Neetel Inside ニートノベル
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(稲妻……かまいたち……は、まあ分かるな。しかし空掻きやら枕木渡りやらは何に使うのやら)
「ルーレットを止めるためのボタンをお渡しします。押す瞬間はお好きなときで構いません。とはいえ、止まる位置はランダムに決定されますので、押す行為そのもの雰囲気となります」
 女が言い終えるや否やレビトの目の前に小さな光る板が浮かび上がる。それには『停止』と書かれたボタンだけが付いていた。
「ルーレットによって決定された能力は自動的にあなたの体へ組みこまれます。また一度与えられた能力の削除もしくは変更は出来ません。二つ以上の能力が与えられることもありません」
 レビトは女が次の言を継がないことを確かめると、迷わず停止を叩いた。光る板は瞬間的に消え失せ、代わりにルーレットが表示されている光る板から発せられる光の強さが若干大きくなる。せわしなく動き回るルーレットは赤い枠は二呼吸の間だけそしらぬ顔をして等速で動いていたが、やがて徐々にその速度を下げていった。
「確かにただ能力名を告げられるよりは雰囲気はあるかな。ちと派手だが」
「そうでしょう。苦労して作り上げましたので、そう言っていただけると嬉しいです」
 女の顔は本当に嬉しそうだ。多少不気味ではあるが、お役所仕事のように無表情で説明をされるよりは立ち位置が近くなった分だけよいのかもしれない。
 十分に減速した赤い枠はふらふらと表のあちらこちらをうろついていたが、最後に三度ほど間を置きながら動いた後、完全に動きを止めた。停止した赤い枠の中には『同化術』と表記されている。
 一呼吸おいて表を構成していた光の板が赤い枠と表の上の数字を残して光る粒にばらけた。その様子はカードを還元した時によく似ている。
 それから光る粒は還元の時とは違って一度に少しずつ、帯のようになってレビトの体へ流れ込み始めた。
「能力の擦りこみが始まりました。この作業は少々時間がかかりますので、しばらくそのままでお待ちください」
 女は言葉を区切ると、実に楽しそうな顔をしながらレビトから目を離し、ルーレットに映る能力名を見た。
「さて、これからあなたに与えられる能力は……えっ?」
「……なんだ」
 女の顔は無表情、嬉しそうな顔ときて、今度は狼狽しているように見える。
(なんとも忙しい奴だ)
 と彼が思うのも仕方ないところだろう。
「あー、いえ……」
 女はしどろもどろになって、小声で何かつぶやきながら手元の光る板をいじっている。
「どうした?」
 じれてレビトが少し大きな声で問うと、口元に手をあてて「どうしよう」などと呟いていた女は途端にぴしっと背を伸ばした。
「ええとですね、ごく簡単に申し上げますと、つまり……推奨されていない能力を差し上げてしまった、ということです」
「ふむ」
 レビトはなるほどと言いかけたが、考えてみると事故で推奨されていない能力が混ざってしまったとするなら、ルーレットを動かす前後の悦に入ったような表情はなんなのだろうか。
「しかしもう変更はできないのだろう?」
「その通りです」
「ではとりあえず能力の説明をしてくれ。それからなぜ推奨されていないかもな」
「分かりました」
 女は出てしまったものは仕方ないと割り切ったらしく、憮然とした表情をしながらルーレットと赤い枠を消した。レビトと女のやり取りの間に光の粒は全てレビトの体へ吸収されてしまっていた。
「あなたに与えられた能力は『同化術』といいます。手で触れた物体を身に取り込み一体化してしまう能力で、生物であればその魔法や能力、特技を、非生物であればその特性を使えるようになります。同化しても体の大きさは変わらず、それでいて同化したものの能力だけは相互に干渉すること無く扱うことが出来ます」
「……」
「これは別名『同化の禁術』とも呼ばれています」
「禁術?」
「はい、この世界の国際的な基準で禁止されている能力のことです。おもに自他への危険性が高いものが選出される基準となります。禁術を習得していることが明らかになった場合、収監、もしくは処刑されます」

       

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