その路地の角は行き止まりだった。酒屋のゴミが散乱していて、誰かが争ったであろうということが分かった。自転車を降りその散乱したゴミの近くへ行く。
 水たまりができていた。ゴミの中から何かが流れて出している。最初は余った酒か何かなのかと思ったが、それは違った。体中がスーッと冷たくなっていくのが分かった。
 英正は恐る恐るゴミをどかす。
「……ッ!? オメンダー……?」
 そこにはまぎれもない、この町のヒーローのオメンダーが倒れていた。

 『オメンダー』は、英正達の住んでいる町『住江町(すみえまち)』のご当地ヒーローだ。お面をつけたヒーローだから。何とも安直。ちなみにこの名前は市長の出したいくつかの案の一つで、住民の投票で決まったものだ。
 そのオメンダー。実は実際に活動している。しかもそれはイベントとかではなく、本物のヒーローとして。いつも風のように現れては絡まれている人や老人を助けたりしている。
 実は朋也はかなりのヒーローオタクでよくオメンダーの話しをしていたのを覚えている。

 そのオメンダーが、何故こんなところに……。死んでいる……のか? 一歩後ずさりした。恐怖で小刻みに体が震える。
『お面をとって顔を見てやれ』
 声の主が言う。英正は一種の正義感のようなものに後押しされ一歩また歩み寄り、震える手を必死にお面に伸ばす。最悪の事を思い浮かべ、それは絶対あり得ないと自分に言い聞かせる。手をお面にかける。そしてゆっくりとそれを外した。
「……」
 朋也だった。手からお面が落ちる。体中の力が抜けていき、頭の中が真っ白になった。声の主は黙ったままだった。
 そっと頬に手を伸ばす。冷たくて、硬かった。
 朦朧とする意識の中、とりあえず警察に電話しなくてはという変な義務感というかそんなものが芽生えていた。ポケットから携帯電話を取り出し、ボタンを押す。数回の呼び出し音の後、『こちら住江町警察署です』という女の人の声が聞こえてきた。
「あ、あの……友達が、いっぱい血ながして倒れてて……さ、触ったら冷たくて……」
「!? 落ち着いて。ね? 一回深呼吸して。いまどこにいるか教えてくれる?」
 思わず従ってしまうような優しい声だった。言われた通り深呼吸をすると、なんとなく落ち着いたような気がした。
「え、えっと、住江町の商店街の、さ、酒屋の角の――」
『隠れろ!!!』
「ほわっ!?」
 不意に声の主が叫んだ。その後すぐ、背後に何かが現れた気配がした。声の主が小さく『クソッ』と言った。
『……まだ早いんだよ畜生。あいつと会うには……』
 声の主は絶望に満ちた声で言った。
 カツン、カツンと足音が近づいてくる。
 英正はゆっくりと振り返る。
「ひ……あっ……」
「どうしたの? ねえ!? ちょっと、大丈夫!?―― ツーツー……」
 驚きのあまり変なボタンを押したらしく、電話の切れた音が、静かな路地に響き渡っていた。