Neetel Inside 文芸新都
表紙

涙雨
◆第五話「距離」

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 気づけば手をとっていた。
 多分、今が最も近い距離にいる時だと感じられた。触れるという行為をそういえば今までしたことがなかったっけと、僕は椎森との出会いから遡っていく。ああ、確かに触れたことはなかったかな。
 ふと後方が気になって振り返ってみる。先程まで彼女の隣に立っていた男性は追ってくるでもなく、ただ僕らを見つめていた。これ以上後方を確認している必要はないと思って、僕は再び前を向き、椎森の手を少しだけ強く握り締めた。
 ただひたすらに、椎森の手を引いて遠くに行きたかった。
 できないことだと分かっていても、そう強く願った。
「――って」
 薄い布で覆われた感覚の中で、小さく声が響いた。僕は振り返らない。
「離して!」
 抵抗されたことと、拒絶の意の籠ったその言葉が、僕の前の間にかかっていた薄い布をはぎとり、そして視界をはっきりと映し出す。
 そこは、とても静かで、とても暗かった。
 一番近づいた筈なのに。
 一番近づけた筈なのに。
 どうしてなのだろうか。

 今は、とても椎森が遠くにいるようだった。

「椎森」
「どうして、こんなことをしたの?」
 彼女は声を荒げる。それは今まで聞いたことのない彼女の声で、僕は思わずたじろいだ。
「これは一体どういうことなんだ?」
「貴方が何もしなければ、私は……」
 言葉は宙に浮いては弾けて、そして消えて空気に混じっていく。椎森は質問を投げかけるようにして、僕の問いかけを遮っていた。いや、単純に動揺を覚えているだけなのかもしれない。けれども、僕にはそれが「必死に言葉を拒絶しようとしている」ように感じた。その理由が一体どこからきているのかは分からないが、それでも、そう感じたのだ。
「椎森」
 もう一度名前を呼んだことで、彼女は自分が呼ばれたことを認めたようであった。椎森は俯くと、そのまま口を閉ざし、佇む。その姿は、先程強い口調で言葉を吐きだした姿が幻覚であったのではないかと錯覚してしまうほどの変化で、僕はそれに戸惑いつつ、口を開く。
「これは、どういうことなんだ?」
 返事はない。
 彼女は男性と共にいた。そして、椎森は僕に見せないような表情を見せていた。
「……私は、その質問に答えなくちゃいけない?」
 ひどく冷たい表情と声だった。今この場の出来事をまるで客観視しているような口ぶりだった。自分は関係ないと、全てを否定するような、そんな瞳。
 動揺を隠し切れていないのは分かっていた。終わってしまったと言わんばかりに全てを冷たく見つめる彼女の視線を見て、それくらい理解できた。
 それでも僕は必死に、自らを保つために言葉を吐きだす。
「僕に訊く資格なんかないのかもしれない。でも知りたいんだ」
「一体なにを?」
「僕は君にとってどういう存在なのか、ってことを」
「どうして?」
「どうして、って……それは」
 彼女はただ、理由を問う。それは、多分きっとたった一つの事実を僕に確認させるためのものだったのではないかと思っていた。そしてそれが、理衣子を感じた理由に繋がっているのだろうと感じていた。
 無言が続く中で、彼女の口が先に開いた。
「それは、私の方こそ訊いてみたい。私はあなたの何なの?」
 立て続けに、ただ吐き出すように彼女は言った。その言葉は酷く冷たく、僕に張りつくとそのまま全てを冷やしていく。
「浅野君が見ているのは、理衣子でしょう?」
 思考も、身体も、時間も、全てが止まったような感覚を覚える。
 理衣子。
 僕は暫くその名と、椎森の姿を思い浮かべ、それから何もかもが腑に落ち、そして諦めがついた気がし、途端に思考だけが冷静になっていくのを感じた。
「答えられない? そうよね。でも私は最初から知ってた。あなたが理衣子の『客』だったことも、全部わかっていて近づいた。あなたを通して理衣子に近づくために」
 視界がぐるりと回転する。思考が止まる。胸元からなにかがこみ上げてくる。徹底的に僕をたたきつぶそうとやってくる圧力に僕は屈みたい気持ちになる。
 けれども、椎森は止まらなかった。いや、止まることができなかったのかもしれない。
「あなたが私を知るずっと前から、私はあなたを知ってたの。理衣子の隣に居た存在として。彼女がどういう理由であなたに興味を持ったのかを知りたかった。そして理衣子のように振舞えば振舞うほど、あなたは近づいてきた」
 まるでここだけが別の空間のように思えた。周囲の人々は僕らを一瞥すると、何も言わずに通り過ぎて行く。何もかもから隔絶されたような、そんな閉塞感があった。
「私がいったい何をしているのか? 知りたいのなら教えてあげる。理衣子と同じことよ。それでもうわかるでしょう?」
 きっと鋭い視線を僕へと向けると、彼女はそう言った。その言葉はとても強く、そしてはっきりと吐き出された。その口調が、僕にはとても悔しかった。
 足元を見続ける。顔を上げることができない。全てが、何かがパズルのように組み合わさり、そしてぴたりとハマるとともに崩れ落ちていく。
「私がずっと見ていたのは、あなたじゃなくて理衣子よ。でもそれはあなただって同じ」
 呆然とする僕を尻目に、まるで彼女は自分に言い聞かせるように放つ。
 何故、彼女の方がとても辛そうに見えるのだろうか。次第に冷静に、物事を考えられるくらいに落ちついていくと、まず生まれた疑問がそれだった。まるで自らを傷つけるように、ただひたすらに言葉を吐き、そうしてその言葉に自ら応答し、またそれを罵倒の言葉として排出していく。
 ただ彼女の言葉を黙って聞き続けていると、彼女の言葉がぶつりとブレーカーが落ちたみたいに切れた。
 全てを吐きだし終わったようだった。
 椎森は肩で息をしながら、それでもこちらをただじっと見据える。ああ、と何もかもがすとんと落ちていく。
「つまり、僕も『客』なのか」
 それは、僕自身に対しての納得の言葉だったのか。
「さっきの男と同じように?」
 それとも、彼女に対する問いかけであったのか。
 椎森は、ただ一度だけ頷いた。
「どうしてだ?」
 その悔しさは一つの問いかけを生む。
「椎森にとって、理衣子はどういう存在なんだ?」
 椎森は少しだけ考えてから、ただ一言。
「それに答えるつもりはないわ」と言う。
 以前から親しい理衣子と付き合っていた人物が気になって近づいた事、全て偶然と感じていた感覚が意図的に作られていた事。そして、椎森自身も「客」と称して人と触れ合っているという事。
 まるで宙に浮いているかのような感覚であった。椎森に感じていた気持ちも、結局は理衣子を重ねることで感じていただけであり、そうすることで椎森は僕を客として手にするつもりであった。
 今の今までの出来事に、僕の意思などなかったのではないか。そう考えるととても滑稽に思えた。僕は“また”踊らされていたのだ。
「……最低だ」
 吐き出された言葉は、果たして椎森に対してであったのだろうか、それとも――
 僕は今にも崩れてしまいそうな表情を浮かべる椎森を一度じっと見つめる。
 椎森は動き出した。
 彼女は僕の横をすっと通り抜けると、そのまま、小さくなった背中を背負ったまま歩いていき、そして僕の視界から消えていった。
「最低だ」
 二度目の呟きと共に、僕は傍の壁にもたれかかる。冷たいコンクリートの感触が、無機質さが、僕の感覚を痺れさせていく。麻痺していく感情と思考が、正確に動けずに戸惑い、そしてそれはやがて身体へと影響を及ぼしていく。
 ずるり、とよりかかった状態から座り込む。力なくうなだれ、汚れた無機質なコンクリートが僕の視界を埋め尽くした。
「結局、客かよ」
 理衣子の幻影を追い続けていた結果がこれなのだろう。僕は結局何一つとして前には進めていなかったのだと、そう感じた。
 ここはとても暗くて静かだ。
 コンクリートに囲まれた路地に座り込んだまま、僕は目を瞑ってみる。恐ろしい程に暗闇がそこにはあって、そして焼きつくようにして瞼の裏に残った椎森の姿がぼんやりと浮かんでいた。
 僕はそれに手を伸ばそうとするが、伸ばそうとして、やめた。所詮は理衣子の幻影。僕が勘違いして好きになった人物なのだ。
 不意に吐き出された言い訳が、また僕の心をずきりと痛ませた。
 ふと、思い返す。
 そういえば、理衣子といた頃はどうだったのかと。
「僕と理衣子……か……」
 思えば“あの時”は、まだ何かに対して悩むこともなかったし、純粋に、ただまっすぐ前を向いていられた。それは単純に無知であったからこそなのだが、それでも、あのまま浸り続けられていたならば、どんなに良かったのだろうか。

   ―第五話―

 遮断機が降りた。
 立ち止まらざるを得なくなった僕は、下りつつある陽をぼんやりと眺めながらポケットに手をつっこむ。今日の出来事を思い出してみるが、大して思い返せない辺り、また今日もどうでもいい一日だったのだろう。
「お前、相変わらず恋人いないのか?」
 背後から声がして、僕は振り返った。友人は笑みを浮かべながら肩に手をやる。
 友人は僕に会う度に何かにつけてそう言うのだ。別に女性に対して嫌悪を抱いているわけでもなければ、男色家とかそういうわけでもない。
 ただ単純に、高望みをしすぎてしまっているのだ。これがこうあってほしいとか、そういった理想を無理やりに押しつけて、僕の思考に壁を作って、そうやっていつの間にか僕自身女性と壁を作ってしまっているのだと思う。
 こうやって理想と妄想にひたすらに耽り続けた結果が、今の僕なのだ。いつか僕だって誰かに尽くす時が来るのかもしれない。今はそれを待ち続ける時期なのだ。
「お前、これからどうするんだ?」
「何が?」
 彼は溜息を一度吐きだす。
「高校最後だぜ、このまま終わる気か?」
「ああ、そうだな……」
 暫くの間僕は宙を見つめ続け、そうして思考を巡らせる。
 いつの間にか恋人ができて、それなりに幸せになれて、向こうも僕を慕ってくれるとか、自動的に僕の欲しい物がやってくるという勘違い。そしてそれに縋ることでイマイチ前に踏み出せない自分を隠しているだけ。そうやって過ごしてきた。
「意外と選り好みするタイプなだけさ」
「馬鹿らしい。なんやかんやお前、しょっちゅう寂しそうにしてるくせに」
 そう言うと友人は諦めたように首を振ると僕から離れて行ってしまった。彼の後ろ姿を暫く見つめながら、一度だけ溜息を吐きだした。
 どうにも僕には何かに集中することができないのだ。何かを見つめる時にふと別のことを思い浮かべてしまう。こんな浮ついた気持ちだからどうにも僕の進む道は緩くぬかるんだ泥道のようになっている。
「……」
 こうやってこれから先も進んでいくんだと、薄らとは感じている。山を作りたくないから、谷を掘りたくないから、おっかなびっくり歩き続けて行くんだと。

「痛い」
 不意に、誰かと衝突した。彼と別れてからぼんやりと考え事をしながら歩いていたせいであった。
「ご、ごめんなさい」
 少しだけ刺のある声を聞いて謝罪と共に思わず数歩下がり、顔を上げる。
 そこで、僕は硬直した。
 目の前に立っていた女性が、目の前の景色から浮き出ているような、この視界に映る全てから別離しているような、そんな風に見えたのだ。水と油が互いに相容れない存在のように、まるで彼女だけ世界から“剥離”しているような。
 別に超能力とか、霊能力とかそういった類のものは持ってはいないし、信じてすらいない。そんなことに思考を捻るよりも、明日何か予定はあったかどうかということに対して脳を使うべきだと思うくらいだ。
 そんな幻想的な思考に興味もくれない僕が、何か特異なことが起きていると思えたのだ。
 その女性は僕を一瞥した後、何事もなかったかのように再び歩き出す。その背中を一度じっと見つめてから、僕は反射的に駈け出した。
「あの」
 多分声をかけなければいけない。かけなければ何か機会を失くしてしまう。そんな気がしたのだ。
 女性は怪訝そうに僕を見つめ、改めてこちらへと向き直った。
「何か用かしら?」
 それからどうするのかなんて、考えすらなかったことに気づいて、僕は慌てながらも必死に理由を探す。
 が、それよりも先に彼女の言葉が先手を打った。
「ナンパ、という風に見ていいのかしら?」
「あ、その……はい」
 思わず頷いた瞬間、恥ずかしさが喉元まで競り上がってそこで止まる。このまま吐き出せてしまえばいいのに、と心の中で必死にその感情を押し上げるのだが、どうにも出て行く気配はない。脈は妙に早くて、顔は熱をもって視界を揺らすし、足は震える。
 友人の言葉によって焦りを感じていたからだろうか、思ってもいない行動に僕は自らを恨む。
「貴方の名前は?」
 暫く顎に手をやって僕をじいと舐めるように見てから、彼女は一度だけ微笑むとそう問いかけた。
「あ、浅野晃……」
 途中で声がひっくり返ってしまった気がする。けれども音を引っ張り戻して出し直すこと等できるわけはないし、既に僕が“そんなことできるような男ではない”ことくらい、目の前の女性はきっと察知している。特に声等を気にする段階ではないのだ。
 あさの、と彼女は呟いた後、一歩、二歩と僕へと歩み寄る。
「それで、これからどうするのかしら?」
「え?」
「誘っておいて、ノープランはないわよね?」
 最早正常に動こうとする事をやめた思考の舵を必死に握りながら、僕は周囲を何度も首を振りながら見回し、すっと目についた一点を指差した。
「喫茶店、お茶」
 今すぐにでも彼女を置いてこのまま帰宅してしまいたいと、更に熱をあげていく身体と鼓動を感じつつ、僕は単語を二つ、勢いのままに並べてみた。

 くすり、と笑う声が聞こえて僕はやっとそこで冷静になる。
「ええ、それじゃあ入りましょうか」
 彼女はそういうと僕の右手を取ると歩きだす。冷静さを取り戻しつつ、それでも一向に思考と身体が分離したままの僕はされるがままとなり、傍から見れば彼女が僕を誘ったかのように思われる状況となってしまっていた。

   ●

「私に声をかけたのは勢いだったの?」
 洒落たジャズの音楽が流れる店の一角で、彼女と僕はそれぞれ注文した紅茶を手にしていた。先程の出来事について改めて聞かれ、そしてまたしても僕は顔を紅潮させるという状況となったわけだが、彼女はそれほど悪い印象をもたないでくれているようであった。
「でも、なんだか嬉しい」
「え?」
「突然声をかけられることって素敵だと思うわ。誰かを必要としていて、その感覚を解決する対象を見つける。私はそういうの、好きだわ」
「恋人がいるんですか?」
 彼女は一度首を振ると、また丁寧な手つきでティーカップに手をつける。妙に上品さを感じさせるその動作の一つ一つが、僕の心を掴む。
「貴方は?」
 その問いかけに僕はあたふたするが、彼女は微笑む。
「いたら声はかけないわよね」
「ええと、その……おっしゃる通りです」
 話題を探しているうちに彼女は次々と僕に問いかけ、そして僕の反応を見ては楽しそうに微笑んでいた。改めて彼女を見直してみたが、あの時に感じた「景色と相いれない」感覚はなくなっていたし、多分僕の気のせいか、錯覚のようなものが生んだ景色だったのだろうと思う。
 しかし、その錯覚が彼女とこうやって会話のできる状況を作ってくれたとすると、感謝しなければならないかもしれない。
「見た瞬間に、なにかを感じたんです」
「何を?」
「うまく説明はできないのだけれども」
 そうして僕は暫く考えてみる。本当に巧く言うことはできないのだけれども、僕は確かに彼女に何かを感じたのだ。その得体のしれない感覚を伝えられればもう少し彼女とも何か上手く会話ができる気がするのだが。
「でも、分かるかもしれない」
 ずっと思考を巡らしている時に、彼女は一度頷いた。
「時折あるものじゃないかしら。一目見た時に、名前を知らなくても、話をしたことがなくても、お互いにどこかで繋がっているような……。この人と自分は何かあるんじゃないかっていう不思議な感覚」
「確かに、僕が言いたいのはそういうことかもしれない。解釈がとても上手いね」
「以前私にもあったから、よく一緒にいた友達と出会った時に」
 飲み終わったティーカップを彼女は机に置いた。ことり、と陶器の硬質的な音がして、少しだけ僕と彼女のいる空間に無機質さが生じた。彼女は暫く何かに耽る様に視線を宙に向け、下唇を静かに噛んでいた。
 多分、これは聞いてはいけないことなのだと、それだけは理解できた。だから、僕は黙ってそれに付き合い、彼女が再び時を取り戻すまで待ち続けた。
「それで、さっきの話だけれども」
 再びこちらに戻ってきた彼女は、そういうと悪戯に微笑んだ。
「私となにかが繋がっているような感覚を覚えたってことで、いいのね?」
 僕はまた顔を赤くすると、下を向く。
 ほとんど無意識に吐き出した言葉に対する彼女の解釈は大体合っていた。だがそれを口にされてしまうと、とても笑い飛ばして欲しい考えに感じてしまう。
「私は、嫌いではないわね。その考え方」
「そう?」
 彼女は頷いた。
「繋がっているように感じる、それはつまり、自らの隙間を埋めてくれる人を無意識に探し続けているから感じることではないかしら。“この人がいれば自分は満たされる”という感情が、欲として、転換していく」
「なるほど」
「だから、結局のところ欲することはとても自然な行為なのよ。その繋がりが相手との間に本当にあるのかを確かめたくて仕方ない筈なのに、人は不器用よね。すぐにそれを抑圧してしまう」
 一言で言うのならば、異質、とでも言うのだろうか。僕は彼女がもちだす持論を聞いて、更に彼女に対して興味を強く感じていた。突然会った人物と行っている会話にしてはとても濃い方だと思うし、むしろ普段よりも何倍も実のある会話のように思えた。
 ふう、と言葉を吐きだした終わった彼女は携帯を取り出すと、画面を見つめ、それから荷物をまとめるとゆっくりと立ち上がった。
「ごめんなさい。そろそろ用事だから行くわ」
「本当に突然、申し訳なかったです」
 レシートを手に取った彼女は、にこりと微笑んだ後携帯を僕の視界に入る様に出した。
「連絡先。色々お話しましょう」
「本当に?」
「川原理衣子です。どうぞよろしく」
 よろこんで、と言葉を吐きだすと僕も携帯を取り出し、彼女の携帯に近づけて行く。
 触れるか触れないかの距離で、僕らは情報を交わす。

   ―――――

 僕らが繋がった初めの出来事。それからもっと距離は縮まって行ったけれども、それも所詮はこの携帯くらいの距離だったのかもしれない。いや、もしかしたら初めから僕らは繋がってすらいなかったのかもしれない。
 あの時感じた感覚は、彼女の特異さをきっと表していたのだと、今は思う。
「じゃあ誰が僕の穴を埋めてくれるのさ」
 力なく吐き出された言葉を、僕は噛みしめながら、すっと目を閉じた。

       

表紙

硬質アルマイト+つばき 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha