Neetel Inside 文芸新都
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千文字前後掌編小説集
妻のお腹の中にいる娘がこれを書きました

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 はじめまして。泥辺五郎の娘のココ(仮名)です。今私は生命になってから八ヶ月目で、母のお腹の中にいます。ぼんぼんと母のお腹を内側から蹴っていると、「ほんとに蹴りたい人はお父さんなのにねえ」という母の声が聞こえます。少々Mっ気のある父をいたぶることが母の趣味です。噛みついたり蹴ったり頭突きをしたりしています。私が生まれると父は二人からいじめられることになります。
「大変なことになるなあ」と言いながら父は嬉しそうです。変態だと思います。
「エロでも変態でもなく、真面目で誠実な奥さん一筋の今時珍しい好青年だよ」
「嘘をつけ嘘を! 何人の女に同じこと言ってんだこらあ」
「そんなことないよ。この目を見てよ」
 目をキラキラさせる父に母は目つぶしをしようと指をとがらせています。
 そんな日々の中で私は徐々に成長しています。「父親みたいにエロい子にならないといいけど」と心配する母も充分エロいのですが、そこは言わないでおきます。でも二人の子供であるからこそ、私はエロくなることなく真面目に真っ直ぐに育つ気がします。そんなことを恥ずかしげもなく言えるのは父の遺伝かもしれません。

 父は小説を書いています。私小説風の作品で主人公を女好きにしたせいか、父自身も小説の登場人物に似てきてしまい、母を何度も泣かせています。今は仕事が忙しくてなかなか小説を書けていないようですが、書きたい気持ちは常にあるみたいです。
「ココが生まれたらココのための童話を書くよ」
「あんまり残酷なの書くと泣くよ、私が」
 よしよし、と父が母の頭を撫でています。私は母のお腹越しに撫でられるくらいです。それも父は大抵位置を間違えて、足とか背中を撫でています。父はちょっとアホだと思う時があります。あと変態だと思う時があります。しょっちゅうです。
 父は時々私に歌を聞かせてくれます。でも歌詞をきちんと覚えていないので途中で止まってしまいがちです。「なんでさっきまで『少年時代』歌ってたのに、『泳げタイヤキくん』になってんの?」と怒られながら父は、「これなら自信ある」といって『DAY DREAM BELIVER』を歌い始めます。でもサビだけです。忌野清志郎繋がりで「昼間のパパはー、ちょっとエロいー」と歌い始めて、「昼間だけじゃないだろー」と母に突っ込まれています。

 ふしだらな父ですがよろしくお願いします。
 柔らかな母ですが私がしばらく独り占めします。あげません。
 ではおやすみなさい。またいつか。
 もう眠いのです。にぇむいにょれす。

(了)

       

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