Neetel Inside ニートノベル
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 放課後、教室内は朋也のことはまるで無かったかのような和気あいあいとした空気が漂っていた。でも別にみんなが冷たいわけではない。ただ子供だから適応能力があるとか、いつまでもどんよりした空気が漂っているのは耐えられないとか、たぶんそんな感じだろうと思う。


 一緒に帰ろう、朋也――


 そう言いかけて隣の席を見た。ポツンと一つあいている席の上に花瓶に生けた花が咲いていた。なんの花かは分からないけど、いいにおいがする花だった。それを見ると、急に朋也が死んだことを実感した。もう一緒に帰れないんだな。そう思うと泣きそうになった。ここに居ると泣くのを我慢できそうにないので、荷物をまとめるとすぐに教室を出て行った。
『一人で帰るのか?』
 声の主がそう聞いてきた。痛いところを突いてくるなこいつは。
(う、うんまあ。よるところもあるし……)
『ボッチなのか』
 その通り、なんて死んでも言えない。隠すことでもないが英正は学校で話せる人は担任の山下先生と朋也くらいという悲しい学校生活をエンジョイ(?)している。そして、朋也が亡くなった今、英正は本当にボッチだ。いじめられているというわけではない。ただ、友達ができない。話しかけてくる人がいない。きっと自分にコミュニケーションをとる力がないのだと思う。
(違うわ! ただ一人で帰ろうと思っただけだよ!)
 少し強がった。我ながら見苦しいと思う。
『はいはい。で、どこに行くんだ?』
 声の主はあきれた感じで言った。
(……図書館)


 ~そして~


 学校から自転車で十分ほど走らせたところに、目的地の住江町立図書館がある。あまり大きくないが、他地域の図書館と共同体を組織しているので注文すれば数日かかるが大抵の本は借りられる。
 友達はいないし、部活や習いごとにも入っていない英正は高校に入ってから放課後は朋也と帰らない限りは大抵ここにやってくる。
「お、高校生! また来たのか。暇だな」
 受付のお姉さんに声をかけられた。いつも来るのでついに顔を覚えられてしまった。ここでバイトしている大学生で、よく「暇だろ?」の一言でバイトを手伝わされる。そのかわり貸出期間を延長したりしてもスルーしてくれるので助かっている。
 「どうも」と軽く会釈して本棚の方へ向う。声の主に『隅に置けねえなおい』とおっさんみたいにからまれたが無視した。
 適当に本を漁る。面白そうなのがあればラッキー、なければ残念。見つける作業だけで一、二時間たっていることはざらにある。
 丁度小説の棚を漁っていた時だろうか。
『お、なつかしいもんがあるな』と声の主が言った。その時英正が持っていた本は「名前のない声」という題名だった。作者は角田 治(つのだ おさむ)という人だ。
(ん、なんだよ。これ読んだことあるのか?)
『いや、読んだというか。オサムは俺が前に付いてた奴なんだよねー』
(マジかよ)
『ああ。マジマジ! すげえだろ』
 英正はまじまじとその本を眺めた。「名前のない声」か……。ふと思った。もしかしたらこの「名前のない声」というのは声の主のことなのではないだろうかと。
(なあ、この本の元ネタってお前?)
『あー、うんまあ。少し照れるけどな』
 やっぱりか。だとしたらこの本にはこいつのことを知る手掛かりがあるかもしれない。英正はその本を右手に持つと急いで受付カウンターに向かった。

 

 
 

       

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