Neetel Inside ニートノベル
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P-HERO
第十一話:微々たる変化。

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 佐々木会長はああ言ったものの、その後一週間は特に呼び出されることもなく過ぎた。日を追う毎に担がれたのではという疑惑が募りこちらから連絡を取ろうとしたが、逆に期待度の計りになって返って惨めになることになると気づき止めた。
 そんな悶々とした日々を過ごしていたが、その間何も無かったと言えば嘘になる。
 例えば、前の席の金上 香さんがよく話しかけてくるようになった。三日前には金上さんとその親友の米村 朱莉さんと昼ご飯まで食べた。と、ここまで書けば某巨大掲示板にスレの一つでも立てられそうだが現実はそんなもんじゃない。このそんなもんは悪い意味だ。
 基本的に英正は昼食はピロティか屋上で一人で食べる。朋也がいた頃は教室で食べていたがそれも今となっては昔の話。
 昼休みの席とは王座に似ている。一度でも昼休みに席を空ければそこにはもう居場所は無くなる。遠征中の国王不在の中、虎視眈々と王座を狙う策士に奪われるようにその席は占拠される。そして昼飯を取って戻って来たときのあのやるせなさと言ったら……。
 そんなわけで引っ込みがつかなくなり『外食』に移行したわけだが、あの運命の三日前、それは唐突に中断された。
「日向野君は何時も誰かとご飯食べてるの?」
 それは四時間目の授業が終わった直後のことだった。これほど残酷な質問もあるだろうか。解答することがボッチの証明である。当事者である金上さんには悪気が無いから更に返答に困る。
『素直に言えよ』
(そんなことしたら変な同情されて引かれるだけだろ)
 チュウ太の会話はかなり慣れたのも変化の一つか。
『このお嬢ちゃんははそんな娘じゃないと思うがな』
(とにかく話す気は無い)
「どうしたの?」
「あ、いや……ま、まあ、今日は一人……いや、まあいつもはその……」
 ただ、やはり女子とはスムーズには話せない。これはいかに話しかけてくれるようになったとしても簡単には治らないだろう。このせいで幾度と無く会話が中断されたのも辛い限りだ。一応……努力はしているんだが。
「……」
 不安そうに英正を見つめる米村さんがそこにいた。
「ご、ごめん」
「えーと……よかったらご飯、一緒に食べ……ない?」
「はあ……えっ?」
『うっほ!』
「カオー! 飯食おうぜー」
「え?」
「あ、アカリも、いいよね?」
「あの……はい……」
『うっひょおおおお!』
 このように唐突に始まった昼食会。ちなみに席は勉強机を三つ連結させ、米村さんと金上さんが向かい合わせで座り、その上座に英正が座っている。
「それで山下センセーがさー」
「え、本当なのー!?」
 当然の如く英正は二人の間に座っているのに話しの間には入れずにいた。時々二人は英正をちらりと見るが、弁当に夢中なふりをして誤魔化す。チュウ太は呆れて文句をブーブー垂れている。そのまま時間は過ぎ、なんとか昼休みをやり過ごすことに成功した。と、思っていた。
 だがほっと息をつき、席を移動させている時のこと。
「迷惑……だった?」
 金上さんの申し訳なさそうな顔がそこにあった。
「な、なん……?」
「あの……楽しそうじゃ、なかったから……」
 正直楽しくなかった。苦痛でしかなかった。何故って楽しむ余裕が無いのだから。話す余裕もないのだから。心のゆとり、それが物事を楽しもうとする気持ちを呼び起こす。
「た、楽しかった、よ!」
 英正は気を使った。楽しめるわけなんかないんだ。そう言い訳を作った。
「……よかったー」
 そしてそのよかったも気を使ったのだということは手に取るように分かった。
『お前……』
(わかってるんだよ! なんも言うな……)
『俺に当たるなよ……』
 いつも以上に自分が惨めに思えた。

 最低の昼休みだった。

  

       

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