Neetel Inside ニートノベル
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「ふーん」
 妙に納得したような反応を示すレビトに、女は毒気を抜かれたような顔をした。生きているだけで犯罪者にされてしまった人間の反応とは思えないのだから当然だろう。
「禁術という呼ばれ方をしているということは、これは本来魔法カードに対する基準なのか?」
「資料によりますと……、能力のほうが先のようですね」
「なるほど、能力が先か。つまり能力に存在するものは魔法カードにも記述できるということだな」
 女はハッとしたようにレビトを見た。どうやら開示する気の無い情報をうっかり漏らしてしまったらしい。
「まだ色々と隠している情報があるようだな。たとえば、さっきは最後と言ったが、魔法カードを作成したり効果を記述したりで消費する何かの説明をまだされていないはずだが」
「なかなか、鋭いですね。確かにご説明していない事柄はまだ山ほどあります。ご質問さえしてくださればいつでもお教えいたしましょう。それからご安心ください。回答にうそ偽りは一切ございませんので」
 女はにっと笑ってそう言った。
「話は必要なところだけ、過不足なくしてほしいな。夜が明けるまでここにいるつもりか?」
「分かりました。ここからは簡潔に参りましょう。まず、能力はご自分が使いたいと思った時にそう念じていただければよろしいです」
 レビトは軽くうなずいて了解の意を示す。
「魔法カードの作成や魔法の記述に消費されるものは、通称『魔力』と呼ばれています。単位はそのまま『魔力』です。三十日でちょうど一単位蓄積されます」
「何を基準にした単位なんだ?」
「ベースカードを一枚作成するために消費される魔力量です。魔法の記述は、その効果により消費量はさまざまですが、最低単位として一魔力消費します」
 つまり小数点以下の消費魔力であっても、必ず繰り上げした魔力消費になるということである。
「時空転移者であるあなたには、初回特典として二百単位差し上げております。参考までに申し上げておきますと、還元もベースカード作成も消費量は一単位です」
「同化術の消費量は?」
 女は、レビトからは確認できないが手元にあるらしい資料を確認している。
「ええと、七百二十単位ですね」
(七百二十、一年あたり十二単位としても六十年分か。現実的ではないな)
 この説明にまだひとつふたつ秘密があることに気づいたレビトだったが、ひとまずここでは伏せておくことにした。質問があれば言ってくれという口ぶりから、この後でも質問をする機会があると踏んだからだ。
「能力、魔法を含めた全説明はこれで以上となります。よろしいでしょうか?」
「ああ」
「ありがとうございます。それでですね、ひとつ提案があるのですが」
 それきた、とレビトは内心予想が当たったことに感謝した。
「しばらくあなたについていってよろしいでしょうか? もちろんこの姿のまま、あなたから以外は見えない幻影としてですが」
「こっちは構わない。まだいくらでも質問するべきことはありそうだし、なにしろ一人旅は退屈だしな」
 女はぺこりと感謝の代わりにお辞儀をした。
 レビトはそれを一瞥すると、手元に残っていたカードを全て収納し、巻物の類を詰めたリュックを背負った。一度跳ねて肩ひもの位置を直した以外は、もうほかに用意もする必要がないと言うかのように顔をひきしめて女を見つめた。
 女はここで初めてレビトの顔をまじまじと見たかのように見惚れた。
 ツンツンと跳ねた栗色の髪が印象的だが、顔じゅうに残ったいくつもの傷、とりわけ無骨な骨格の顎の右端にある痛々しい切傷痕がレビトの辿ってきたであろう尋常ではない人生を物語っていた。少し浅黒い肌、紫水晶のような底の見えない瞳もまた彼に不思議な魅力を与えている。
「わッ、私はグラマ、グラマ・ベナンスと申します。以後よろしくお願いいたします」
 ふと我に返ったグラマはごまかすように大声で叫んだ。
「ああ、よろしく頼む」
 レビトは表情には出さないものの、苦笑したくて仕方がなかった。
(面白い奴だ。退屈はしなさそうだがな)
 グラマがまだ何か言おうとしていないか確認した後、レビトはリュックの右脇、ナイフが刺さっていた方の逆側に手を伸ばした。

       

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