Neetel Inside ニートノベル
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 病院の中は静かだった。病室には英正と生徒会長、そしてベッドで安らかに寝息を立てている上座の姿があった。部屋の外では先ほど駆けつけた長野の姉さんが見張りをしている。窓を叩いていた雨もいつの間にか止んで、夕日の光も徐々に陰り始めていた。
「覚悟は出来たか?」
 英正には彼女を守る覚悟はできていた。だが自分の中で渦巻く思惑や葛藤が何を示しているかよくわからなかった。それ以前に何故このような迷いが生まれているのか、それが疑問だった。だが途中で面倒くさくなり考えるのを止めて目の前で起こっていることに集中することにした。
「はいっ」
 締りのない上ずった声で返答した。生徒会長は少し苦笑いをした後に、ついて来いと出口へ促した。英正は上座の顔を一瞥し出口へと向かった。
「あら、もう行くの?」
「色々準備もあるしな。今日が日向野君のデビューだし、それは華々しくしないとね」
 生徒会長の言葉はいつでも緊迫性や真剣さを感じさせない。それをどう捉えればいいか分からず英正はただ下を向いた。
『大丈夫だ。こいつはお前をヒーローにしてくれる』
(そうは言っても……)
『ヒーローになりたいんだろ?』
(……)
 ここで問答を始めてしまうと、自分の覚悟が揺らぐ事になる。流されるままに生きてきた英正が自分で決められたこと、上座を救ってヒーローになると言う事は絶対に貫きたい。そう思った。
 病院の駐車場は雨で冷めた風が心地よかった。駐車場は車だけで殺風景だったが、そんな中一つだけ異質な存在感を放つコンテナトラックが一台あった。生徒会長は迷わずそのトラックの後部へ向かい、扉に備え付けてある端末に何やら喋りかけた。と、次の瞬間扉が徐々に開き始めた。段々と中が顕になるにつれ、英正の表情は驚きへと変わっていった。
「さあ、入ってくれ!」
『うおおおおおお! なんだこれ、なんだこれええ!!』
 中は最新の電子機器が所狭しと押し込まれており、奥には何やら電話ボックスのような空間がある。そしてそれを挟むように二人の男女が左右に備え付けられたパソコンに向かっている。
「言葉も出ないか! そうだろう、そうだろう!」
「せ、生徒会長さんは一体何者何ですかっ!?」
「はっはっはっ。今はそんな些細なことは今は関係ないだろう?」
『些細じゃねえな』
(黙ってよう)
 生徒会長の後に続き、恐る恐るコンテナに足を踏み入れた。機材の発する熱気と起動音に少し不快感を覚える。だがそんな中奥の二人は涼しい顔で作業にあたっている。
「佐々木様、準備の方は既に完了しています」
 左側の女性が画面に目を向けたまま感情のない口調で言う。
「おっ、そいつが日向野だな!? こっちもいつでもいけるぜ!!」
 対照的に右の男は暑苦しい。
「さっ、さっ! 奥に、ずいずいーっと奥にね!」
 背中をグイグイと押され、わけもわからないうちに奥の空間へと押し込まれた。
 

       

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