Neetel Inside ニートノベル
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 その雨はまるで上座さんの涙の様に思えた。
「あんたに話しておきたい事があるの」
 震える声は雨音に掻き乱される。
「これが……私の、力!」
 すでにビショビショの服の袖で涙を拭い、また空を仰ぐ。
「……嘘、だろ?」
 上座さんの様子はこれといってく変わっていない。だが、目の前で起きている現象に英正は呆然と眺めることしか出来なかった。
「空が……割れてる!?」
「正確には、私の半径約五百メートルの雨雲を消しただけ」
「はい?」
「だから、これが私の力! あんたとトモヤの力と似たような物よ!!」
 朋也や英正と似た力。つまりは超能力といった類の異能力。
「え、ええええ!?」
 自分以外でここまでまざまざと異能の力を見たのは初めてで、取り乱さずにはいられなかった。
 だが、それに反してチュウ太は冷静だった。
『なんつう……危険な能力だ』
(き、危険?)
『天候の操作なんてお前、国の一つや二つ、簡単に落とせるぞ!?』
(国!?) 
「本当はここまで大袈裟に力を使う気は無かったんだけど……。今日回ったところ、トモヤとの思い出の場所だったから、ちょっと、興奮しちゃった……」
 上座さんはそう言い終えたかどうかの所で濡れた地面に膝から崩れ落ちた。
「ちょっ!?」
 肩を抱き上げると、体は小刻みに震えていた。息も荒く、これは尋常ではないと感じた。急いで救急車を呼ぼうと思ったその時、背後から人が近寄ってくる気配がした。
「はーい、ご苦労ちゃーん!」
「さ、生徒会長さん?」
 ビニール傘を振り回しながら、ごきげんな様子で生徒会長さんが現れた。生徒会長さんは上座さんをまるで物を見るかのように一瞥し、表情も変えずに英正に話しだした。
「これで準備は整った。おまっとさん。ようやくヒーローの出番だ」
「えっ!?」
「そいつはあれだ、すっげえ能力者なんだよね。天候操作! まあ自分の半径一キロメートル以内だけしか操れないんだけど、それでもすっげえんだよ。すっげえってことはさ、欲しい奴もいるんだよね。そういうのが、今ので多分気づいたはずだ。日向野、そいつらを倒して、ヒーローになれ!」
 ぐるぐると頭の中が揺らいでいる。上座さんが超能力者で、狙われていて、それを倒してヒーローになれと生徒会長さんが言っている。ヒーローになれと、敵を倒せと。それが、ヒーロー。
 スーパー戦隊だって、ライダーだって、敵を倒している。悪いことをする敵を倒して、みんなに認められて、ヒーローになる。当然の事。周知の事実。常識だ。
『違うな。敵を倒した奴がヒーローじゃない』
(違う?)
『お前の腕の中には何がある?』
 腕の中、そこには辛そうにうずくまる上座さんが居た。
『守るんだよ、そいつを。そのために倒すんだよ。本質を見極めろ。お前はただの殺戮者になりたいのか?』
 違う。殺戮者になりたくはない。しかしヒーローになるというのも何故か少し違う気がしてしまう。今振り返っても、自分が何故ヒーローになりたいのか良く解らない。
(でも……)
「とりあえず救急車、お願いできますか!?」
「……あいよ」
 目の前のものは守ろう。そう思った。
 
 










       

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