「どうして、こんな変態監督と組んでるんだろ、あたし」
「ほかの人の映画に出たい?」
「ぜんぜん」
「もったいない。このまえも、オーフォード監督から話が来たのに」
「あんなの受けるぐらいなら、この仕事やめるよ」
「でも、あなただったら……」
「ああ、やめやめ! こういう話はしない約束でしょ! もう黙ってて!」
エニスはアートナイフをさかさまにすると、ルイゼの口に投げ込んだ。
ガチッ、という音。反射的に噛んでしまったのだ。刃先が天井を向いて光っている。
「ほら、脱いで」
エニスはルイゼのズボンを片足だけ脱がせ、床に落ちているアートナイフをつかんだ。キャップがついたままの刃先を、ルイゼの陰部に押しつける。
下着をずらすと、チーズのような匂いがうっすら漂った。しかし、その匂いもたちまちコーヒーの香りで塗りつぶされてしまう。
「ちょっと濡らしすぎだよ、監督。床までこぼれてる」
下着の隙間から押し込むと、ナイフは簡単にルイゼの中へ入り込んだ。
軸を回転させながら、エニスはゆっくり貫いていく。ほとんど軸が見えなくなるぐらいまで、深く入った。それから、渦を描くように大きくかきまぜる。ぐちゃぐちゃと、ねばりつく音。
「く……ふ……!」
ナイフを噛まされているせいで、ルイゼは声が出せない。唇の端からこぼれた唾液が、頬をつたって耳まで垂れた。
「これ、もしキャップが外れたら大変なことになっちゃうね」
そんなことを言いながらも、エニスは手を止めない。
ぬちゃぬちゃという音に混じって、ガチガチとナイフを噛む音がする。ほかには何の音もしない。室内は冷えついているが、ルイゼはまったく寒さを感じていなかった。それどころか、額には汗が浮いているぐらいだ。
「もしルイゼが死んじゃったら、こういうこともできなくなるんだよね」
思い悩むように、エニスの声音が低くなった。それでも、かきまわされるナイフの動きにはまったく変化がない。亀裂からあふれだす液体は白く泡立って、クリーム状になっている。愛液ではなく精液に見えるほどだ。
「あぁ、もう。あんな試写会行かなければよかった。あたし、映画監督っていう人種が大嫌い」
恨みをぶつけるように、エニスは激しくルイゼをかきまぜた。ぷっくり膨れた突起を、舌で舐め上げる。そのとたん、ルイゼの体が激しく波打った。
「っく! うくぅ……!」
「なに? もういっちゃうの? 変態監督さん」
よだれを垂れ流して、ルイゼは何度もうなずいた。うなずきながら、全身をよじらせて痙攣する。その間も、エニスの舌と手は止まらなかった。
たてつづけに、二回、三回とルイゼは絶頂に達した。その間ずっと痙攣しっぱなしだ。声にならない声は、甘い苦悶の色を帯びている。
六回目で、背中が弓なりに反り返った。ひときわ深い絶頂。
と同時にルイゼの口からアートナイフが落ちて、カタッと音をたてた。軸全体唾液まみれだ。毛髪が一本からみついている。
「かわいかったよ、監督」
さんざん舐めあげた箇所に、エニスはそっとキスした。それから口元についた粘液をティッシュでぬぐい、コーヒーを一口。もう、すっかり冷めている。
ルイゼは麻酔を打たれた動物のようにグッタリしていた。横倒しになって、顔を向こうへ向けたまま。片方だけズボンを脱がされた脚や落書きだらけの腹部はほのかに赤く染まり、ひどく扇情的に見える。おまけに、性器にはアートナイフが刺さったまま。
それを抜きもせず、軸の先端がヒクヒク震えているのを眺めながらエニスは言った。
「ねえ、約束しようよ。あたしたち、どっちかが死んだら残ったほうも後を追うって」
「いいよ。約束する」
「はやっ! ちゃんと考えてないでしょ!」
あまりの即答ぶりに、エニスは目を丸くした。
官能の余韻にひたりながら、ルイゼは壁を見つめて応じる。
「考える必要のないことだもの。でも、私が先に死んだ場合あなたはゆっくり来ていいから。私は天国でワインでも飲みながら待ってるし」
「ああ、お酒はだいじだね。お酒のない天国なんて、ありえない」
「あと、コーヒー」
「映画は?」
「それは別に、なくてもいいでしょ。あの世に行ってまで仕事したくないし」
「だよね」
エニスはルイゼの頭に手をのばし、顔を自分のほうへ向けさせてキスした。
いつもと同じような、けれどいつもと少し違う夜。