最終話:P-HERO 後半(1)

 そこは病院の駐車場。歩道と駐車場の境を照らす最低限の明かりしかない。そして病院の駐車場であるのにかかわらず、止まっている車は生徒会長の用意したトラック以外見当たらない。そしてそのトラックも先程この場を後にした。
 英正は駐車場の中心にただ立ち尽くしていた。装着されたゴーグルのお陰である程度見通しは効く。しかもこのゴーグルは色々な情報まで表示される優れものだ。だが静かな暗闇に身を置くと、自分が溶けていくようで、自分が自分でなくなるような気がしてくる。
 ただその心に消えずに残る一つの思い。上座を守る。これが辛うじて英正を英正として至らしめている。
 不意に脳天に衝撃が走る。内臓されたセンサーが標的をロックオンし、自動で肩に装着された銃から弾が発射される。そして二秒もしないで着弾の通知が映し出される。
「きたよ日向野君。頭部のダメージは平気かい?」
 生徒会長からの通信が入る。敵が現れたようだ。
「ちょっと衝撃があっただけで、平気です」
「うーん、上々だねぇ! じゃ、お手並み拝見だ」
 闇夜に蠢く影が四つ。一つは右から、もう一つは左から。そして二つは真正面から突っ込んでくる。
 それは事前に生徒会長が言っていた通りの展開だった。ならばこの正面から来た四人全員が囮である可能性が限りなく高い。しかしスナイパーを最初に迎撃できれば後は楽なものだ。全てが自動で終わる。散開する敵に対し勝手に標準が合い、勝手に発砲され、終了。
 その場に立っているだけで、ヒーローになれるのだ。
「囮は全員沈黙した。多分そろそろ敵も上座ちゃんを移送したことに気づく頃だろう。そこを一気に叩くぞ!」
「わかりました」
 英正の思考は装備を着た時にすでに止まっていた。
 駐車場から軽く飛び上がる。病院の屋上より少し高い所から上座のいた病棟を見る。三人の敵を発見。上空からでも標準は常に自動で合う。そして自動で敵は倒れる。
 病院の屋上に着地する。夜風は直接肌を撫でてはくれなかった。ただ画面に映る温度計に十二度と書かれていて、少し肌寒いのだろうと思った。
「よし、よくやった! 君は晴れてスーパーヒーローだ! それと当時に俺達の希望だ。誇っていい!」
 まるでゲームの主人公の様だなと、終わってみて思った。ゲームの主人公はプレイヤーによって操作され、ゲームの世界で最終的にヒーローになる。今の英正の状況に酷似している。ならプレイヤーがヒーローなのか、はたまたゲームの主人公がヒーローなのか。
 きっとどっちもヒーローで、どっちもヒーローではないのだろう。多分、最終的には自分で自分を認められるかで決まるのだ。操れていたが結果大事を成したことに誇りを持てば、それは自他認めるヒーローになれたのだろう。
 では英正はどうだ。
『想像していたのと違うか?』
 チュウ太が問いかける。
(……分からん)
『これが、朋也だ。ヒーローだった朋也、そのものだ』
 分かっていた。だから思考を止めた。自分でヒーローになると決めたと言っていたが、結局レールを引かれ、その上を走っていた。朋也の背中を追いかけていただけだ。
「な、なんだ!? おい、ちょっとまて!! あああ――」
 思考を遮るように生徒会長からの通信が入り、すぐ途絶えた。奥の方で何かが割れるような音や衝撃音も聞こえた。
 すぐにハッとする。先ほど出たトラック。その中には生徒会長と研究員の他にもう一人、重要な人物を乗せていたことを。尋常ではないことが起きた可能性が大きい。少なくとも何かよろしくないことが起こったことは確かだ。
『これがきっと最後のチャンスだ』
(最後……)
『お前はヒーローになった。それで終わりでもいいだろう。ただ、この先もまだあるんだ。ゲームのエンディングの後も人生は続くんだぜ?』 
 また思考を読んだなと、英正はため息をついた。
(正直言えば、もう自分でも良く分からないんだ)
 今度は息を大きく吸い込む。そして、ゆっくり最後まで吐き切る。
「でも、僕、いや俺は、ヒーローになるって決めたから。それだけは自分で決めたから」
 センサーが示す、トラックの方向に体をむけ、走り出す。そして屋上のフェンスの三メートル手前から、思いっきり飛び出した。
sage