P-HERO
第十話:抗う者たち。後編
まさに圧倒的だった。地面に軽くのめり込んだ怪物を見る限り、その衝撃がいかに激しいものだったかが伺える。
「凄い……」
上座は心からそう呟く。
砂埃が舞う中で、お面のヒーローはゆっくりと歩みを上座の方へ進める。威風堂々。はだけた制服が夜風になびく。
「もう、大丈夫」
英正は上座に右手を伸ばす。上座もそれに応じ、右手を伸ばす。更に砂埃が舞う。上座の笑みがこぼれた。
―― その時一瞬、風が吹いた。
「……っえ?」
それは瞬きする間もなく、お互い何が起こったか分からなかった。簡潔に言えば上座の前から英正は消え、英正の前からも上座は消えた。
ただ違う点は、英正の場合は目の前の景色がまるで高速で走る電車から外を見ているかのように変化し、上座の場合は目の前に居た英正が、怪物に置き換わったことだけだった。
『おいっ! 大丈夫かっ!?』
頭の中から微かに声が聞こえる。自分を心配する声。何が起きた? 状況が読み込めない。
が、体を起こそうとした時、全てを悟った。
上がらない体、動かない手足。徐々にに現れる、体中を襲う鈍痛。視界が霞み、意識が消えていく。
浅はかだった。力があるといっても、使い方が悪ければそれも無意味。所詮真似事。喧嘩の経験すらない英正があそこまで出来たことがまず奇跡。
悔しい。情けない。あんなに格好つけておいてこの様か。
消えていく意識の中で、微かに悲鳴が聞こえて、罪悪感を感じる間もなく、景色は闇に溶けていった