Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「僕は日向野 英正! 今日から隣だね! よろしく!」
「まあなんて爽やかな人なの!? 私は川喜多 冷泉! 気軽にレイちゃんってよんでね!」
「レイちゃん! 僕とこれから素晴らしき学校生活を送ろうじゃないか!」
「嬉しい英正君! あたしここ転校してきてよかったわ!!」
「ふひひひひ」



 なんて素敵イベントは英正の妥協策でその可能性すら吹き飛んだ。そして川喜多は「転校生を歓迎しようの会」なるクラスの男子を筆頭としたグループに拉致れらて放課後の冷めやらぬ喧騒へと消えていった。どうやらクラスのほとんどはそれに誘われたらしい。
 ああ、なんだ。転校生が来て隣に座っても、結局僕はこうなんだな。と一人悟った放課後だった。




『そう言えば、朋也は交通事故で死んだってことになってたなあ』
 自転車置き場で自分の自転車の鍵を解除しようとしたとき、唐突にチュウ太が言った。
(なんだよ急に)
『いや、多分みんな花束とかはその事故現場に置くんだろうなあ』
 交通事故と偽装された場所には行っていない。でも、朋也は生前も意外と人望があったし、活発な性格も手伝って意外とモテていたから、きっとその場所にはお供え物とかが結構あるんだろう。まあ、結局は気持ちの問題だろうし、思いが強ければ場所なんて関係ないだろうが、それでも一人くらいは……。
(ちょっとコンビニよるわ)
『ん、わかった』
 酒は買えないから、とりあえずなんかおいしそうなジュースと適当なお菓子を買おう。カチャンと鍵が解除される音が駐輪場に響き渡った。




 商店街はこの間の夜とは打って変わって活気に満ち溢れていた。もうすぐ主婦らは忙しくなる時間帯のせいだろうか、心なしかみんな足早に商店街を通り過ぎていく。でも、英正には彼女らがこの場を無意識に避けているかのようにも見えた。
 目的の路地に入る。薄暗さは夜ほどではなかった。といっても一番奥の壁がかろうじて見える程度だけど。ここは何か改善策を作った方がいいと思った。
 奥の方はあれからもう一週間以上経ってるいるので、この間みたいには散らかっていなかった。でも、相変わらずゴミは居酒屋の隣というこもあって多かった。
 とりあえず、買ったものをレジ袋から取り出して、はじの方に置いた。ゴミと間違われて回収されてしまうかもしれないが、それはしょうがないということで許してほしい。そして、少ししゃがんで手を合わせた。
『これで少しは喜ぶかもな』
(そうだな)
 そう言って立ち上がった時、ゴミとゴミの間にちらっと目に付くものがあった。花束だった。それも新しい。しかもご丁寧に花瓶に挿してある。明らかにお供えとして置かれているのは明白だ。
(な、なんで……。俺たちしか知らないはずじゃ……)
 さらに英正を驚かせることがあった。それは、その花束のすぐ近くにお面があったということだ。
「これって、朋也の……」
 思わず声が出た。
『ああ、まちがいねえな』
 朋也が最後につけていたお面。つまり形見と言うべきもの。それと同時に彼がオメンダーとして生きていた証。あの時落としてしまったので、もう捨てられてしまったかと思っていた。
『それは、お前が持ってた方がいいかもしれないな』
 チュウ太は静かな声でそう言った。
(……わかった)
 英正はそのお面を拾い上げ、持っていた鞄の中にしまった。


 その時だった。遠くで風船が割れるような音が数回して、「キャー」という模範的な悲鳴が表通りから聞こえてきた。


『何だ?』
(何かあったみたいだな)
 そう言っている間に辺りはどんどん騒がしくなっていく。路地の入り口の方を見ていると、「あっちだ」とか言いながらどんどん人が入れ替わり走っていく。
 足早に路地から出ると、近くを通りかかったおじさんに声をかけた。
「ああ、なんか銀行強盗があったらしいよ。しかも人質がいるとか。いやあ物騒になったもんだねえ」
 そうおじさんは何故か嬉しそうに言い、「俺もこれから見に行くところなんだ」と言って小走りで走っていた。
 人間は好奇心が旺盛な動物であると改めて認識した。それは英正だって例外じゃない。人間なら気になったら行ってみたいと思うのは当たり前の思考だろう。絶対そうだ。
 というわけで自分も野次馬の仲間入りすべく事件現場へと急行した。

       

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