「あ、えっと……。な、なんで図書館に?」
 英正は適当な質問をしてこの空気を何とかやり過ごそうとした。
「あ、ああうん。あのね、生物の課題で来たの。選択教科で取ってるからねぇ」
 なる程、だから大きな図鑑を抱えているのか。ちなみに英正は文系なので理系分野の選択教科は取っていない。
「へえ。え、偉いね」
「普通だよ~。それより図書館のお手伝いしてる日向野君のが偉いよ!」
「……っ!?」


 この時、英正の思考は高速で働いていた。
 手伝いがバレた。ということはこの図書館に入り浸っていることもバレた筈。そして金上は学校でこう話す。
「日向野って図書館で手伝いしてるんだよ。友達いないから図書館入り浸ってるんだよきっと。マジ哀れ!」
 そして英正のボッチ率が上がり、段階変化、虐めへと発展。悲惨な学校生活を送り人生終了。フライアウェイ。
 駄目だ……それだけは……っ。絶対に、阻止……っ! それが現時点での、最優先事項……っ!
「いいいいい、いや違うだよ! これは本をくぇ、返しに来ただけでっ!」
『どもり、裏返り、大声、咬み咬み。テンプレートな対応だな。ある意味百点だよ』
(終わった……)


 だが、彼女の反応は予想とは全然違うものだった。


「あ、その持ってる本、『名前のない声』だね! 私読んだことあるよ!!」
「え!? あっと……これ?」
 手に握っていたその本をチラつかせる。だが手汗で紙の部分がふやけていたのですぐに引っ込めた。
「うんうん! 日向野君も読むのー?」
「ま、まあ一応読んだけど……」
「その本はねぇ、自費出版だから殆ど手に入らなんだよー。しかも、この街を題材にしてるから、ご当地ネタを知ってるとおもしろいんだよねぇ」
 ずいぶん詳しい。
「ほ、本とかよく読むの?」
「うーん、家にあるのしか読まないかなあ。偶然あったんだよ、それ」
「へえ……。金上さんが本読むなんて、なんか以外だ」
「なんでよー! 私だって本くらい読むんだからぁ!!」


 辿たどしくも、会話が続いていた。しかも女子と。それは苦痛ではあったが、とても新鮮で嬉しくもあった。早くどっか行けと思っていたが、もうちょっと話していたいとも思っていた。彼女が、そろそろ行くねと言った時、ほっとしたが、少し寂しかった。また話したいとも微かに思っていた。
『なんだ、やれば出来るじゃないか』
 チュウ太は笑いながら言う。少し照れくさかった。こんな気持になったのは初めてだ。

 今日は、あの日以来、一番楽しい日だった。