Neetel Inside ニートノベル
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塔から脱出するゲーム
15.私たちの塔

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*                                        *
*   大賢者と呼ばれる者がいた                         *
*                                        *
*   彼女は世界一の叡智と好奇心によって、平行世界の扉を開いた         *
*                                        *
*   数多くある並行した世界。そこから5人の同一人物を呼び出した        *
*                                        *
*   呼び出してしまった                            *
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*   それは悲劇の始まりだった                         *
*                                        *
*   戦士はいついかなるときも大賢者の命を狙った                *
*                                        *
*   魔法使いは食料どころか研究保護対象の生物すら喰い散らかした        *
*                                        *
*   学者は大賢者が生涯をかけて集めた知識を文字通りに貪った          *
*                                        *
*   盗賊はあらゆるものを盗み、私利私欲を満たした               *
*                                        *
*   バニーガールは大賢者の使い魔を強姦しようと機会をうかがい続けた      *
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*                                        *
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*   手に負えない。ついに大賢者は諦め、5人を手放すことにした         *
*                                        *
*   記憶と能力を奪い、それぞれを塔の最上階に、捨てた             *
*                                        *
*   生きては帰れまい。そう思っていた                     *
*                                        *
*   しかし、5人は大賢者の想像以上に強力で、最低で、最悪だった        *
*                                        *
*   さらなる力を手に入れ、脱出したのだ                    *
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*   5人は協合し、大賢者に報復した                      *
*                                        *
*   大賢者と使い魔は塔を手放し、逃げ延びた                  *
*                                        *
*   創造主の塔は陥落した。そして、変わってしまった              *
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*                                        *
*   それが、『私たちの塔』                          *
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*   しかし大賢者は不安だった。いつ世界を掌握されてもおかしくない状況だった  *
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*   大賢者は最後の望みを賭け、平行世界から6人目を呼び出した         *
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*   それが貴女、『救世主』の立川はるか                    *
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*   貴女は今、『私たちの塔』の屋上に降り立つ                 *
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*   私たちの塔「食書狂」                           *
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「あの塔には近づくな」

 誰もがそう言い、誰もがそれを守り、誰一人として近づこうとしなかった。

「大賢者様が、悪魔を封印しているそうだ」

 風の噂が歪んだ真実を伝えていった。



『私たちの塔』

 何が存在するのかわからない。しかし、塔はこの名前で呼ばれるようになった。



 知らぬ存ぜぬ。これからもずっと、そうやって扱われると思われていた。

 しかし、この日。

 最上階に、一筋の光が差し込んだ。



 降り注いだ光は塔を包み込み、そして少しずつ絞られていき、細く、細くなっていった。
 光が消えた。そこに、彼女がいた。

『立川はるか』

 服装、そして取り巻く雰囲気はそこらの町娘と変わりがない。しかし、彼女こそが、大賢者が送り込んだ『救世主』。

「…………」

 彼女は、この屋上を見渡した。
 神経を目に集中し、視界の映像をクリアに、そして通常なら見えないものを透過することで目視する。

 床にはトラップはない。モンスターもいない。
 けれど、遠くには数台のバリスタと、1つの人影。


 バチッ


 バリスタから発射された矢を受け止めた。
 あきらかな殺意。彼女の胸が高鳴る。


 バチバチバチバチッ


 次々に発射される矢、槍、銛をすべて受け止めていく。
 弾切れなのか、バリスタからの攻撃は止まった。彼女は無傷で、それらを受け止めた。

 彼女の目はずっと1つの人影を見ていた。複数のバリスタよりも脅威に感じていたからだ。
 向こうは動かない。なら、こちらが動くだけ。

 進む。大股で、特に警戒することなく、進んでいく。


 パァンッ


「…………?」

 切り裂くような音。それと共に、左手、手のひら。穴が開いていた。向こう側の床が見える。ドバドバと血が流れている。


 パァンッ


「……! なに、これ……?」

 また来た。今度は右肩。見ることはできなかったが、同様に穴が開いているのだろう。
 さすがに足を止めてしまった。が、向こうが近づいてきていた。

 人影が、はっきりと人の形をした。

『いやはや、武器の進化はすばらしい。いや、知識の進化、というべきかな?』

 その人物は語る。

『特に、別世界で拳銃と呼ばれている武器。火薬が詰まった鉄の塊を発射することで対象を殺害する。
 戦士のように金属の棒を振り回すわけでない、魔法使いのように非科学的なものに頼るわけでもない。
 ああ、すばらしい最新技術だ』

 白衣にセーラー服、メガネ。

『でも、古いものすべてを否定しているわけじゃあない。
 例えば、本。これは良い。実に良いものだ。
 こうして』

 むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ!

『食べるだけで知が満たされるようだ。ふふふ、くひひひひひひ!』


 パァンッ


 今度は右膝が撃ち抜かれた。立っていられなくなり、彼女は膝をついた。

「あなたは……?」
『ようこそ私たちの塔へ。私は学者、学者のあなた。
 私たちはあなたと同じ、平行世界の住人。
 どうせ大賢者様が送り込んできたんだろうけど……
 悪いね、もう空き部屋ないの』

 銃口が眉間を狙う。

「……それ」
『ん? 拳銃のこと?』
「鉄の塊を、発射する……?」
『ほう、興味があるの? なかなか見どころあるじゃあないか』
「鉄の塊を、発射。それって……」

 ピキピキピキッ

 左手、手のひら。血が流れるそこに、握りこぶし大の鉄球が発生する。

『て、鉄!? え!?』
「こうして、発射」

 ゴシュッ

『……あ゛』

 弾かれた鉄球は『彼女』の胸にめり込んだ。
 貫通とまではいかなかったが、その衝撃に鎖骨は粉砕、呼吸もままならない状態になってしまった。

『ぐが、ガッ』
「大きすぎた。このぐらいかな?」

 今度は小指ほどの鉄の塊が大量に発生する。

「わー、ちょうどいいぐらい」

 ドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 散弾のように放たれた。そのほとんどが『彼女』に命中する。
『彼女』は言葉なく、床に倒れた。

『なん、なんだそれは……!』
「血液を鉄にした。知ってるでしょ? 血は鉄分豊富って」

 仰向けのまま睨みつけるが、彼女はなんてことない様子で答えた。
 彼女の言ったことは、たしかに理解はできる。だがはたして、人間に可能なことなのか? 魔法なのか? それとも別の何かか? 負けを認め、死すら覚悟している『彼女』は好奇心のままに脳を動かす。

「ところで、さっき言ってたこと」
『……さっき?』
「知識の進化うんちゃらくんちゃら」



「木の本棚や椅子作るときってさ、アレするじゃない? 金槌で釘をトントンとんとん。
 あれってやってみると意外に大変だと思わない?
 でもね、別の世界にはこんな便利なものがあるんだよ」

 がしゃん

 血液から、それが構築される。

「電動釘打ち機。勝手に釘を打ってくれる、便利な道具」



『え、ちょ……』

 倒れる『彼女』に馬乗りになる彼女。
『彼女』の手のひら、それが当たる。

『うそ、ウソ、やめてよ、ねえ! 私たちは』
「うっさいな」


 バスンッ


『ぎゃああああああああああああああああああああ!』
「とんとんとーん。トントントーン。あ、こっちも」


 バスンッ


『ぎ、あがっ、かあああああああ』
「きったない声だなー。とんとんとーん。トントントーン」

 両手を打ちつけられ、暴れることもままならない『彼女』。
 しかし離れる彼女を見て、激痛で気が狂いそうになりながらも安堵していた。

 助かった、と。

「え、助かってないよ?」
『は……?』
「あと、アレも大変だなーと思うんだよね。ドライバーでネジを巻く作業。ぐるぐるグルグル。
 ……ここまで言えばわかるよね?」


 チュィィィィィィィィン!


「高圧ねじ打ち機。勝手にネジを巻いてくれる、便利な道具」
『あ、アッ……』

 それは、『彼女』の脚に向かっていた。

『たすけて……おねがい、なんでも、なんでもするから……』
「聞こえないなぁ。もっと大きな声で、惨めったらしく言ってよ」
『お、おねがいします! タスケテ、助けてくだざ』

 ギュルっ

『うぎっ』
「ぐるぐるグルグルー」

 ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリッ!

 ネジは筋肉繊維を絡みとっていき、骨をたやすく貫通した。

『アアアアアアあああああああああああアアアあうあアアアあああ!』
「ぐるぐるグルグルー。さー皆さんご一緒にー」

 脚を貫通させ、中に挿入したまま横に動かしていく。
 極めて順調に肉を巻き取り、破壊していった。

『アッ、アッ。アッ』
「ぐるぐるグルグルー」


『アッ』


 ぷつりと、『彼女』は動かなくなった。暴れていた身体も、吐き出していた悲鳴も、止まった。

「あーあ、壊れちゃった」

 手に持っていたそれを血液に戻し、体内に流した。
 撃ち抜かれた三箇所の怪我も、いつの間にか完治していた。

「撃たれたときにもうちょっと苦しんで、いい気分にさせておけば良かったかなー」

 興味がなくなった。もはや目を向けることもなく、次のフロアへ進んでいった。





『救世主』、立川はるか。

 彼女は、あらゆる能力が郡を抜いていた。不可能と思われることも可能にできるほどに。
 だが、大賢者は1つ、たった1つ、見落としていた。



『救世主』、立川はるか。

【性癖:猟奇】

     

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*   私たちの塔「人喰人」                           *
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『こんにちは。別の世界の私』

 そのフロアは、入った瞬間から不快だった。
 床、壁、天井。どこもかしこも血痕がべっとりと付着している。
 周囲は肉片や骨がゴロゴロと残っていて、腐臭をぷんぷんと撒き散らしていた。

 だからと言って、彼女は顔をしかめることはない。相対する『自分』の存在にしか興味がなかった。
 真っ赤なローブ、真っ赤な帽子。ところどころに、もっと赤い染み。それが血であることはすぐにわかった。

 むしゃっ

『あなたがここに来たってことは、学者の私は敗退したってわけね。
 あの子の発明はそれなりに評価してたけど……次に期待、てところかな』

 むしゃっ

『あーん、これもちょっと臭ってきたなぁ。モンスターの肉ってどれだけ防腐してもダメなんだよねぇ。
 そりゃあ焼けば長持ちするけど……やっぱり生が一番だしぃ』

 べちゃり

 手に持っていたそれを床に投げ捨てると、液体のように破裂した。
 なんだかよくわからない蟲が湧き出した。

「……あなたは?」
『私は魔法使い。これと言って特技も主張もない、しがなーい魔法使い。
 ちょっと肉食系で、気になった相手のことを喰っちゃう程度の女の子だよ。
 だから武闘派なあなたとは正面からヤりたくないの。
 なのでぇ』

 人差し指を立てる。それを、彼女に向ける、と。


 ボウゥ!


「…………!!!」

 彼女は業火に包まれた。だがすぐに身体を捻って振り払う。
 一瞬でも火を浴びたことには変わりないのだが、その肌、服は少しも焦げていない。

『へえ、今のを逃げちゃうんだ』
「魔法……? 魔法とは、呪文を唱えないと使えないはず。でも、口は動いていなかった」
『んふふ、多少は知ってるみたいだねぇ。感心感心。
 この部屋は、私が最大限に魔力を使えるよう、魔方陣を何十にも張って改造してあるの。
 ここにいる限り私の魔力は底がなく、最大威力で、呪文も必要ない。
 ちょっと念じるだけで』

 バチッ!

「ひっ……あ」

 突然訪れた電撃。足の裏から脳天まで駆け抜ける痺れ。彼女は声を上げ、驚いた。
 それでもやはり、負傷は見られない。

『あれれ? 今のは嬌声? 感じちゃった? バニーみたいに感じたの?』
「そんな、こと……」
『あは、まあ前座はこのぐらいにして』

 ぴき、ピキピキピキッ

「こお、り?」

 足元から競り上がる氷が、彼女の下半身を凍りづけた。それだけではない、木の枝のように伸びた氷が両手すら拘束した。
 まるで鉱石のような強度だった。

『どうかしらぁ、活け造り、なんちゃって
「来ないで、こないで……!」

 どれだけ懇願したところで止まるわけはない。吐息すら感じる距離まで、近づいた。

『こうしてぇ、動けなくなったところをぉ』


 がぶりっ


「あああああっ!」

 彼女の二の腕が喰いちぎられた。

「い、たぁ……腕、腕、が」

 周辺の肉はすべて剥がれ、骨まで露出した。滝のように流血する。
 口に咥えた血の滴る肉を、『彼女』は一気に食す。

『むしゃ、むしゃむしゃ……ん、んんん?』

 目を開き、何度も咀嚼し、飲み干す。

『こ、これはぁ!』


『おいしい、おいしすぎる!
 臭みもなく、硬すぎず、柔らかすぎないこの触感!
 厭味ったらしくない程度に脂が乗っていて、なのにお肉独特の味の存在感も大きい!
 それにこの血液、まるで砂金の飲んでいるみたい……! ああ、酔っちゃう、この美味に酔っちゃう!』


 興奮が抑えられないのか、次は頬に喰いついた。

「だめ、やめて、やめ」

 みしみしと断裂する肌、繊維。引きちぎられたそこは、外から口内が見えてしまっていた。

「や……あっ……」
『ふぁ、はは、うはははははははははは!』


『ああああああ、うまい、うまいうまいうまいうまいうまい!
 なんという感触、食べ応え! 先ほどとは違う、コリコリとした弾力! 
 しかも今度は! 唾液が溢れ出している! なんてねっとりとしてコクのあることか! いくら飲んでも飽きないぞコレ!
 これほど美味い人間は食べたことがない! なあ、お前なんなんだよ!? 人間か!? それとも別の存在か!?』


「いえ、『救世主』です」

 彼女を覆っていた氷が霧散した。そして、『彼女』の目に映らない速度で彼女は『彼女』の後ろに回り、拘束した。
『彼女』からは見えなかったが、喰われた跡はない。完治していた。

『……ゑ?』
「今度は苦しんでる演技をしてみたけど……その様子だと、満足したみたいだね」
『ゑ、え?』

 拘束された驚きよりも、なぜか魔法が使えないことに動揺していた。
 この部屋では、使い放題なはずなのに。念じるだけで発動するはずなのに。この瞬間、相手は爆散して床に飛び散った肉や血をすするはずなのに。

「あのままでも良かったんだけど、やっぱり面倒だったので部屋の仕掛け、破壊しといた」
『破壊……だと……? この部屋作るのにどれだけかかったと思ってるんだ……!?』
「知らないし。でも壊すのは一瞬だったよ?」


「さて、魔法使いさん。
 私は思う。魔法使いや僧侶は、こうして距離を詰められ、しかも魔法も封じられたとき、どんなことを考えるんだろう?
 諦め? 命乞い? 絶望? ねえ、どれ?」
『…………』
「答えてほしいなぁ。じゃないと魔法使っちゃうぞ☆彡」

『彼女』の顔の前で手のひらを開く。するとそれは火になった。激しくはない、ゆらゆらと粘り気のある火。
 その熱と不安、恐怖に汗がどばりと噴き出した。

『魔法と同体化……!? 私ですらそれはできないのに!』
「それは研究不足だよ☆ミ」

 火が降りる。下半身へ降りていく。
 大事なところの前で、止まる。勢いが強くなる。

『そん……すと、ストップ、ストッ』
「こんがりおいしくできるかなー?」


 ジュウウウウウウウウウウウウウ!


『ああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
 あづ! あづ! あああああああ!』

 その熱さから、激痛から、拘束から逃れようとするが、もちろん逃げられない。
 そこから昇る、煙。
 肉の焼ける、香り。
 使い物にならなくなるだろう、そこ。

「こんがりおいしくできましたー。
 おいしーいお肉の焼ける音、匂い。私はどうでもいいけど、自分のでも食欲そそる?」
『はなぜ、はなぜええええ! ぎゃあああああ!』
「がっつり消し炭にしてやるよ」」
『ビぎイイイイイいいいいいいいい!!!!!!!!』

 じわじわと温度を上げていく。
 このまま、灰にするつもりだった。

 しかし、『彼女』のある行動で考えが変わった。

『うっ……!
 ウゲ、おえええっ。
 お゛え゛え゛え゛え゛』

 絶叫は度を超え、声の変わりに胃の中の物を吐き出した。
 そこから溢れるのは、肉、肉、肉塊だけ。

「私の肉に、ゴブリンの肉。あとは……うわ、蟲までいる。なんて悪食な」
『はぁー、はぁー……はなぜぇ、はな、せ、んぐっ』
「あー、そうだー」

 火を解除し、普通の手のひらの状態で口を塞ぐ。

『んぐぅ……』
「喉とかイガイガするでしょう? 胃液、苦いよね?
 うがい、したいでしょう?
 がらがらぺー、したいでしょう?」
『……!?』
「今度は、水」

 手のひらは水に変わった。そして。

『ぐブっ、ぶグううううううううううううう!』

 大量の水は、『彼女』の口内、体内に押し込まれた。
 枯渇を知らない魔法の水はどんどんと身体を満たし、満たし過ぎ、身体を変形させていく。

「あはは、お腹すごーく膨れてるー。たのしー」
『むぐぅ、うぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐ!』

 許容しきれなくなった水は鼻からドバドバと流れるが、それでも追いつかない。
 これ以上は破裂してしまう。そんな限界のところで、止まった

「よーし、たくさん入ったね?
 じゃあ、がらがらぺーしましょうね。さー皆さんご一緒にー」


 ドォン!


『――――!』

 彼女は、『彼女』のみぞおちを殴りつけた。
 痛みや衝撃は、少し遅れてやってきた。

『ウ゛』

「がらがらぺー」
『うゲえエエエエえエエエエえエエえええええええええええええ!』

 体内の水が一気に吹き出された。うがいなどといったレベルではない。臓器すら排出しかねないほどの勢いで吐き出される。
 バシャバシャと、水たまりを作っていく。

『ぐ、べぇっ!』

 案の定内臓にダメージを負ったのか、最後は水よりも血の量が優っていた。

「あーあ、汚い噴水だー」
『死ぬ……殺される……』

 必死に逃げようと床を這う。だが、彼女はもう『彼女』への興味がなかった。
 もう、遊びがいはないと判断したのだ。

『肉、肉を食べないと……』

 むしゃり、むしゃり

『まず、不味い肉だぁ……まずい、マズイ……』

 現実逃避のように自分の指を喰らう。



「つまんなーい。まだ雷と風と土と光と闇と重力と亜空間との同一化もあったのにー」

 手を喰い尽くした『彼女』を無視し、彼女は次のフロアに進む。

     

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*                                        *
*   私たちの塔「私刑執行人」                         *
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 そのフロアに入った瞬間から、彼女はたしかに感じていた。

 ビリビリと、肌を震わせるような殺気。
 常人は立ち入るな、と言わんばかりの威圧感。
 混ざり合った、数多くの種族の血の臭い。

 血の臭いは漂うだけ。しかし殺気と威圧感は確実に彼女へ向けられていた。



 進む。すると、いた。殺気と威圧感を放つ人物が、いた。

『はじめまして、救世主。2人がお世話になったようだな。
 やはり知性派はダメだな。タイマン勝負じゃまるで役に立たない』

 動きやすさを重視した防具。
 持ち主の2倍以上の長さはあるだろう大剣。

「……戦士さん?」
『そのとおり、私は可愛い可愛い怖い戦士。
 みんなは世界一の戦士と言い、私たちは私のことを殺人狂と呼ぶ』

 その身の丈に合わない大剣を片手で軽々と振り回す。空気の切れる音と風圧が彼女の元に届く。



『そうだ、ちょっと昔話しをしよう』



『私はここに来る前、別の塔から脱出したんだ。
 そのままアテもなく、ふらふらと世界中を旅した。
 来る日も来る日も、モンスターや人間を殺してきた。

 殺してきた。
 殺してきた!

 あぁ、楽しかったなぁ。あのころは、本当に楽しかった。
 しかし、だ。私はやりすぎたんだ。気づけば、私の周りに敵はいなくなったんだ。

 あるとき、私は百獣の王を狩りに行った。
 百獣の王と言っても、世の獣どもすべてを束ねる、化物だ。
 私はあえて丸腰で行った。武器はもちろん、衣服も脱いで、裸でだ。
 するとどうだ、その百獣の王ってやつ、どうしたと思う?

 逃げたんだよ。

 私と対峙した瞬間、逃げたんだよ!

 ああ。
 私は絶望したさ。
 もうこの世には、私の敵はいないんだなって。

 そうしていろいろあって、この塔に来た。
 ここにもモンスターはいたさ。雑魚だったけどな。
 私たち……いや、盗賊とも何度か殺りあったが、弱すぎた。
 
 ……このまま、腐っていくんだなと、諦めていた。
 
 しかし、しかし!
 しかししかししかし!

 今日、お前と出会えた!
 ああ、興奮する、興奮するよ!
 この何もない世界で、私はお前という強敵に出会えた!

 この感情は知っている。恋ってやつだな。それもとびっきりの、素敵な恋!

 さあ。
 さあ、やろう、殺し合おう、愛し合おう。

 大好きだ、さあ、殺させ……ろ?』



 言い終わる直前、『彼女』の身体がふわりと浮かんだ。

『お、おいおい。これはいったい』

 じたばたと暴れるものの、宙を切るだけ。
 飛びもせず、着地もせず。ただ浮かぶだけ。

「魔法です。重量を無効化しました。
 私も、昔話しをしてもいいですか?」



「あるところに、剣士がいました。
 その剣士は誠実で、真面目で、努力家で、しかも才能ある人物でした。
 基礎を学び、腕を磨きました。
 気づけば、国の剣士の中で、最強になりました。

 さて、そんな剣士はある日、初めての戦場で死んでしまいました。
 世界的な大戦とかではなく、小さな村同士のいざこざの仲介に入って、死んでしまったんです。
 なぜだと思いますか? どうして死んだと思いますか?

 弓矢です。
 矢に当たって、死んでしまったんです。

 当然、剣士は矢の存在ぐらい知っています。
 しかし、何の対策も講じることなく、剣だけを振り続けていました。
 その剣士は、強さだけを見て、強さだけを鍛え続けていたんです。
 弱さを見ないで、弱さを無視し続けて、矢であっけなく死んでしまったんです。

 それが、今のあなた。

 きっと私とあなたで決闘したら、おそらくいい勝負、もしかしたら、あなたが勝つかもしれません。
 ですが現実はどうでしょうか?
 私はちょっとした魔法であなたの自由を奪いました。あなたはそれに対抗する術がありません。

 勝負あり、です。

 私の勝ちで、あなたの負けです」


『ば、バカを言うな! 勝負だ、勝負しろ!』
「だから勝負はついているんですよ」

 ピィン!

 彼女が放った魔法の光線が『彼女』の身体を貫く。血すら流れず、焼き焦がすように穴が開く。しかし『彼女』は顔色一つ変えない。
 じっと、彼女を睨んでいる。

『それがお前の愛し方か?』
「愛し方ではありません。近距離を得意とする相手のセオリーですね
 身動き取れないあなたを、遠くからネチネチと魔法で攻撃し続けます。
 戦士であるあなたに、私は指一つ触れることなく、戦います。」

 身も蓋もないほどの戦略。それでも『彼女』は睨むことをやめない。

『……耐え切ってみせるさ。魔力が尽きたときからが勝負だ』
「なるほど持久戦ですね」

 ちりちりと両手に魔力が込められていく。

「参考までに言っておくと、私の魔力は無制限、つまり使い放題です。
 なあに、一撃では終わらせません。意識がぎりぎり飛ばない程度の魔法を1秒間に十数発、とりあえず約5分ほど浴びせ続けます。
 どうか、楽しんでくださいませ」





「さて、約5000発ほど撃ち込んでみました、が」

 そこにはボロ布のようなものが浮いていた。避ける動作はするもののやはり自由に動かすことができず、ほとんどの光線を浴びていた。
 もはや身体がふらふら揺れるだけで、自分の意思では動いていない。
 しかし、目は死んでいなかった。

「身体は動かないけれど、戦う意思は萎えていない、と言ったところですかね」
『終わったかぁ……? じゃあ、そろそろ語り合おうぜぇ……』
「これは驚いた。まだやる気でしたか?」
『あたりまえだろう』

 これは一筋縄ではいかない。彼女は悟った。このままなぶり殺しにしたり、一撃で消し飛ばすことは容易い。が、それは彼女のルール内では勝利とならない。
 相手の心をへし折り、絶望と後悔を味合わせる。生死はどうだって良い。これが、彼女のルール。

「ふむ。では、ちょっと趣向を変えましょう」

 無重力が解除された。ぐしゃりと落ちる『彼女』。ようやく愛し合える機会を得たはずなのに、『彼女』は動かない、動けない。剣はしっかりと握っている。それでも、立ち上がることさえできなかった。

「さて」



「あなたのような人種って、自分より強い相手に殺されるときは本望だー、とか、悔いはない、とか、そんなことを考えるんですかね?
 寒いなぁ。萎えるなぁ。結局生きてナンボでしょうが。
 けどまぁ、そんなあなたのために考えました」



 魔法を唱える。すると、何もない空間に大きな穴が開いた。そこからべろりと、1匹のモンスターが吐き出された。
 ゴブリン。それは通常のサイズと比べると、かなり小柄だった。

 動くことのできない戦士は、考えだけを巡らせた。そして行き着く、最悪な予想。

『ぐっ、まさか……!』
「あなたのような強者は、弱者にいいように嬲られるのが最大の屈辱なはず。
 そこで、初心者の塔1Fにいるゴブリンを呼び寄せてみました」

 遥か昔に見たことがあるようなゴブリン。あいもかわらず股間はずいぶんと元気そうだった。
 今となっては何も脅威に感じない。しかし状況が悪い、悪すぎた。

『お前は、本当に触れることなく私を貶めるつもりか……!』
「あは、そう、その悔しがる顔が見たかった。
 悲しいでしょう? 苦しいでしょう?
 雑魚のゴブリンなんかに犯されちゃうんだよ?
 イヤでしょう? うくく、うふふふふふっ」

 ゴブリンは倒れる『彼女』の、下半身に近づいていく。

「さあゴブリンちゃん、その汚い股間のダガー、突き刺しちゃって」
『やめ、やめろぉ!』

 睨んでも、叫んでも、ゴブリンは止まらない。ボロボロだった装備はゴブリンの貧弱な力でもたやすく壊れた。
『彼女』の下半身が露出する。

「ひょっとして処女ぉ?」
『うるさぃ……!』
「……ロストヴァージン、おめでとう」
『黙れェ、あとでたっぷり愛し、ぐっ!』

 濡れていないそこに、当たる。

 そして。


 み゛しっ


『あ゛』

【戦士の『立川はるか』は非処女になりました】

『あ゛あ゛あ゛、がっ…・・がっ!』
「貫通おめでと~」

 歯を噛み締め、顔を苦痛で歪ませる。あれだけの魔法を浴びて顔色一つ変えなかった『彼女』が破顔した瞬間だった。

「攻撃には耐えられても破瓜の痛みは耐えれませんか?」
『くそっ、見るな、見る、あうぅ!』

 がすがすと、激しく腰を打ちつけるゴブリンの動きに言葉が止まってしまう。
 次第に、液体が擦れ合う、淫靡な音が響き始める。

「血……のほかに体液。あららこれは」
『ちが、これは』
「初めての殿方がモンスターで、しかも気持ち良くなっちゃうだなんて。とんだ淫乱ですね」
『違う! くそっ、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!』

 どれだけ声を荒げても彼女にもゴブリンにも届かない。

「さーゴブリンちゃん、やっちゃって」
『あぅ! あ、あ、ふぁあああっ』

 動きとともに、次第に『彼女』の声質が変わる。
 きんきんと鋭いだけの声が、艶めかしく色づいていく。

『あー、やだ、やだぁ、あ゛……あっ、あっ』

 ぴくぴくと身体が震え始める。
 認めたくない。しかし、頭は理解し始め、身体がそこへ向かっている。

 そして、来た。


 びくりっ


 大きく身体が震え、力が抜けた。あれだけ吐き出していた暴言は止まり、荒々しく呼吸をするだけの『彼女』。
 どんな言葉を並べても言い逃れができないほどのオーガズムだった。

「え、あれ? ゴブリンなんかにイかされちゃった? 敵なしの戦士のあなたが、初心者の塔のゴブリンなんかに? 本当に? ねえねえねえねえ!」
『うぐっ……う、ううっ……』


『うえぇぇぇぇんっ、やだ、もうやだぁ……! わぁぁぁぁん!』


 悔しさからか、恥ずかしさからか。子供のように声を上げ、泣き叫ぶ。
 堕ちた。これには彼女も顔を歪ませ笑ってしまう。

「はは、ははは、そう、その顔が見たかった!
 腕に自信のある女戦士が堕ちて行く姿……ああ、たまらない!
 おら、ゴブリン。さっさと射精しろよ!」
『えっ、しゃ……?』
「当たり前でしょーが。子種ぶちまけてナンボだろー?」
『ひっ』

 それが意味すること。
 恐怖しかなかった

『嘘だ、離し』

 ゴブリンの動きが止まる。

『あっ』

『彼女』は、それを感じていた。

『ああああああっ』

 出されている。

「うはっ、当たるといいねー、お母さん。あ、お母さんはまだ早いかー」
『ひどい、はやく洗わないと……きゃっ!』

 ゴブリンが再び動き出した。熱くたぎる肉棒は、まだまだ硬かった。

「きゃっ、だなんて。かっわいー。
 こんな下半身で行動するようなモンスターが1度で終わるとでも?
 最後まで見ててあげるから、さあ、は、ら、め☆」





『おわったぁ……おわりだぁ……』

 あのあと、何度も精を放たれた。精液は水たまりのように『彼女』の下半身を中心に広がっている。
 ゴブリンはもういない。用済みとなったところで彼女が灰にした。

「人生的な意味で終わりなのか、陵辱が終わりなのか。まーどっちでもいっか」
 飽きたから、さー後始末っと」

 再び空間に穴が開いた。そこから出たのは、宝箱。
 箱が開き、十数本の触手が飛び出し『彼女』に巻きついた。

「さー丸呑みやっちゃってー」
『やだぁ……たすけて』
「最後はこれだよねー」
『たすけ、たすけて』

 ぱかっ

 ばたんっ

『はなせ、はなせええええええ!
 くそ、たすけろ、だれでも、いいから!
 あ、ああああ、いたい、いたいいたいいたい!
 ああああああああああああああ!』

「ああ、イイ声」

 ミシッ

『がっ、首、がっ』

 ミシミシミシッ

「ああ、いい音」
『……! …………!』



 メし、ゴきっ!





 ごっくん

     

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*                                        *
*   私たちの塔「肉食兎と恋する泥棒」                     *
*                                        *
******************************************



 音が聞こえた。トン、トンと、2回。『彼女』はすぐにそれがノックだということに気づき、返事をした。
『入っていい?』
 開いたドアから見えたのは『彼女』。薄着でボーイッシュな服装でバンダナで顔半分を覆っている、ずいぶんと個性的な出で立ち。華奢には見えるが無駄な肉付きはなく、特に脚はきゅっと引き締まり、カモシカを連想させた。
『いらっしゃい。さあ、どうぞ』
 返事をした『彼女』は、先ほどまでうだうだごろごろとしていたベッドから身体を起こし、ベッドに腰掛ける。そして、すぐ隣をポンポンと叩いた。
 ここに座って。仕草だけで伝えるお誘い。その後にサイドテーブルに置いていたうさ耳をつけて乱れた服を整える。
『うさ耳、取っておけばいいのに。くつろげるの?』
『これが私のステータスアイテムだから』
 2人は隣り合って座った。その間に隙間はない、ぴたりと密着し、触れ合う。
『どうしたの? ……あ、野暮なこと、訊いちゃった?』
 そう言って手を『彼女』に伸ばす。脚と同様に締まった腰。『彼女』は『彼女』の腰に触れるたび、思う。世界は違えど同じ自分なのに、どうしてこうも体型が違うのか。別に自分の体型が嫌というわけではない、メリハリのある身体は自慢ではあるし、それこそ武器でもある。
 隣の『彼女』は自分とはまったく違う。まるで少年のような身体。だから、だからこそ、ドキドキとしてしまう。
『……ごめん、ちょっとマズいことが起きてる』
 腰を這う手をやんわりと手で覆う。いつもなら腰から胸、胸から首筋へとむず痒い心地良さと言葉では表さない愛情を伝えてくれる。今日も、本当ならそれらを感じ、愛され、愛するはずだった。肌を重ね、体温を浴び、吐息と汗と囁きを交わすはずだった。
『マズいこと?』
『侵入者が現れた』
『あらまぁ、ひさしぶりね。今度は何人?』
『1人』
『なぁんだ、たった1人か。今回はどこまで行ったの? 学者ちゃんのトラップぐらいは回避できたのかしら?』
『やられた』
『……え?』
 力を込めて、手と手で押し合いをしているところだった。しかし『彼女』の言葉に『彼女』はやめてしまった。
 にわかに信じがたいことを聞いた気がした。
『やられたって……死んだってこと?』
『そう。しかも3人』
『3人って……あのイかれた3人が!?』
『彼女』は殺人鬼、食人鬼、そして本を食べる人外を思い出した。たとえ『自分』でも決して相容れない性格と性癖の3人。極力接触を避け、可能ならこれから先永久に顔すら見たくない(『自分』なので同じ顔だが)と思っていた、あの3人。
 しかし、こと戦いに於いては信頼できた。誰か1人でも一個小隊は相手にできたはず。それなのに、たった1人の侵入者に全滅してしまうとは!
『あいつら、まるで歯が立たなかった。次元が、違いすぎる……』
『そんな……い、いまはどこにいるの?』
『私のフロアを順調に抜けてる。可能な限りトラップを仕掛けてきたけど……時間稼ぎにしかならない』
『時間が稼げるならあの3人にも多少は期待できるけど……』
 それでも勝てるのか? 『彼女』は不安を掻き消そうと策を練る。
『どうしよう……怖い、怖いよぉ……』
 一息ついて恐怖が押し寄せたのか、『彼女』はくたりと『彼女』に抱きついた。震える腕を回し、震える身体を押しつけて、涙でにじむ視界を隠すように顔を胸に埋めた。
『彼女』は、『彼女』の身体が好きだった。それは毎夜交わす行為の他に、なぜか母性的な安らぎを感じることができた。同じ自分なのにどこかが違う『自分』。柔らかくていい香りのする身体。だからこそ、そんな感情を向けるようになったのかもしれない。
『大丈夫……考える。何か、いい方法を』
 強く抱き返し、何度も頭を撫でる。このまま押し倒して犯してしまいたい。深刻な事態にもかかわらず主張の激しい性癖に自己嫌悪してしまう。
『……うん、これなら、いけるかも』
『彼女』の肌の温もり、自分の本能を振り払い、『彼女』は起死回生の一手を閃いた。
『アレ、使いましょう』
『……アレって、まさか』
『そう。もう、それしかない。あとはタイミングだけ。そうね……1秒、いえ、2秒、無防備な状態を作る。だから……お願い』
 これほど弱気な『彼女』を見たことがあっただろうか。いつも自信に満ちていて、優しくて、意地悪な、愛する人。“お願い”もいつものように半強制的なものではなく、懇願だった。
『…………』
 震える手、身体を奮い立たせる。涙を拭い、『彼女』の目を見る。
 そして、言う。
『1秒。それで、大丈夫』
 声が震えてしまった。恐怖に打ち勝てなかった。
 それでも。
『ありがとうっ』
『彼女』は満面の笑みで、『彼女』を押し倒した。

『ここは抱き締める、じゃないの?』
『もー我慢できない。だってさっきから誘ってたでしょ?』
『どこにそれを見出した!』
『身体がね、温かくて柔らかかったの』
 口を覆うバンダナを取り払う。小さくて、ふにふにと柔らかそうな唇を見た瞬間、体温が上がった。
『そんな無茶く……んんっ』
 長くなりそうな文句をキスで塞いだ。
『んちゅ、ん、んっ』
『……、…………っ』
 触れるだけでなく、舌で口をこじ開け、絡める。『彼女』は無抵抗にそれを受け入れる。何も特別なことではない。毎夜の、始まりの合図でもあるからだ。
『ぷはっ』
『……んもぅ、今日、激しいね』
『あら、いつもは平凡なのかしら?』
『そういうわけじゃないけどさっ』
『彼女』は頬を膨らます。そんな拗ねた『彼女』がたまらなく好きだった。だからついつい意地悪をしてしまう。
 いつもならそのまま、服を脱がせ合う頃合いだった。しかし『彼女』は『彼女』を起こした。
『え、終わり……?』
『大仕事があるのに、腰砕けにしちゃあダメでしょう?』
『そうだけどぉ……むぅ』
 やっぱり拗ねる『彼女』を、にまにまと笑いながら手を握る。
『大丈夫。全部終わったら……何日か、監禁してあげるから』
『……! いま、“魅了”使った?』
『使ってないけど? マゾっ気が出てきただけじゃない?』
『む、むぅー!』

     

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*                                        *
*   私たちの塔「私たち」                           *
*                                        *
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『ウェルカム。私たちの塔へ』

 そのフロアは真っ暗だった。しかし一点だけ、ぽっかりとライトが灯っていた。
 そこには、うさ耳をつけた『自分』。

『はじめまして。私はバニーガールのあなた。僭越ながら、司会を務めさせていただきます』
「…………」

 反応に困った。

『このゲームはまもなく終わり。長く感じた人にも、短く感じた人にも、平等な終わりがやってきます。
 結末は、どうあれ』
「…………」
『楽しんでもらえましたか? そうであれば幸いです。物足りなかったですか? そうであればあなたは私たちの創造主よりも優っています、おめでとうございます』
「……何が言いたいの?」

 ようやく彼女は口を開いた。いい加減付き合い切れなくなった。

『あなた、ゲームってやったことある?
 たとえば、勇者が魔王をやっつけるゲーム。
 たとえば、下水道を整備する主人公が亀の王様をマグマに突き落とすゲーム。
 たとえば、勇者が魔王になって主人公たちを殺そうとするゲーム。
 ……さて、これらに共通することは?』
「殺し合い」
『正解だけど不正解。答えは、ゲームオーバーになってもやり直しがきくってこと』

 彼女は理解ができなかった。彼女の価値観では、死んだら終わり、だったからだ。

『ゲームはね、死んでもやり直すことができるの。そして、主人公たちは敵たちをやっつけるまでやり直し続けて、いずれハッピーエンドを迎えるの。
 ……ああもう、言う、言うわ』



『私たちが主人公で、あなたが敵、なの』



「私が、敵?」
『そうよ。あなたが敵、私たちが、主人公。
 ……ほうら、やってきた。主人公たちが』



『まったく、待ちくたびれたぞ……いや、恋焦がれた、だな。
 さあ、今度こそ、愛し合おう』

『立川はるか』は大剣を振り回し、構える。



『恋焦がれたなんて、情熱的ね。でもそれは違う、これはリベンジよ』

『立川はるか』は溢れ出る涎をぬぐい、両手に魔力を込める。



『まあなんでもいいけどね。私はあなたに興味が湧いた。バラバラに分解して研究したい』

『立川はるか』は本を丸かじりにしながら、銃を構えた。



「…………?」
『ふふふ、そう、そういうこと。これが、やり直し。
 あなたは強い。でも、ダメージを与えることはできる。つまりいずれは殺すことができる。
 さあ、今度は勝てるかしら?』



『さて、みんなぁ。使うことがないと思っていたあの言葉、言うわよぉ。
 せーの!』



『『『『さあ、私たちが相手だ』』』』

     


 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

『信じられない……』

 バニーはその光景に目を疑い、肩を落とし、泥のようなため息とわずかながらの賞賛の言葉を吐いてしまった。

 戦士、魔法使い、学者。性格、性癖は最低、しかし戦力は保証済み。過度な期待はしていない、同時に仕掛ければ約束の1秒ぐらいはどうにかなると思っていた。

 バニーの思惑は、すべて裏切られた。

『最高戦力が5秒も満たないなんて……』

 啖呵を切り終わった瞬間、彼女は雷と同化し魔法使いに降り注いだ。魔法使いは防御することなく灰になった。
 この不意打ちに学者は動揺し、硬直してしまった。戦士は剣を振りかざし、勢いにまかせて凪いだ。が、彼女は素手であるにもかかわらずそれを軽く流して手刀で戦士の首を跳ね飛ばした。
 残った学者はそんな2人の無残な死に絶望したのか、手元の拳銃を咥え、発砲。戦うことなく、自ら死を選んだ。

「同じ人間いじめても同じ反応しかしないんだよね。だからさっさと退場してもらったよ」

 あまりに圧倒的だった。まるで飽きたおもちゃを捨てるような温度で、3人が殺されてしまった。

『あらまぁ、困っちゃった』

 だが、切り札はまだ使っていない。軽い口調で平静を装う。もちろん内心はそれどころではない。恐怖のままに叫び、逃げ出し、命乞いしたいぐらいだった。
 それでも、約束のため、バニーは対峙した。

「1人になったけど、どうする? まるで脅威を感じない、つまらなさそうだし見逃してもいいけど?」
『本当に? 嬉しいなぁ……と言いたいところだけど』

 貧弱なことは自覚していた。それでもさすがに、頭にきた。

『ちょぉっとバカにしすぎじゃない?』

 ダーツを取り出す。もちろん放ったところで当たるはずがない。仮に当たったところでダメージも期待できない。
 狙いは、彼女の視線だった。ダーツを目の前で構え、注意を引く。

 それは成功した。まるで睨まれたカエルの状態だったが、確かに目が合った。

『あは、やっと見てくれたっ』



『魅了(チャーム)!』



 沈黙。それを破ったのは、彼女だった。

「……ん? 何かした?」
『こ、効果なし? ショックぅ……これで堕とせなかった子いなかったのにぃ』

 唯一の攻撃は少しも効果がなかった。予想していたこととはいえ、ショックだった。

「今のが全力?」
『ええ、全力。やっぱり敵わないなー』

 けれど問題はなかった。むしろ成功だった。まるで意味がないようでも、1秒、たった1秒、興味を引くことができた。
 約束を、果たせた。



『1秒、作ったよ』



『ありがとう、信じてた』



「……!?」

 背後に突然湧いた気配。突かれる短剣。身体をひねって回避するものの、わずかに擦れ、うっすらと肌に傷がついた。
 そんな少しの傷で、短剣は効果を発揮する。


【救世主の『立川はるか』は即死の短剣の効果により、死亡しました】


 力なく崩れ落ちる彼女。それを見た盗賊は、安心と恐怖からの解放で、へなへなとその場に座り込んだ。

『やっ、たぁ……』

 すぐにバニーに駆け寄りたかった。しかし腰が抜けてしまっているのか、動くことができなかった。

『やったやった! やったじゃない!』

 動けない盗賊の代わりにバニーが駆け寄り、抱きしめた。うさ耳が外れることも気にせず、ぐらんぐらんと盗賊の身体を振って喜びを表現する。
 盗賊は、3人が敗北するところ、愛しのバニーが危険をかえりみず対峙したところ、そのすべてをただただ気配を消し、バニーの挙動と彼女の隙だけを伺っていた。

 1秒、隙を作る。それだけを信じて。

『がんばったわね、いい子、いい子ねぇ』
『頭撫でるのはわかるけど……あの、手が、ぁん』
『胸、ドキドキ鳴ってる。私も、どきどきしてきた。ねえ、食べる。食べたい。食べさせて?』
『へ、部屋まで我慢してよぅ』
『ダーメ、うへへへへっ』

 こうなればバニーのペース。盗賊の抵抗を押しのけ、身体をべたべたと触る。盗賊は嫌がりながもそれを受け入れる。





 非情。
 あまりに非情な『システム』が発動する。



【救世主の『立川はるか』の残機を1消費します】



【復活します】



「いい連携だったよ」

 ゆらりと立ち上がる彼女。そんな彼女に、2人は現実を疑い、絶句してしまった。

「最後まで気配を感じさせなかったところは評価しよう」



「あなた方は、ゲームというものをわかっていない。
 ごく一部の極悪ゲームを除いて、残機という概念がある。
 1度ぐらいミスって死んでも、それが残っていれば復活できる。
 私も、それ。712ある残機のうち、今回の凡ミスで711になっただけのこと。
 さて。
 どちらが主人公っぽい設定かな?」



『ま、守る、私が、ぜったい、守るから!』

 711の残機、命。もはや絶望しか与えない言葉。
 それでも盗賊はなけなしの勇気を振り絞り、バニーと彼女の間に割って入った。即死の短剣はもうない。普通のダガーを構える。全身が震えている。勝てないことぐらい気づいている。
 それでも守りたかった。バニーを、守りたかった。

「それは無謀ってものじゃあないのかな?」
『……でっ! でもっ、でもっ!!!』
『1人でカッコつけないでよ……私だって……2人で、戦いましょう』

 うさ耳を付け直し、ダーツを構える。

 2人は並び、彼女に相対した。



 彼女は疑問だった。
 目の前のゴミ虫2匹が自分と戦おうとすること……ではなく、やりとりに大きな疑問を感じていた。

 聞けば、死ぬと巻き戻るという。現に他の3人は殺したにもかかわらず復活していた(バニーが言っていた“主人公”とやらの特権だろう)。
 それなのに、この2人は死ぬことを恐れている。いや、自分ではない自分が殺されることをとても嫌がっているように見えた。

 なにかカラクリがあるのだろうか。他の3人を見ている限り考えにくい。あの3人は特に気にしていなかった。
 3人と違い、この2人は巻き戻りが発生しないのだろうか。が、それは不自然。しっくりと来ない。

 何か、ある。

 他に理由がある。



「……ほほう」

 2人の様子を見て気づいた。
 単なる仲間意識ではなさそうだ。何かその先に、別の感情がある。

「もしかして、あなたたちってツガイ?」

 返事はない。しかし沈黙は金、正解を見て良いだろう。

 彼女の感情が爆発した。

「んふ。
 んふふふふふ。
 うくくくくくくくくくっ。
 あはははははははははははははははははははは!」

 楽しくてしかたがなかった。

『……』
『…………』
「どっちかなー。どっちがいいかなー?
 見るからに攻めっぽい、うさ耳お姉さんか。
 惚れている側だろう、初々しい子か。
 うーん、悩むなぁ」

 2人は気づいた。
 彼女から敵意や悪意、殺意は消えた。その代わりに生まれた感情。

“楽しい”

 その“楽しい”という感情は覚えがあった。

“ちょっとした遊び心で昆虫を殺してしまったときの、楽しさ”



「さーて、どうしよっかな」」



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*                                        *
*   ◆どちらにしますか?                           *
*                                        *
*     肉食兎                                *
*                                        *
*     恋する泥棒                              *
*                                        *
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*   ◆どちらにしますか?                           *
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*     肉食兎                                *
*                                        *
*   ―>恋する泥棒                              *
*                                        *
******************************************



「そっちの子にきーめた。よろしくねーお嬢さん。
 それじゃ、バニーさん。ちょっと浮いててね」

 すぅっと、指を上げる。するとバニーの身体がふわりと浮いた。
 戦士のときと同様の、無重力。

『わ、わわわっ』
『バニー!』
「おっと、キミはこっち」

 浮かぶバニーを抱きとめようとする盗賊。しかし彼女は羽交い絞めにし、それを阻止する。
 彼女の能力を持ってすれば魔法で一撃、打撃で瞬殺、絞め落とすことだって可能だった。しかしあえてそれはしない。このあとのお楽しみのために。

『はなせ! バニー、バニー! 今、助けるからね!』
『私は大丈夫だから……だから、落ち着いて』
「うさ耳お姉さんは冷静だなぁ。今どちらがピンチか、ちゃんとわかってらっしゃる」

 そこまで言われ、盗賊は肝を冷やした。自分の状態を、理解できた。呼吸のように当たり前に殺せるほどの、彼女。そんな彼女を密着している。本当に一捻りでねじり殺されてしまいかねない。

「さて。この状態でキミはどうするのかな?」
『くっ……』
「私は多くの選択肢を持っている。
 このままバニーを殺すことできる。
 もちろんキミを殺すことも容易い。
 2人とも殺すのだって針に糸を通すよりも楽だ。
 どれ、選ばせてあげよう」
『バニーを! バニーだけは……助けて、あげて……』

 悲痛な声。盗賊のその声色が、本気さを物語っていた。

『盗賊……』

 バニーはどうすれば良いかわからなかった。もちろん盗賊の言葉、本心はとても嬉しい。しかし彼女相手には逆効果としか思えなかった。裏切り、絶望させることに悦びを感じるタイプには、決して言ってはいけないような言葉だった。
 バニーは、自分の命を諦めていた。あとはどうすれば盗賊を救えるか、それを考え始めていた。

「ああ、素晴らしきかな、恋人同士よ。まあまあ最後まで話しを聞いてよね。
 事と場合によっては、2人共、見逃してもいいんだよ?」
『え?』
「なに、ちょっと条件を守って私と遊んでくれればいいだけ」



「条件1。盗賊は私の命令に絶対服従。守れなければバニーは即殺害。
 条件2。バニーは私たち2人から目を離さないこと。守れなければ盗賊は即殺害。
 条件3。2人は心が折れないこと。守れなければ2人共即殺害」



「さ、どする?」
『やる! 私はやる! ……バニーは?』
『…………』
 即答する盗賊。一方バニーは、彼女の意図に気づいてしまった。自分の持つ『異常性欲』という点から、それらの条件からどんなことが起こるかを理解してしまった。
 彼女と目が合う。ニタニタと笑っている。

 もし断ってしまったら、死ぬことは確実だろう。ただ死んだところで結局巻き戻る。けれど盗賊の意思を裏切ったことになる。
 それは巻き戻っても残ってしまう、傷。それは避けたかった。

「さあさあどする?」
『する……します』

 バニーの返事に満足し、彼女は盗賊に向かって両手を広げた。

「さ、おいで」

 盗賊もわかってしまった。これから何が起きるのかを。
 それでも条件を守らなければならない。死んでも巻き戻るけれど死なせたくない、その一心。

『……っ』
 すっぽりと彼女の腕の中に埋まる。愛しいバニーとはまた違う感触、温度に、嫌悪と吐き気しかなかった。
「嫌そうな顔。でもね、知らないかもしれないけど、そんな顔が一番の見たいのよ?
 ふふ、じゃあ次は……目を閉じて」
『…………』
 盗賊は、ゆっくりと目を閉じた。身体は震えている。
「あは、いただきまーす」
 楽しげに、そして妖しげに、そっとキスをした。

『…………っ!』

 バニーはその光景に、ただ拳を握り締めるしかできなかった。いつもなら自分のいる場所に、得体の知れない自分がいる。気が狂いそうで、発狂しそうだった。
 だが、目を離すわけにはいかない。条件以上に、愛しい盗賊もがんばっている、戦っている。その姿から目を逸らすわけにはいかなかった。
『んあ……』
「……ふぅ」
 ねっとりと、混ざり合った唾液が2人の間に落ちる。警戒し、頑なだった盗賊の顔にはうっすらと赤みが差し込んでいた。
「可愛い顔。冷たい表情ほど溶かしたときがそそられる。これが、あのバニーさんにだけ見せている顔なのね」
『やめてよぉ……』
「あふふ、いいなぁその反応。いじめられっ子の才能あるなぁ。やっぱり調教とか教え込みってのは“魅了”だとか薬なんて使わず、主人の手腕だけで堕としてこそだよね』
 誰に言うわけでもないことをつぶやく。そのまま。盗賊の胸に触れた。
『ひゃんっ』
「胸、小さいね。同じ自分でも、個体差はあるのかな? 私は、まあそこそこだけど……あちらのバニーさんなんて、あんなにムチムチしてるのに」
『あっ……』
 バニーの視線に気づいた。目が合ってしまった。悲しげな様子で、両手付近には赤い球が浮いている。それが握りしめた拳からにじんだ出血ということに、盗賊は気づかなかった。
『ば、バニぃー……違うから、ね……?』
『私は、大丈夫だから……心配しないで……』
「いいよぉ、盛り上がってきたよー。さあご対面、ちゃんと向き合ってね」
『あ、アアッ』
 再び盗賊を拘束する。後ろから抱き締め、バニーと対面するように体勢を変えた。
 目を逸らすことができないバニー、命令を破ることができない盗賊。2人はじっと目を合わせた。
「伝わってくる……罪悪感、悲しみ、怒り。なんて甘美なんだろう。マイナスの感情、たまらないっ」
『きゃっ』
 彼女の手が胸と、下半身に伸びる。ずりずりと、服を乱す。
『やめ、だめっ』
「ほら、向き合いなさい」
『くっ……』
「返事は?」
『……はい。あぅ、やぁ……』
「ちょっと触っただけでそんな甘い声出しちゃって……しっかり開発されてるんだね」
 服の上から触れていた手は大胆にも中に侵入した。つやつやとした健康的な肌と、控えめながらたしかに膨らんでいる胸を捉える。
 もう片方の手は、ショートパンツの上から大事なところを何でも撫でている。
「ほら、バニーさんはどんな顔してる?」
『……あァ』
 なるべく見ないようにしていた。しかし、見ざる得ない状況になってしまった。
 盗賊は怖かった。知らない相手に喘がされている自分に、失望されることが怖かった。

 それなのに。

 バニーは。



 にこり。



 微笑んだ。優しく、いつも情事のあとに見せる笑みを浮かべていた。
 悲痛な色は隠しきれていない。だが不安にさせないように、せめて笑みを向けよう。そんな痛々しい心遣いを盗賊は感じ取った。
『笑ってる。バニー、笑ってる。えへへっ……』
 盗賊も笑みを返した。身動きが取れず、命令に逆らえない状態で、精一杯できることだった。

 彼女は良い気分ではなかった。怒りやら悲しみやら憎悪や嫌悪、歪んでいく2人の絆を愉しめると思っていたのに。期待が裏切られてしまった。

「あんま調子ノるんじゃねぇよ。それとも余裕があるのかな? じゃ、そろそろこちらを」
『ふぁっ!』
 股間をまさぐっていた手が、入ってきた。
「ぬるぬる。やーらしー」
『ううっ、あっ、ああア!』
「すっかりほぐれちゃって。」
『アア、ヤだ、あつっ、ふわああああ!』
 甘い声。聞き慣れているはずの声なのに、バニーの心がざわつく。
『ゆび、ゆびがぁぁぁぁぁぁ』
「きつきつだね。んん、あついなぁ」
 彼女の頬も赤い。そんなケはないものの、シチュエーションと盗賊の反応から興奮していた。
「さて、と」
 彼女は、盗賊を突き飛ばした。床に崩れる盗賊。その腰を持ち上げ、四つん這いにする。
 そして。


「擬態 (トランスフォーム)」


『う、ウソ! やだ、ヤダヤダ、やだ!』
 暴れる盗賊を押さえつける。そしてショートパンツを下ろす。
 ビクビクと脈打つそれを、押しつける。
『盗賊!』
『ば、ばにぃ』
「うっさいなぁ。じたばたすんなよ」

 ぷつっ

『ウ、あ』

 ず、い

『ああああアアアア』

【盗賊の『立川はるか』は非処女になりました】

『あ、あ』
「え?」

 口をぱくぱくと開閉し、激痛に涙する盗賊。意外な感覚に彼女は目を丸くした。

「あら、あらあらあら、処女、処女だったの?」
『…………っ!』

 バニーは唇を噛み締めた。歯が食い込み、血が流れ浮き上がる。

『ごめん、ごめんね、バニィ……』
「ごっめんねー、はじめてもらっちゃったー」
『うぐ、あぅ!』

 打ちつける。ただ自分が昇りつめるためだけの、思いやりのない動き。

「バニーさん、使いやすいようにほぐしておきますね。
 ……はっ、ああ、イきそ」
『やだぁ、中はダメぇ……!』
「ああ、イク、イくいクイク!」


『あっ……』


 体内を暴れる熱。
 取り返しがつかない感。
 愛する人を裏切ってしまったという後悔。

「ふー。おつかれさん」

 抜くと、そこからごぽりと精液が溢れ出る。
 盗賊は床に崩れた。

「はてさて」

 バニーを見た。
 周囲には、血で赤い球、涙の透明な球がふわふわと浮かんでいた。
 しかし、それでも笑みをやめていなかった。

『盗賊……私、ちゃんと、見てたよ……』

 そして、盗賊は。

『バニー……えへへ、私も、がんばったよ』
 折れていない。処女を散らされたにもかかわらず、折れていなかった。

「…………」

 彼女はバニーにかけていた重力の魔法を解除した。バニーは盗賊に駆け寄る。彼女のことなんて、見ない。

「あーあ……つまんない……」

 抱き合う2人に背中を向け、彼女は進む。





「認めてやるよっ……貴女たちの、勝ち」

       

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