自己紹介の後、早速引き継ぎのための作業が開始された。
そしてこの生徒会で、英正はある才能を発揮する。
「す、すごいな日向野君……」
「ま、まさかたった一時間でこんなになるなんて……」
その才能は生徒会長、副会長をはじめ委員会の面々を唸らせた。
英正がやったこと、それは単純に資料の整理。ただそれだけ。だが……。
「取り敢えず資料は年度ごとに過去三年間分まとめました。敷居が足りなかったのでダンボールで代用させてもらいました。引用しやすい様に付箋と、内容別のマニュアルも作ったので、これと合わせて使ってください」
「あ、ああ……ありがとう」
そう、整理整頓がうまいという謎の才能を存分に発揮したのだ。しかしこの能力、元からあったものでは決してない。英正の学校生活に起因する図書館での労働、これが血となり、肉となり、この能力を宿らせたのだ。
実生活にいたってはとても重宝する能力。しかし、昨夜のような事態では、ただの無駄能力。
「あー、っと、ヒナタノ。今日はもう帰っていいよ。もっと時間かかると思ってたけど……ずいぶん早く終わらせてくれたからね」
姐さんは仕舞った資料をパラパラめくりながら言った。英正はその言葉に素直に応じ、生徒会室を後にした。
「――待ちなよ。えっと、日向野 英正!」
下駄箱で、急に呼び止められた。不快な声。深層心理がそう言ってる……気がする。振り向きたくない。そう思ったら、足が勝手に動いていた。
「あっ! ちょ!!!! 待て!!!!」
『へたれめ』
足に思いっ切り力を入れる。後ろからは気配を感じない。振り切れた、そう思った。
『ところがどっこい』
「!?」
「なめるなああああああっ!!!!」
男女差という過信、チュウ太という力から生まれた慢心。心のスキから生まれた油断。すべてを悟ったとき、背後から追ってくる女の気配。焦り、恐怖。
『あ、あのフォームは!?』
彼女は勢いそのまま、いやさらに力強く走り幅跳びの要領で飛び上がった。さながら空をかける不死鳥。美しい弧を茜色に染まりつつある空に描く。
『で、出る!! あの技がっ!!!』
得体の知れない恐怖はいつからかその意味を変え、美しさに対する未知なる恐怖にすり替っていた。そう、それほどに、彼女の天を駆ける姿は美しかった。まるで、空そのもののように。
『出たあ! オメンダー必殺!!』
「くらえぇぇえぇぇぇぇぇえぇえええええ!!!!」
彼女は空中で飛び蹴りの体勢に入る。
「『ダイナマイト・キィイイイイイイイック!!!』」
なにこの子達。初めてあってこのシンクロ率だなんて。これなら使徒を倒せるんじゃない!?
「ってそんなことやってる暇はうぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
背中に激痛。そしてズシリと重い物が乗る。英正は運動神経皆無の人のヘッドスライディングのように地面を滑った。
「この上座 空(かみざ くう)様から逃げられと思わないでよね! ざまあみなさい!!」
「ごめ……ん」
薄れゆく意識の中で、英正は上座に謝る。
こんな形にせよ、きっと彼女と出会うことは決まっていた。後で振り返ってみると妙にそう思えた。
「許さん……許さんぞ、日向野君……。この大宅を差し置いて上座さんと仲良くなるなんて……っ!!!」
ただ、知らないところで敵を作っていることは、英正は知らない。