喜んだ後、柄にもなく真剣な表情で話した言葉がやけに印象的だったのを覚えている。
「まあ、僕には祈るべき神様なんて居ないけど、ただ得難い友人である君の望みがかなうことを、心の底から願っているよ」
 私はその友人の言葉に返す言葉を紡ぐことができなかった。
 この言葉を受け取ったのが普通の人間だったのであれば、私でなかったのであれば、ちゃんとした言葉を返せたのかもしれないと思うと、少しばかり悲しくなった。

 ダンテリオと約束した場所にたどり着くと、そこにはダンテリオが既に佇んでいた。
「やぁ、遅かったじゃないか」
 ダンテリオの普段通りの態度に私も無難に返す。
「少し邪魔が入ってな」
 私はダンテリオに軽く挨拶を済ませると、その足を止めてジーノに向き合う。
「ここでいいだろう。始めようかジノーヴィ」
「…その男は?」
 そう言いながら、ジノーヴィはダンテリオに視線を向ける。それに対してダンテリオはおどけたような話し方で返した。
「ああ、僕のことは気にしないでいいよ。ただの野次馬だから」
 ジノーヴィは少し訝しげな表情をしたが、視線を私に戻すと口を開く。
「で、結局俺に何をさせる気だ?」
「言ったはずだ。お前にはお前の復讐を果たしてもらう」
 その言葉にジノーヴィはあからさまに不審な表情を見せた。
 ジノーヴィの復讐、それは組織リーズナ―の壊滅だ。少なくともこんな只の平原でそれが果たせるとは露ほどにも思えないのだろう。
「私をお前のコトダマで消せ。それですべてが終わる」
「?」
 その意味が分からず、ジノーヴィが困惑してどうしていか分からなくなっていると、ダンテリオが説明した。
「彼を殺せばリーズナ―は無くなるよ。それは間違いない」
「どういうことだ?」
「リーズナ―が今までいろんな国に対して優位性を保っていられたのは、情報伝達の早さとその正確さのおかげだからね」
 それを聞いて、ジノーヴィは私の人外の力を思い出したのだろう。突然ミラージュの宮殿に現れたりできる私の力があれば、情報の伝達も情報収集も、ありえないほど早く正確にできる。
「それにリーズナ―の拠点は各国に散らばっているからね。彼が居ないとろくに連絡をつけることもできなくなって霧散消滅すると思うよ」
 ジノーヴィは一瞬私達の言葉を疑ったのか、考えるような仕草を見せる。しかし、そもそもこんなウソが必要ではないという考えに至ったのだろう。
「…わかった」
 そう言うとジノーヴィは私に向き合って構えた。それを見たダンテリオは距離を取る。その表情はやや興奮気味だ。
 覚悟を決めたジノーヴィの中で感情が暴れ狂うのが見て取れる。
 ようやく目的が達成されることへの喜び、自分の家族を殺した組織を作った者への怒り、残してきた者に対する哀しみ、これにより全てが終わるという未来への楽観、その全てが混ざって猛る。
 同様に”私”と”わたし”の中でも様々なモノが渦巻いているのが分かる。
 それら全てが混ざってできたモノは喜びか、悲しみか、恐怖か、安堵なのか、”私”にも”わたし”にも分からない。
 だが、唯一確かなのは”わたし”がジノーヴィを求めているという事実。この混沌とした何かはまちがいなくジノーヴィに向けられたモノだ。
 あえてそれに名をつけるとするならば人々が囁き合う”アイ”というモノが最も近いかもしれない。
「喜べ、ジノーヴィ・フェルトロッド。お前は唯一この世界で”命を持たぬ物”に愛された”命を持つ者”だ」
 ジノーヴィは眼をゆっくりと開き、息を吐き出すように答えた。
「知ったことか」
 ジノーヴィは右拳を握る。ガントレットが軋むような音を立て、振りかぶられた。

「掻き消えろぉ!闘神アレェエエエエエス!!」

 ジノーヴィの拳とコトダマは”私”を貫き”わたし”に届く。
 ジノーヴィの中にある全ての感情を以て、私が私たりえる全てを掻き消していく。
 その時になって私はやっと気付いた。ジノーヴィは極大の波長で全ての波を掻き消す。その極大の波長はジノーヴィの魂の波長を極大にしたものに他ならなかったのだ。

 その極大の波長にかき消されようとしている中、私はその魂の中に僅かではあるが、ラドルフの面影を感じながら意識を手放した。

 

 ――そして私の全てが霞み、揺らぎ、そして消えた。――



 ただ響き続けるこの世界で
 第3章 蒼き星の挿話

 完

       

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