群青湖(小説/詩)

『群青湖』(小説)


 動かない水を死水と呼ぶ。
 群青色の湖面に浮かぶ魚の死骸を指差して、あれは鯉かな、そうだ鯉だよ、って言ってる二人は三十歳で、楽しみにしていた人工湖観光なのに思いの他水が汚くて気落ちしていた。
 秋だよ、って。秋だね、って。
 二人と書いたけれど正確には男の方は元・獣で、ヒヅメと尾をうまく隠して世間体を保ちながらどうにか生きている。女の方は爪が割れていて、元・獣のことを理解した振りをしながらも少しは怯えつつ、なんだかんだで愛している。
 青が群れているから、群青って書くんだよ、って。
 夜が近付いて湖面も黒くなり、元・獣男の性欲は昂ぶって、湖畔の錆びたベンチに恋人を押し倒した。誰か来たらどうするの、食うよ、そんなことを言い合いながら二人はたくさんの虫に噛まれながら性交した。元が抜けた獣男の牙がまた女の爪を割る。慣れたもので痛がることもしなくなった女は、獣の獣毛をぶちぶちと引っこ抜いて快感を得ている。
 まだ死んでいない鯉が跳ねて、湖水が僅かに息を吹き返す。
 それから二人は眠って。
 何十年後かに亡くなった。
 二人が年老いた頃には、人工湖は次々と埋め立てられてほとんどなくなってしまった。水を抜く前に既に干からびてしまったものも多く、湖底には様々な死骸が堆積されていて、その中には人や獣も多くあった。
 湖に映る夕焼けを見たかったのにね、と思い出したように女が言う。そうだったっけ、曇ってるな、と獣男は事を終えて眠くてたまらない目をこすりながら、心底どうでもいいことのように呟く。
 秋も終わるね、としばらくしてから言った女の声は、獣男が眠っていたので独り言となり、湖面に吸い込まれて消えていった。

(了)



『群青湖』(詩 こちらが先)


死んでるよ
水が

群青色の湖面に浮かんでいた魚の死骸を指差して
あれは鯉かな、って
そうだ鯉だよ、って
言ってる二人は三十歳で
人口の湖が思いの他汚くて気落ちしていた

秋だよ
秋だね

二人と書いたけれど正確には一人は元・獣で
ヒヅメと尾をうまく隠しながらどうにか生きている
もう一人は爪の割れた女で
元・獣のことを理解した振りをしながらも
少しは怯えつつ
なんだかんだで愛してる

青が群れて
群青に

夜が近付くと元・獣の男の性欲は昂ぶり
湖畔の錆びたベンチの前で恋人を押し倒した
誰か来たらどうするの
食うよ
それから二人は
たくさんの虫に噛まれた

まだ死んでいない鯉が跳ねて
湖水が僅かに息を吹き返す

それから二人は
眠って
数十年後に
死んだよ

湖なら
干からびたんじゃないかな
もしくは青すぎて
腐ったとか
秋ももうすぐ
終わる
陽が
墜ちる

(了)
sage