Neetel Inside ニートノベル
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「……」
 開いた口が塞がらなかった。受付のお姉さんは頭を書きながらあははは……と苦笑いしている。

 目の前に広がるは百冊以上の本、本……。どれも乱雑にダンボールに突っ込んである。ふとダンボールに付いてる伝票のような物を見る。日付は一ヶ月前。呆れて物も言えないとはこの事。

「いや、忙しくてさ……本当にスンマセンでした!!!!」
「……半分はやります。お姉さんも半分はやってください」
「そっち早く終わったら手伝ってな!」
「……」


 落胆しつつも、渋々と作業に入る。


 それから何分たっただろうか。時間の感覚が集中力に比例して消えていく。そんな感覚に浸っていた、そんな時だった。



「あっ……」

 風船の空気が抜けるかのようなか細い声が聞こえ、それに反応し英正は振り向いた。如何にも虚弱体質そうな体つき、しかし見る人全てを魅了するくらい可愛い女の子がそこにいた。

「か、川喜多さん!?」

 先日の放課後の件を思い出し、ばつが悪くなったので視線を落とす。するとバッグに例の彼女が捨てた赤い星形のキーホルダーがついていた。

「あ……それ捨てて無かったんだ」
 思ったことが思わず口に出るのは、一種の病気だと自分でも思っている。ただ、友達が居ないので実害はほぼ無いが。……。

「……捨てられなかった」
 顔色すら変えず川喜多は言う。
「……でも、凄く重い」
「重い? バッグが?」

『ふーん……』
(何さ?)
『ま、お前にはわからんよな』
(なんだよ……)

 英正の言葉を聞こえなかった如く華麗に無視して川喜多は話を進める。
「……何で図書館に居るの?」
 まあ普通はそう思うだろう。だがこの流れは既に経験済みである。

「手伝いだよ。有志の」
(完璧だ……)
「……そう」
「え。う、うん」
 あっさりとした返答に呆気なさを感じた。
『ただの社交辞令に身構えるお前がおかしいんだよ』
(……うっせ)

 しかし困った。これでは会話が続かない。この空気はまだ慣れない。根掘り葉掘り突っ込まれるよりもこっちの方がきついかもしれない。

「……本、借りたいんだけど」

 沈黙に耐えられなくなったかは表情からは読み取れ無かった。だが、英正にとってそれは救いだった。

「えっと、何を借りるの?」

 図書館関連のことなら、何とかこの場を凌げる確信があった。

「……名前」
「な、名前? 本の?」
「……あなたの。ちゃんと聞いてなかった」

 確かに自分の名前は彼女に言ってなかった。こっちは自己紹介をされたもんだから、向こうも知っているものと勘違いしていた。とゆうか隣の席なのにお互いちゃんと自己紹介してない方がおかしいのか……?

「日向野 英正です。よ、宜しくね」
「……うん」

 また沈黙。だがこっちには新たに切れるカードが出来た。怖がる事はないのだ。
「じゃ、じゃあ、どんな本がいいの?」
 ふっ、完璧な返答(英正の中では)だ。

「……オススメは?」

 そう来たか。手元にある新刊と返却された本の山を漁る。そして、手頃な本を一つ見つけた。

「この『馬鹿と熊猫』ってのは面白かったよ」

 『馬鹿と熊猫』。けっして「ばかとパンダ」ではない。「ましかとゆうねこ」である。内容はふざけた題名からは決して想像できないような恋愛物である。バカな中学生マシカとパンダの様にのんびり屋な不思議少女ユウネコが中学校を舞台した事件に巻き込まれつつも親睦を深めていくもの。名言は「あいつが不思議なのは系統不明だからだな。パンダ的な意味で」いや迷言か……。まあ、誰に紹介しても恥ずかしくないような小説だ。


「……これ、面白いの?」
「人に……よるかも。僕は楽しかったけど」
「……そう……ありがとう」

 彼女は本を受け取ると、更に小さい声でお礼を言った。そして、彼女の表情が初めて少し変化したように見えた。それをしっかり確認する前に彼女はすぐにカウンターに向かってしまったので確証はないが……。微笑? 頬が少し上がったような……。何にせよ、悪い気はしなかった。

 心中に少しじんわりするものがあった。心地良かった。なんだか仕事がはかどった。 



 

       

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