メール内容は至って単純で、ただ一言『今夜七時、生徒会室へ』とだけ書かれていた。そして六時五十分、英正は校門前に立っていた。夜の学校は廃墟のように寂れて見える。門に手をかける。ガチャガチャと金属音が闇に響くだけでびくともしない。
『大体予想してたけどな』
(どうしよ)
『飛び越えちまえ』
 その提案は以前の何でもない英正なら断っていただろう。だが今なら――
「ほっ」
 例え自分の肩程ある門の高さでも、ちょっとの助走でハードル走の要領で簡単に超えられる。
(さて次はどうやって後者に入るかだけど)
 最近の学校はセキュリティーがしっかりしていて、一つでも鍵の閉め忘れがあるだけで警報が鳴る。侵入しようものなら屈強な男達がやってきて豚箱に連れて行ってくれる。
『会長に電話でもしてみろよ』
(メアドしか知らない)
『メールでもいいだろ』
(メールだと返答遅いから嫌なんだよなー)
 取りあえず到着の旨と侵入方法についてメールする。
(これでよし)
――ティロリン♪
「はやっ」
『はやっ』
 メールを確認する。
「本文:あたし、佐々木ちゃん。今あなたの後ろに居るの(はぁと)」
 くだらない悪戯。携帯電話を閉じながらゆっくりと振り返る。が、辺りは薄暗い校庭が広がっているだけで人影は無い。悪戯と見せかけて、ただからかったのか。質が悪い。ならここに呼び出したこと自体が悪戯の可能性も出てきた。何はともあれ取り敢えず校舎に入ろう。少々気落ちしながら校舎にむき直す。
「やあ!」
「ウギャーッ!?」
「ちょっ、シーッ! 俺達は不法侵入何だからな!」
「生徒会長さんっ!? 悪ふざけはよしてください!」
「はは、茶目っ気だよ。それにしても……ふむ。そっちが素か。はきはき喋れるじゃないの」
 カラカラと生徒会長さんは笑った。食えない人だ。英正は呆れ気味に溜め息をついた。
「ああそうそう。校門を飛び越えたよね。ありゃあ駄目だよ。見られたらどうするの」
 今思えば確かに迂闊な行動だった。あの高さの門をちょっとの助走で飛び越えるのを見たら、オリンピック選手が校門で練習してると噂が立ってもしょうが無いかも。自覚は無かったが、この力に少し浮かれていたのかもしれない。
「力の誇示は気持ちがいいよね。出来なかったことが出来るは特に。でもねー、ヒーローは光であって影。ここ重要だよ! 自己主張の激しいヒーローはこの日本じゃ流行らないから」
 ヒーロー。それは人々に認められて初めて成立するもの。誰も求めていない力を振りかざしたところでヒーローには成れない。だが、そのヒーローに生徒会長さんはしてくれる。英正を認めさせてくれる。認めさせる……。
(僕は認めて欲しかったのか……?)
『どうした?』
(いや……)
「さて、じゃあぼちぼち行きましょうか!」
 一行は校舎裏に位置する美術室の窓から侵入した。どうやらここだけはセキュリティーが故障しているらしい。多分嘘だろう。きっと生徒会長さんが何かしら細工をしたのだ。英正が襲われたあの一件は何故か地中から湧きでたガスが引火したということになっていた。何か裏工作があったに違いない。そんなことが出来るならセキュリティーを弄ることぐらい造作も無いだろう。
「さて、着いた」
 生徒会室の前に着くと、中に人の気配を感じた。きっと姐さんだ。生徒会長さんは前置きもなく、自室に帰ってきたかのようにガラガラと戸を開いた。