図書館での手伝いが終わったのは六時過ぎだった。急いでメールを上座にうつ。
「ごめんなさい。今終わりました」
携帯を閉じて、一息つく。その次の瞬間には携帯が振動していた。
メールはやはり上座からだった。この返信の速さ。これが最近の女子高生の常備スキル……。恐ろしい時代になったものだ。
「Re:遅い!!」
そして内容も想像に硬いものだった。嘆息しつつも律儀に返信する。
「Re2:ごめんなさい。今どこですか?」
エンターボタンを押し、また、携帯を閉じる。憂鬱だ。会いたくねえ。そもそも今逃げちゃえばいいんじゃいか? いや、結局は学校で殺られる。どうあがいても絶望か。
ポケットに携帯をしまうと深く溜め息をついた。
「まっ、もういるんだけど」
「はなんっ!?」
意図しない声が出た。振り向くと、それを聞いて笑っている上座が居た。まさしく神出鬼没。というかもっと普通に現れることは出来なかったのか?
「あははっ。あんた面白いね」
一応上座は英正の一年下である。そして年下の女に面白い奴と言われる英正。傍から見ればもうヘタレ男子の烙印を押されても文句は言えない。チュウ太は『もうそう思われてんだろう』とぼそっと言った。一応聞こえてるんだからな?
「はぁー。じゃ、ちょっと場所変えようか」
大人しく着いて行く。そして、商店街の少し外れにある大きめの公園についた。前はここにビルが建っていたらしいが、数年前に火災があって壊されたらしい。そして、ありがちだがその後幽霊が出るという噂が出た。頻繁に意味深長な花がいつの間にか供えられていることもあり、気味悪がって夜はほぼ人が近づかない。と、朋也に聞いた。実は英正もよく知らない。
だが、そんな場所だからこそ、秘密の話をするには持って来いである。
上座はベンチに腰掛けると、あんたもと言いたげにベンチを叩いた。それに促されるように英正も座る。こんな時間に女子と公園とか……。でもなぜか緊張しなかった。こいつには何も特別な感情が無い……からなのだろうか。
「回りくどいのもいやだし単刀直入に聞くけど、あんたはトモヤの何?」
「……幼馴染」
一瞬、親友という言葉が出てきたが、それを声に出してしまうと何かが壊れる気がしてやめた。
「で、なんでオメンダーになってたわけ?」
「……成り行きで、です。それに僕はオメンダーになったわけじゃない」
そう、きっかけはチュウ太が英正の中に出現したから。そこからは流されるまま、抗うこともなく今に至る。
「……でも、力は持ってる。そうよね?」
「……」
「腑に落ちないけど、今は納得しといてあげる」
ベンチから立ち上がり、振り返って彼女は言う。なぜか笑顔。ただ、目は寂しそうな……。
「それと、あんたに渡すものがあるの」
持っていた鞄からおもむろに袋を取り出す。そしてその中から見覚えのあるものが出てきた。
「あ、それ……」
「返すわ。私より、あんたの方が……相応しいよ」
朋也の……もといオメンダーのお面。そこで初めて英正はお面を落としていたことに気づき少々焦ったが、それを悟られないように無言で受け取った。
「本当は私が欲しいけど……、そのお面はトモヤの意志そのものだから……」
そんなものを、落としたことすら知らなかったなんて……。良心がナイフで抉られているように痛い。
「大事に、してよ……?」
上座は目を潤ませながらお面を差し出す。英正は受け取るの躊躇した。自分は朋也の意志を継げるような男ではない。それに上座のことを考えると、更に受け取る気になれない。
『お前は、嬢ちゃんの気持ちを無駄にするのか?』
何故いつもこいつはこう云う時にしゃしゃり出てくるのか。
『お前は、そうやって逃げるのか? せっかく貰ったのに、捨てるのか?』
うるさい。欲しくて貰ったんじゃない。
『お前は――』
英正はチュウ太の声が聞こえる前にお面を上座からひったくった。
(これでいいんだろ!!!!!!)
『さー、俺は知らん』
(な……)
なんなんだよこいつはあああああああああああああああ!!!!
「言ったそばから手荒に扱ってんじゃねえぞゴラ!?」
鬼が、目の前に居た。どす黒い声を発している。あの少女のどこからこんな声が……。
そんな茶番を繰り広げていた。そんな時だった。
「そうか……仮面の英雄は二代目……ということか。納得した」
「!?」
「!?」
『!?』
あまりにも唐突に声がしたかと思うと、静かな公園の暗闇の中から、人影が現れた。