Neetel Inside ニートノベル
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「終わりましたか……」
 英正達が襲われた公園から数十メートル行った場所にある小高いビル。その屋上に、白衣の女が一人。目に当てた双眼鏡で公園の状況を見ながら呟いた。
「案外あっけなかったですね。まあ、せいぜいあの程度とは思っていましたが」
 そう言って彼女はおもむろに懐から携帯電話を取り出した。あらかじめ打ち合わせをしていたのだろうか、わずかワンコールで相手が電話にでる。
「はい、私です。では、回収をよろしくお願いします」
 そう短く内容を伝えると、相手の返事を待たずに電話を切った。



「おっと、そこまで。動いたら撃つ」


 白衣の女の後ろ、つまり屋上への入り口付近から声がした。そして、その人はゆっくりと白衣の女に近づいてくる。ハイヒールがコンクリートを叩く音だけが暗い屋上に響き渡る。

「随分なめたことしてくれたわね?」
 銃口を突き付けるのはリクルートスーツの女。
「口調が何時もと違いますよ?」
「私が敬語を使うのは敬愛する『あの方』だけ」
 更に銃口を近づける。
「単刀直入に言うわ。アレは何? それと058号の落とし前をどうつける気?」
「部下思いなんです――」

――パスッ

 サイレンサー付きの銃の発火音。
「減らず口はそこまで」
 次は当てる、そう圧力を浴びせる。白衣の女は溜め息をつくと、渋々口を開いた。
「私は『あの方』に言いましたよ? 『実験も兼ねて私も部下にやらせたいのですが、よろしいですか?』と。だからアレを放ちました。あなたの部下がいたのは微々たる誤算でしだが……。まあ彼にも、あなたにも非があるでしょう。あのダメージで外を出歩かせて、あなたもそれを気づかなかったのですから」
 白衣の女は銃の圧力を毛ほども感じていないようにずけずけと語る。
「……ふん。まあいいわ。あなたのアレも……失敗のようだし。……身の振り方を考えておきなさい」
「……」


――~~♪

 一騒動すぎ、静かすぎるほど無音の屋上にで、そこに不釣合いな一昔前のアニソンのようなメロディが流れる。携帯電話の着信音。白衣の女はゆっくりとした動作でそれに応じる。

「……はい。ご苦労様でした」

 そして、電話を切った彼女の頬はわずかに緩む。

「失敗? アレがやられたから? いいえ。大成功ですよ。私の大事な『おもちゃ』の部品の完成を証明できたのですから」


 言葉と、表情と裏腹に、彼女の目は笑ってはいなかった。そして、視線はとても遠くを見つめていた。何かに思いを馳せるような。そんな目をしていた。




       

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