Neetel Inside ニートノベル
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 けたたましいサイレンを発しながらものすごいスピードでパトカーが国道を走り抜ける。理由はたった数分前に入った無線。
『住江信用金庫で強盗事件が発生。人数はおそらくニ名。中に何人か人質になっている模様。近くにいる者は至急現場に向かってくれ。以上』
 ぶつっという音とともに無線機の通信が切れた。
「……住江信用庫か。こっから二キロもないな――」
「ってことは僕たちが一番乗りってことですね、大分さん!!! やった!!!!!」
 運転をしている若い警官が鼻息荒げに言った。その隣の助手席の初老の「大分」と呼ばれる男性は、タバコをふかしながら、はあとため息をついた。
「木下あ、お前遊びじゃねえんだぞ」
「だって大分さん、僕が警察になってこんな大きな事件は初めてなんですよ!」
「はあ……、これだから最近の連中は。第一なあ――」
 大分の言葉は木下の耳にはもう届いていなかった。
 小さい頃から憧れていた。ヒーローになって、悪を倒すということを。小学生のころ描いた、つたない夢だ。それが成長するにつれ、警察官になって世間を騒がす悪を罰する、という具体的な夢にいつしかなっていた。そして、警察学校に入りそのまま警察になった。が、夢と遠く離れた現場という現実。住江町なんて田舎には大きな事件が起きることはない。つまり、やると言ったら聴取の用紙の整理などの事務ばかり。自分がやりたかったのはこんなちんけなことか? と自問する日々。
 そんな日々に起こった青天の霹靂。これはきっと神様が与えてくれた自分がヒーローになる最後のチャンスだ。そう木下は思って仕方なかった。

 ――ブブッ

 また無線が入った。
『犯人の仲間と思われる中型のトラックが銀行前に止まった模様――』
「うわあああ! 盛り上がってきましたねえ!!」
「お前俺の話聞いてたのかあ……?」
 大分はまた大きなため息をついた。しかし、ため息をつきつつもタバコを携帯灰皿に押しつけて、前方を鋭い目線で見つめた。ここがさすがベテランといったところだろうか。
 そして、数分もしないうちに、目的の銀行と白いトラックが姿を現した。そして犯人達はパトカーに気づいたのか、トラックを急発進させた。
「あー、こちら大分。犯人の物と思われるトラックを発見。ナンバーは00-××□。今急発進した。追跡を始める」
 大分が無線で本部へ報告をする。車内に緊張が走る。ハンドルを握る手が湿る。鼻息が荒くなる。もうすぐ、もうすぐ僕もヒーローになれるかもしれない……っ!
 
 ――ズガンッ

 一瞬で木下を現実に戻した大きな音。いや、音だけではまだ戻ってこなかっただろう。目の前のトラックに、人らしきものが落ちてきたのだから。住江町に、お面。といったらあいつしかいない。
「本物の……ヒーロー……」
「我らお面の英雄様のご登場だ。あいつがいたら警察はいらねえんじゃねえかあ?」
 大分はまたため息をついた。 
 

 

       

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