Neetel Inside ニートノベル
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 衝撃波で英正の体は更に加速し屋上を飛び越える。

 雷。それが英正達がいたビルの屋上に落ちたらしい。空は数十分前とは打って変わって雲が覆っている。
 奇跡。その言葉意外に何があるだろう。あの絶体絶命の危機に、雷だなんて。

 地面に着地すると、英正は急いで薄暗い路地裏へと入っていった。そして息を潜め、じっと体を固める。奴らはきっと雷が落ちたといっても死んでいない。そう直感していた。

 数分後、雨が降りだした。

『雨か……。そろそろ帰ろうぜ。流石にもう追ってこねえよ』
(あ、ああ……そうだな)

 帰る。歩いて? もし道端で彼らに出くわしたら?
 負の連想ゲームは始まったら止まらない。足は地面に埋まったように動かない。死の恐怖が英正をその場に縫い付ける。

『おい、どうした?』
(いや、まあ、ちょっと――)

「トモヤ!!!!」

 不意に背後から女の子の声が聞こえた。死の恐怖により五感が研ぎ澄まされていた英正は、その声に必要以上に驚き、逃げようとするのと同時にすっ転んだ。それでも恐怖から、這いずってでも前に進んで逃げようとする。

「ど、何処行くの!? 待って!!!」

 方や素人ホフク前進、方や全力疾走。結果は三十秒もしないで、追いつかれた。

「トモヤ! トモヤなんでしょ? なんで逃げるの!?」

 女の子は英正の前に回りこむ。それに驚き瞬時に起き上がり体制を立て直そうとする。が、一瞬遅くお面に手をかけられ、怯えて身を捻るのと同時に、お面が外れた。


「えっ……トモ……ヤじゃない……」


 顔を見られた。二人とも理由は違えど驚き戸惑う。そして、互いをまじまじと見つめる。見覚えがある娘だった。

 そうだ。この間の銀行強盗があった時、ビルから落ちる直前にトモヤ名前を呼んだ少女。


「なんで……なんであんたがこのお面を持ってるのよ!!!!」
「……」
 少女は英正に掴み掛かる。
「これじゃあ、やっぱり……トモ、ヤが……死ん、だって……こと……じゃ……」


 雨が急に強くなった。土砂降りだ。雨水が建物や地面を叩き、その音が二人の声を聞こえなくする。

 彼女はまだ何か叫んでいた。
 英正も叫びたかった。ただ、それよりも先に体が動いていた。我慢の限界。自分に少し自信が持ててきたのに、現実は非常にもそれを打ち砕く。

 自分を殺そうとする男達。大事な親友の名を呼ぶ女の子。もう、何が何だか分からなかった。

 
 全てを吐き出して自分を守るためだろうか、全てから逃げたいだけだろうか、ただ豪雨の街の中を一人走っていた。

       

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