Neetel Inside ニートノベル
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 上座さんは英正の少し前を歩いた。両者、英正宅を出てから終始無言。英正はそれに少しイライラしていた。どうやって家を特定したかは知らないが、わざわざ押しかけておいて何も言わずにただ歩みを進めているだけとは、一体どういう了見だ。ただの冷やかしでは無さそうだけれど、言ってくれないと分からない。自分から話すだろうと悠長に構えていたら話す機会すら無くしてしまったし、これではただ気不味いだけだ。ああ、ストレスが貯まる。
『つまんねー意地張ってないで聞けばいいだろ』
(そうするよ……)
 もうこれ以上は我慢の限界である。
「あの、上座さん」
 声を掛けると、彼女の足はピタリと止まった。
「今日は何の――」
「遊びに行くわよ!」
「へ?」
 その言葉を理解するのに若干時間を有した。
「何? 私と遊ぶのは嫌なの?」
「いやいやいや……え?」
 言葉の意味は理解できる。そのまま遊ぼうってことだろう。うん、間違ってない。
「あ、遊ぶ?」
 つまり、この状況は、あれか。非リア充男子が掻き毟る程夢焦がれる、あれなのか?
『デデデ、デートだイヤッフウウウウウウウウウウ!!!!』
(うわああああああああああああああああああ!?!?!?)
 体中の汗腺が開いた。体が夏の熱気とは無関係に火照る。
「あ、あうそじょがftgyふじこlp;@」
「ちょっ、何!? どうしたの!?」
「だだだだだだ大丈夫でですすう」
 デートって言ったらあれだ。お手手つないであんなトコ行ったりこんなトコ行ったり終いにはあんなことやこんなことしてもううわああああああああああ!?
 えええ、エスコートしなければ!? 男として!? エスコート!? できんの僕!? うわああああああああ!?!?
『落ち着け! やはり始めが肝心だ。向こうの意見を参考にしつつ男らしく決めてやれ!』
(わわわわかった)
「かか、上座さん! どど何処行きたいですだしょうか?」
「……? まあいいわ。私行きたいところあるから、付き合って」
「そ、そうですね! い、行きたいところありますよね! じゃあどこ行きましょ……行きたいところ?」
『あちゃー』
「だからそう言ってるじゃない。さっきからどうしたの?」
「ああいえ、あの、男……。な、なんでもないです」
「ならとっとと行くわよ!」
 そこから二人は街に繰り出した。どこに連れて行かれるのか当初は身構えたが、ゲームセンターにファミレス、商店街でウィンドウショッピング、以前襲われた公園で一休みし、最後に街から少し離れた街を一望できる小高い丘へ行くという至って普通のデデデ、デートだった。
 丘へついた時には、もう空は少しずつ赤く染まり始めていた。英正にはこの一日はとてつもなく長く感じた。上座さんは終始笑っていたが、時々無表情になる時があった。その度に英正はチュウ太の良さそうで良くないアドバイスを実行し、ど突かれた。
 この丘でも、上座さんは無表情になった。むしろ、悲しそうと言ったほうが適当かもしれない。
 涼しい風が吹いた。少しずつ雲行きが怪しくなってきている。夕立が来る。
「雨降りそうだし、帰りません?」
「ちょっと待って」
 上座さんはそう言うと空を仰いだ。さっきよりも暗雲が立ち込めている。これは帰る前に一雨来てしまいそうだ。
「ほら、雲もすごいですし」
「話があるの」
「いや、それより雨宿りしないと、多分雨降ってきますよ!」
「いいからっ!!!」
「か、上座さん?」

 ポツリ、ポツリと――

「うわっ降ってきた!」
「……」
「ほら、行きま……上座さん?」

 ――雨が降り始めた。





       

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