Neetel Inside ニートノベル
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蒼き星の挿話
コトダマ使い

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 人間達のドラゴン討伐は順調に行われ、その勢力を大幅に増大させた。その過程でいくつもの小さな集落がより大きな集落にのみ込まれ、やがては国という形を成し、より強く、より大きくなろうとする。
 結果この大陸で3つの大国が形成された。
 一つはクレスト皇国。皇帝を最高位の指導者とし、生産力よりも技術力で成り上がった国だ。高い製鉄技術を持つ街、ルグレンを手中に収め、その技術発展は留まることを知らず、3国の中で最も国土が小さくとも凄まじい軍事力を持つ。
 もう一つはクレスト皇国の東側に位置するキサラギ共和国。元々この国を作った人間達は、ムラクモミレミアム崩壊時に争いを嫌い、新天地を求めて海を渡ってきた移民である。故に王による独裁を嫌い、部族間投票で選ばれた族長が数年間代表を務め、国政を取り行う。3国の中で最も国土が大きく、ムラクモで発達した農業技術を用いていることも相まって生産力では他国の追随を許さない。
 そして最後の一つは2国の北に位置する国、宗教国家ミラージュだ。この国は3大国の中でも変わった国で、全てにおいて宗教を中心に回っている国である。国土の割に資源が乏しい為か、そこに住む人間達は環境によって鍛えられ、淘汰されてきたが故に体力的にも精神的にも屈強な者が多い。一つの大きな思想の下に人民は統率され、助け合い、内側は強固な一枚岩のように安定した国だ。だからこそ排他的な所があり他宗教を一切認めない。自ら他国の領土へ信仰することはないものの、報復として攻め込んできた敵国の領土を飲み込み、大国までのし上がった。

 だがある程度勢力を広げた後、3国の他国への侵攻は一時停滞する。
 周りの小国、つまり最小の損害で侵略できる国が周辺から無くなった後、3国は内政に力を入れ始めた。農工商の発展に力を入れ、反乱分子の排除を行い、より一層強い国との戦争に備える。
 その過程で、ドラゴンの研究、養殖方法の確立を推し進める者達が現れた。
 いかにムーンライトソードでドラゴンブレスを無効化できるようになったとはいえ、ドラゴンの力は圧倒的なものだ。その力を軍事に役立てようとする者が現れても不思議ではない。ドラゴンを飼い馴らし、兵力として扱うことができれば、その国は大きな力を得ることになるだろう。
 しかし、ドラゴンを養殖することはかろうじてできたものの、完全に飼い馴らすことは難航を極めた。元々ドラゴンは群れる生き物ではない上に、自分より強いと判断した個体には近づかない習性がある。例え太い鎖で拘束し、こちらの方が強いと認識させても、拘束を解いた瞬間、一目散に逃げようとしてしまうため、調教は難しいものだった。

 ドラゴンを飼い馴らすことに各国が四苦八苦している中でも、ドラゴンの研究は進んだ。ドラゴンブレスのメカニズム、その器官の研究はゆっくりとだが進んでいった。
 竜紅玉、と呼ばれる石。その仕組み、原理までは解明されていないものの、それがドラゴンブレスを発生させる器官であるということがキサラギによって解明される。
 元々国土が広く、ドラゴンが多数生息していたキサラギは、初めてドラゴンの生け捕りに成功した国でもあった。そしてドラゴンの養殖にいち早く成功した彼らは、あることに気付く。それは人間の手によって育てられたドラゴンには竜紅玉は存在せず、ドラゴンブレスを使えないというものだった。
 その理由として真っ先に挙げられたのが餌の違いだ。
 ドラゴンの餌として用いられるのは人間によって育てられた大型草食獣ヌウだ。ヌウは体毛が濃く、動きが遅い草食動物だ。その肉には毒素が多く含まれているので人間の食用には用いられず、もっぱらその毛皮を得るために育てられる。そして、その毛皮を十分に採取し、年老いたヌウを毒に強い耐性を持つドラゴンの餌として与えていたのだ。
 野生のドラゴンの主食もヌウであり、何ら違いはないように思えたが、最大の相違点はヌウの餌だった。家畜として人間の手で育てられるヌウは基本稲作の後に残った麦などの切り株、藁などを食べさせられる。
 野山に自生している草にはあって、藁には無い何らかの成分が原因ではないかと考えた学者達は、野山で放牧させて育てたヌウをドラゴンに与えることで、その考えが間違いではないことを知った。

 そこから学者達は考える。飼い馴らせぬドラゴンの力を当てにするのではなく、ドラゴンの力を人間が手に入れればよいのではないか、と。
 竜紅玉を埋め込む動物実験が繰り返され、最終的に人体実験にまで至り、ついにドラゴンブレスを放つことのできる人間、”コトダマ使い”が誕生したのだった。

 各国の学者達の研究を逐一観察していた私は、竜紅玉を人間に埋め込む方法を各国の学者に漏らす。キサラギで発祥した技術ではあるが、今この段階で国々の均衡が崩れるのを防ぐためだ。
 それと同時に、ムーンライトソードの回収、または破壊を行った。国ごとに数本程度しかないとはいえ、コトダマ使いの力を発揮させるためにはムーンライトソードは邪魔だ。製造方法も知られてはいない現状なら、作ることはできない。仮に作れるようになったとしても、その頃にはコトダマ使いを中心とした戦力をもって戦争が行われた後だ。怨恨が残れば、また争いになる。そして、あらゆるものを奪い合うことにだろう。

 そして支配者層の人間は知ることになる。技術の素晴らしさと恐ろしさを、奪い手に入れる喜びを――。

       

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