Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      


 立っていたのは、男。それも筋骨隆々。服装は、何と言えば良いか、アメコミのヒーローが着るような全身タイツとはまた違うやつ。そして右手には日本刀。それもかなり長めだ。太刀、といったらいいのだろうか。


「俺は帰ってきたぞ。仮面の英雄……っ!」


 両手で日本刀をゆっくりと引き抜き、鞘を投げ捨て、構える。その姿は素人にも理解できるほど殺意に満ちていた。いつかの『包帯男』に襲われた時の恐怖が克明に思い出される

「黙りか。俺達の間に言葉は要らない……。そうだな。ならば存分にコレで語り合おうぞ」

 恐怖心から言葉が出ない英正をよそに、男は一人盛り上がる。まるで昔年の好敵手にあったかのような振る舞いだ。人間違いも大概にして欲しい。英正は男の顔はおろか、声すら聞いたこともない。しかし向こうは英正を知っていると言い、更には殺意までも向けてきている。

 なんという不条理。

「行くぞっ!」

 男がそう叫ぶ。刹那、男の姿がまるで闇に溶けたように消える。

『避けろっ!』

 チュウ太の声に英正は無理やり動かされる。目の前に一瞬風が吹く。と同時に日本刀を横一閃し終わった男の姿が現れる。

『まだだっ!』

「破亜っ!」

 男はさらに剣を振り切った体勢から体当たりをかます。反応が遅れた英正はそれをモロに受けてしまった。吹き飛ぶ体を捻り、何とか体勢を立て直し着地する。
「ごはっ……」
 体が軋む。チュウ太が一瞬力を発動してくれたらしく大事には至らなかったが、この衝撃は人間の域を超えている。
 何なんだこいつは!?

『まだ来るぞ! 上だっ!』

 その場から体全体をバネの様に使い後ろに飛ぶ。すると英正が居た場所に剣を振り下ろした男が現れた。
「どうした! 避けるばかりでキレがないぞ!! 一度手合わせしたからと舐めているのか……っ!?」

 男のボルテージはどんどん上がっていく。

 しかし、チュウ太は何故男の行動が読めたのだろうか。そして男が英正と誰かを間違えていると考えるともしや……。
(おい、チュウ太。お前あいつと会ったことあるのか?)
『……ああ。朋也と一度戦った。だが話は後だ』
 やはりか。あの男は前にオメンダー、つまり朋也と戦った。そして朋也が死んだ今、代わりにそのお面を着けた英正を朋也と勘違いしているというわけだ。
 ならば、正体を明かせば奴は助けて……。いや、そんな甘い考えは捨てよう。あの男がそんな思考を働かせるはずがない。問答無用で斬り殺される。

「興冷めだ。お前のような腑抜けは死んでしまえ……っ!」

 今は全力で、この場を切り抜けることを考えるべきだ。むしろ、これ以上思考を他に割いていては確実に殺られる。今も紙一重で一閃を避けるのが精一杯だ。

「ぬんっ!!!!」
『右だっ!』
「ッ~!?」

 右腕から血が流れる。少し掠ったらしい。あの男、大きめの日本刀を振り回しているのに、そのスピードは段々速くなってきている。

「捉えた……。次は外さん」

 滴る血を、剣を振り、払う。そしてまた構える。

「貴様に同情の余地はない。あの、精気滾るお前のまま、逝け」



 刹那、英正の目の前に人影が現れる。一瞬遅れ反応し、後ろに飛び退く。



 もうダメだ。斬られる。死を覚悟した。





       

表紙
Tweet

Neetsha