Neetel Inside ニートノベル
表紙

P-HERO
第六話:変化と戸惑い、逃亡。

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「風の様に現れ、人質の少女を救出したヒーロー……か。いやー、やるねー」
 住江図書館の受付のお姉さんは新聞を広げながら言った。
「そんなの読んでる暇があったら自分で本の整理してくださいよっ!!」
 英正は両手に大量の本を抱えながら彼女を睨みつけた。
「あー? お前そんなんじゃ駄目だぜ? このヒーローみたいにもっとボランティア精神で挑まなきゃ!」
 自分のことを褒められて、一方で貶されているこの状況はなんとも不思議な感覚だった。ただ、単純な英正はその褒め言葉ににやけつつ「しょ、しょうが無いっすね。やりますよ!」と自ら本の整理を始めた。それを見てお姉さんは少し不思議がったが、やらせておこうと直ぐに新聞に目を戻した。


 あの日以来、変わったことは特には無かった。無理やり挙げるとしたら、先刻みたいな新聞とかに自分のこと(と言ってもヒーローのことだが)が載るようになったことだ。銀行強盗なんてインパクトのある事件は起きたことのないこの街で、さらにそれをヒーローが解決したということは町民達にとってかなり印象深い出来事だったようだ。
 自分でその新聞を見たりすると、自然と頬が緩んだ。ただそういう時にはすかさず寄生虫(?)のチュウ太が『俺の、俺のおかげー!♪』と口を挟むので萎えてしまう。少しは悦に浸らせてほしい。
 

 おっと、手が止まってた。さあ、早くこの仕事を終わらせてしまおう。そう思い立って英正は手を動かし始めた。

「ん、これ……」

 また手が止まる。偶然、自分の借りた本が返された本の山に混じっていた。『名前のない声』という題名の本。チュウ太の手がかりになればと思い読んだのだが、内容はSF物だし、見えない声というのも主人公が創りだした二つ目の人格という設定あり大して参考にはならなかった。
 ただ、あとがきに書かれた言葉、それが妙に心に残っている。


「この本をただ一人、彼が誰なのかはもう忘れてしまったが、一番大切であった彼に捧げる」


 意味深長なその言葉をチュウ太は寂しそうに知らないといった。こいつは嘘が下手だた思った。でも、それ以上聞くのはよした。


 少しため息をつき、この本を棚に戻そうとした。その時だった。


「アレ……? 日向野君?」
 妙に聞き覚えのある声が英正を呼んだ。女性の声。自分で言うのも悲しいが、超が付く程ボッチの俺に話しかけてくる女子なんて家族とこの図書館のお姉さん以外いない。なら一体誰が? 疑心暗鬼になりつつも、声がした方へ体を向ける。
「あ、やっぱり日向野君だあー!!」
 そこには何やら図鑑のような大きな本を抱えながら、金髪ショートカットの少女が立っていた。
「あ……え……?」
 声がどもる。お、落ち着け。落ち着け。悟られるな、この動揺を……。
「あっ、名前、私のわかる?」
「か、金上さん……前の席の」
「そーそー! 覚えててくれたんだねー!」

 忘れるものか。あの事件の人質であり、俺が助けた少女。金上 香(かながみ かおる)。

『俺のおかげだってば』
(うっさい、黙れ)
『あ、そんなこと言っちゃうんだ。じゃあもうお前の事助けてやんないし! アドバイスもやらんしぃ!』
(メンドクセえ野郎だなあ……)
『あれあれ? そんな態度でいいですか? 僕、本気でお助けしませんよ?』
(ぐぬぅ……)

「どうした……の?」
 不安そうに金上が英正の顔を見る。どうやら声を出さずに表情だけ変える英正を不審に思ったようだ。
「はっ!? いや、その……」
 パニック状態の英正に取り繕えるはずもなく、しばらく気不味い沈黙が続いた。

       

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