Neetel Inside ニートノベル
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 最初は背中から落ちたのだが、勢いとか、物理の法則? まあ文系なのでよくわからないけど、それのせいか今は頭が下の体勢で落ちてる。だから道路が見えた。一瞬。でも風が目に入ってすぐ開けられなくなった。一秒だったか、一分だったか分からないけど、体に強い衝撃が走った。今、グシャアってなったんだなあと思った。


 そしてすぐ、意識が飛んだ。


「ななんあなnうbほいjpkl@;」
 これは天使の声だろうか。それにしては……気持ち悪い声だ。何言っているのか分からないのはきっと自分が日本人だからだ。たぶん。さて、そろそろ目を開けて極楽浄土の景色を拝んでやろうか。そう思い、目を開けた。
 そこにあったのは見渡す限りの札束、札束。地獄の沙汰も金次第とはいうが、天国というのは金の溢れる世界だったのか。さらに札束の奥には、拳銃を持ったホスト風の男と、上着を破かれて下着があらわになった女子高生が居た。どうやら天国は金と女と拳銃というギャングの世界のような場所のようだ。


「ってそんなわけあるか!」とノリツッコミ。


 目の前の状況を整理しよう。どうやら僕はあの高さから落ちたのに、奇跡的に助かったようだ。そして、ここ。狭い空間。しかも、音と振動からしてこれは走っている。つまり車かなにかの中だろう。目の前には――


 ――腹部に衝撃が走った。


「なにボーッとしてんだバーカ」
 銃口から出る薄い煙。女の子の甲高い悲鳴。右わき腹に走る肉をえぐるような痛み。自分が撃たれたのだと認識するには十分すぎる情報だった。
 痛い。単純なその一つの感情を機に、怖いだとか逃げたいだとかそういった感情が体中を駆け巡って英正の体を振動させた。
「すげえと思わねえ? 銃ってさ。これ一発で人が死ぬんだぜ? こいつがあれば俺は王にだってなれるさ! いや神かな!! 見ろ!! 現に女も!!! 金も!!!! 思いのままだぜえ!?!?」
 目が逝っている。漫画とかでみる麻薬中毒者はたしかこんな感じだった。漫画なら笑って読めるこの状況、でも今は得体のしれない恐怖が精神を蹂躙している。そして痛みがそれをより強固に、巨大にしていく。
 もう駄目だ。死ぬ。ここで。俺の人生は終了。

『……痛いだけだろう。大げさだぞ』
  
 その声を聞いて、なんとなく腹部を触ってみた。服に穴は開いていたけど、血は出てない。
「あ、本当だ。生きてる」
「な……じゅ、銃だぞ!? 何で死なねえんだよお!?」
 更に銃声が何発も響いた。でも、痛いだけで我慢すればどうってことない。いつしか向こうは弾切れを起こしていた。これはチャンスと言わんばかりに英正は立ちあがった。

       

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