朋也が死んで一週間がたった。クラスでは朋也がいないことが早くも日常になってきていた。
 チュウ太と初めて出会ったあの日以来、【そいつ】は英正前には姿を現してはいない。今はこのまま何もなく忘れたいのが半分、復讐したいのも半分。中途半端なのは自分が弱虫だからというのは良く分かっている。これは忌まわしい事件だった、それで終わりにしたい。でも、英正は復讐できる力を手に入れてしまった。これを復讐するために使うかは、まだ考えている。
 それを考えている時、よく朋也の言葉を思い出す。


「俺がヒーローだったら、きっと助けてやるのに!」


 よく学校の帰りに言っていたっけ。朋也がオメンダーだと知った今となればとんだ茶番だったわけだが、チュウ太という力を朋也のように人助けに使う。それもありかなと思う。でもいつもその後を考えて面倒くさくなって止めてしまう。いつまで続ければいいのかとか、具体的に何をすればいいのかとか。
 学校はもう楽しい場所では無くなった。ただ授業を受けるだけ。遊びに誘う奴も昼食を一緒に食べる奴も、ましては授業中の組み分けとかで組んでくれる奴もいない。唯一の救いはチュウ太という存在があることだけ。話し相手がいる。これだけのことで救われることは意外と多い。
 そして、今日もつまらない一日が始まる。


 朝、教室に入るとにわかに生徒が活気づいていた。何かあるのか、はたまたあったのか。ともあれ朋也が死んでからこれだけテンションの高い教室の空気は久々だった。
『んー、おい。何があったか聞いてみろよ』
 チュウ太が英正に促す。
(いや……いいよべつに。興味ないし。それにこれだけ騒いでるんだからそのうちわかるだろ)
 ところがどっこい、興味はとてもある。ただ、聞く友達がいなだけだ。
『俺は今知りたいの!!! ほら教卓の前で固まってる男子グループとかさ、あそこらへんに聞いてみようぜ!』
 教卓の前ではクラスの中心的男子グループが興奮しながら談笑していた。ときどき卑猥な言葉も聞こえる。
(遠まわしに死ねって言ってるだろ、お前)
 その英正の言葉を聞くと、チュウ太は大きく「はあ」とため息をついた。
『お前さあ、いつまでもボッチってわけにもいかねーだろ。小さいことでも切っ掛けになるもんなんだぜ?』
 心配してくれているのは嬉しい。でも有難迷惑だ。正直あまり話したことない人と話すのは恐怖以外の何物でもない。そんな思いまでして無理やり友達を作ろうとも思わない。それに、英正にはチュウ太がいる。寄生虫が友達だというのは不本意極まりないが、それで充分だと思った。
「はい! 席についけー」
 担任の山下先生の声で朝のホームルームが始まる。教室内も自然と静かになっていった。
「センセー! 転校生来るって本当ッスカアアアア!?」
 クラスのお調子者の鈴木が興奮気味に叫ぶ。そうか、そういうことだったのか、と一人納得した。いや、一人と……一匹? 一体? まあどうでもいいか。
「落ち着け鈴木。今からそれを話すから」
 それを聞いた瞬間、生徒達がわっと盛り上がった。それを見て先生は苦笑いをしていた。
『俺もとにかくさけぶぜ! うおおおおお!』
(うるさい)
「ほれ、みんな落ち着け。……本当なら一週間前に来てもらうつもりだったんだが……まあ言わなくても分かるよな」
 また教室内は元の静けさを取り戻した。ああ、まだみんな朋也のことを覚えているんだな。いや当たり前か……。と一人漫才じみた思考を巡らせた。
「あー……まあ、人間別れがあって出会いがあるんだし、新しい仲間をみんな歓迎してやってほしいんだ」
「あたりまえっすよう! 可愛い子ならこっちからよろしくっすよ!!」
 若干女子は引いていたが、男子には受けがよかったようだ。あいかわず先生は苦笑いだ。
「はは……じゃあ入って来てもらおうか。どうぞ」
 教室の前方のドアに期待の視線が集まった。