Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

「ありがとうございました!!」
 人質であった少女は、はだけた服で上半身を無理やり隠して言った。英正はなるべく胸部に目線が行かないように意識しながら彼女の顔見た。そして、驚いた。
 染められた金髪の髪。だが傷んだ様子はなくしっとりと美しい髪。見覚えがある、なんてものではない。だって、毎日この髪を後ろから見ているのだから。
(か、金上 香(かながみ かおる)……)
『お、こいつ学校でお前の前の席の奴じゃん。いやはや、世間は狭いもんだな』
 英正はまだ戸惑いを隠せずにいた。幸いお面を付けているからいいものの、もし彼女に正体がバレたとしたら人生が終わる。それに確か「転校生を歓迎しようの会」に金上は参加していいたはずだ。つまり外にも複数のクラスメートが居る可能性がある。お、落ち着け……。冷静に対処すれば何とかなるはずだ。
「あ、あの……?」
 金上は怪訝そうな顔で英正を見つめる。取り敢えず、声色を変えてなんとか乗り切る作戦を取る。
「お礼はいらない。もう大丈夫さ!」
『やっぱノリノリじゃねぇか……』
(……うっさい)
 さて、長居は無用。もともと不運が重なった挙句この場にいるのであって、金上を助けたこともこれまた偶然。これ以上深入りする必要はない。
「じゃあなっ!」
『あばよっ!』
 僕ら(チュウ太の声は聞こえていない)は彼女に一瞥すると、これまた申し訳なくも札束を踏みつけて、でもなるべく踏まないよう気をつけて、コンテナの開閉口を開けた。




「ヒーローだあああああ!」
「うおおおおおおおおおお」
「かっこいいいいいいい!」
「こっち向いてええええ!」
「写メとったあああああ!」
 外にでると、大量の歓声と携帯電話付属カメラのシャッター音に包まれた。道の中心で立ち往生しているトラックの周りに野次馬がごった返していた。警察官らしき人達が懸命に混乱を沈めようと奔走している。


 これは全部英正に対して来ているのか? ……いや、違う。これはこの仮面のヒーロー、オメンダーに対しての歓声だ。さっきの金上も同様だろう。英正に対してでは無いが、不思議と自分が注目されているように思えて、とても高揚感があった。もしオメンダーとしての自分を認めたとしたら、これはすべて英正に対しての歓声と同義になるのだろうか。いつも、学校で一人の自分とは違う、真逆の存在であるもう一人の自分が……。


『おいっ、取り敢えずここを離れるぞ!』
(あ、ああ……)
 思いっきり地面を蹴り上げ英正は宙に浮いた。

       

表紙
Tweet

Neetsha