Neetel Inside ニートノベル
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 ほんの数分前だった。英正は確かに銀行へ野次馬をしに行った。だが、あまりにも人が多くて、現場をみることはできなかった。
 そして、その時のチュウ太の一言、『俺、ここをよく見れるいいとこ知ってるけど、行くか?』
 これを聞いているかいないかで、この後の運命は大きくかわったと思う。つまり、人生の岐路という奴だ。こいつは本当にいつ現れるか分からない。
 そのマンションは銀行と同じ道路沿いで、そこからちょっと歩いたところにあった。エレベーターを使い最上階まで行き、そこから階段を使って屋上へと向かった。なるほど、確かにこの位置にあるなら屋上からいろいろ見えるかもしれない。
 屋上へ出るためのドアを開けると、ビル風がごうっと吹き抜けた。。腕を顔の上の方に上げ風を避ける。そしてそのまま屋上へと足を踏み入れた。
 少し辺りを見渡し、どの方向に銀行があるのかを探した。見慣れた景色なのに少し高いところから見ると自分の家の方角すら分からなくなる。この現象に名前はあるのだろうか? まあどうでもいいか。
 その問題は最近高層ビルが増えたおかげで、それを目印に方向を割り出すことで解決し目的地はすんなり見つかった。でも見つかったはよかったが、障害物が邪魔であまりよくは見えなかった。
「んー、よく見れるって言ったわりには……そうでもねえのな」
『そうか? 前はよく見えたんだけど……あれ、なんかいろいろ看板とか立ってるな』
「おいおい、無駄骨かよ……」
 すまんすまん、と謝るチュウ太。だがその言葉には何か余裕があった。
 その数秒後、看板やら建物やらの隙間から、一台のトラックが銀行の前に止まるのが見えた。野次馬の人達の騒ぎ声がにわかに大きくなった。
「……トラックだな」
『来たな……、もうちょっと前でみようぜ! 英正!』
「前……?」


 ――そして


 英正はなぜ朋也の形見である仮面をつけているのか? そして、フェンスを超えた向こう側の、後一歩前に出たらフライアウェイというところに立っている。どうしてこうなった?
『お前が飛ばなきゃ始まらない! ほれ飛んで飛んで飛んで!』
「うるせええ!! なななんでこんな高いところから!? 無理! 絶対無理!」
 怒鳴り声もビル風にかき消される。下を見たら、息子がひゅんとなった。さっきから何回ひゅんとなったか分からない。
 流れを説明すると、前で見ようぜ → あのお面つけると、視野が絞られてもっとよく見えるようになるぜ! → さあ飛べ! 
 乗せられた自分もバカだった。 
『死にやしねえよ! 行けるって!』
「死ぬから! 絶対死ぬから!」
 そんな堂々巡りを続けていた。遠くからはかすかだがパトカーのサイレンの音が聞こえた。
『ヒーローになりたいだろ! さっさと飛べや!』
「いつそんなこと何時言ったよ!?」

 
 ――カンカンカンッ


 不意に階段を上がってくる音が聞こえた。ぱっと入り口を見る。スナック菓子の袋を持った、パーカーを着た女の子が立っていた。まずい。こんな変な仮面をつけてフェンスの向こう側に立っている時点でもう通報ものだ。この年で変な噂を町内に流されたりでもしたら、自分どころか家庭も崩壊しかねない!!!
 けれど、その反応は想像の物と違った。
「……えっ、トモヤ?」
 その言葉を聞いた瞬間、強い風が屋上を吹き抜けた。女の子の髪が舞うのが見えた。そして、自分の体がまるで風船にでもなったかのようにふわっとなった。一瞬、遠くで女の子が手を伸ばした。
 

       

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