Neetel Inside ニートノベル
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「行ってきます……」
 英正は玄関でそう呟くと両親に気づかれないとうにドアを閉め鍵をかけた。声の主も一緒に『いってきまーす!』と大声で言ったでとても驚いたが、声の主曰くこいつの声は英正にしか聞こえないらしいので無問題だそうだ。ちなみに英正が声の主に言葉を伝えようと意識しながら思い浮かべれば、声に出さなくても伝わるらしい。
(えーと、も、もしもーし? どうぞ?)
『無線じゃないんだから……』
(おお、本当に伝わったよ)
 つまりこのような感じで。


 英正は自転車にまたがり勢いよくペダルを漕ぎだした。行き場所は英正には分からないが『あ、次の信号右な』とこんな感じの声の主のナビゲーションをたよりにひたすら進んだ。
 直線道路に入ると、話しかける余裕ができたのでさっきの発言について聞いてみることにした。それは今英正が自転車を必死に漕いでいる理由でもある。
(朋也が殺されたって、あれは本当なの……?)
『ん、ああ本当だよ。俺がお前の中にいるってことはそういうことだ』
 そういうことだ。と言われても納得できない。それと、朋也が死んだのは本当だと言われてもさほど動じないのは、きっとまだこれが夢の中のことだろうとどこかで思っているからなのかもしれない。それにしても、こいつはなんか言動が軽い。
(そういうことってどういうことだよ?)
『朋也の中にも俺がいてな、朋也が死ぬと朋也の中の俺も死ぬんだ。そしたらお前の中にいる俺が目覚めるってわけ。分かる?』
(……訳分からん)
『うーん、そうだな。俺(現在)は朋也の中にいる俺(過去)のクローンって感じかな。まあ朋也の中俺がオリジナルってわけでもないんだけどな』
 もっと訳が分からなくなった。しかも声の主の話し方からすると、ずっと前からこいつは俺の体の中に居たということにならないか? なんだか急に気持ち悪くなってきた。


 それから五分くらい自転車をとばしただろうか。気がつくと商店街に入っていた。もちろん深夜なのでやっている店といったら大人を気持よくしてくれるところとかお酒を飲むところくらいで、そこから出てきたいい感じになっている酔っ払いのおっさん達を避けながら商店街の本通りを駆け抜けた。
『次の居酒屋のつきあたりを左に曲がったところだ。そこに、朋也はいる』
 それを聞くと、英正は漕ぐスピードを緩めた。声の主は朋也は殺されたと言っていた。もし本当に死んでいるのなら……それ相応の覚悟がいると思った。
『早くしようぜ』
(……おう)
 角に自転車を止めると、意を決して路地に入った。

       

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