ウィリアム・シェイクスピア(ものかくいきもの)

 数多の戯曲を残したウィリアム・シェイクスピアは実在したのか、複数の作者だったのか、いろいろな説があるが、その正体は女子高生であった。古今東西様々な謎や不思議や怪奇現象があるが、その正体、犯人、実態の大半は女子高生であった。ブラックホールの中心には女子高生がいる。名探偵コナンの黒幕の正体は女子高生である。MAN WITH A MISSIONのメンバーが被っている狼のマスクの下には女子高生が隠れている。ちなみに筆者もそうである。

「ハムレット」は教育実習生への恋から着想を得た。幼い頃から読みふけっていた少女漫画からの影響も大きい。しかし失恋に終わってしまったことから、「マクベス」「リア王」「オセロ」といった名作悲劇が生まれた。それらは大抵通学中の電車の中で、スマホで執筆された。彼女が自転車通学であったなら、数々の戯曲は生まれ得なかったであろう。これを読んでいるあなたが電車通勤者であるなら、周囲の女子高生のスマホを覗いてみるがいい。覗いて騒がれて通報されて捕まって人生を棒に振ってみるといい。彼女らは井伏鱒二で、芥川龍之介で、ダンテで、後藤ニコかもしれない。

 ここから少し、筆者の実体験が絡む余談に入る。
「タイタス・アンドロニカス」というシェイクスピアの初期の作品がある。凌辱を受けた王女が口封じの為に舌と手を切り取られる。犯人は王女の父の後妻の息子たちである。であるから、犯人は身近で過ごしているわけである。
「舌と手を切り取られていたところで、目配せなり、足で文字を書くなり、いくらでも犯人が誰かを伝える方法はあると思うんだよ」
 筆者の休日の間に、筆者担当の仕事を一つ、営業の人間が急に増やしていた。ありがちなことだが、明日から始まる新規の連絡がその前日に、というやつだ。同僚からの連絡メモには、「営業Hの爪を剥いでやってください」と記されていたが、私が出勤した時点で既にHの爪は両手両足全て剥がされた後だった。そこで「シェイクスピアに『タイタス・アンドロニカス』という作品があってな」という話になったわけだ。

「舌を抜くのは勘弁してください。営業ですから」とHは言った。
「鼻毛とまつ毛を永久脱毛というのはどうだろう」
「だから営業の顔をいじろうとしないでください」
「水道管が詰まったりした時に突っ込んで掃除する道具わかる? 針金を巻いたようなの」
「ああ、ありますね」
「あれを尿⚫に突っ込んで、勢いよく上下させるのはどうだろう」
「聞くだけで股間が⚫いのでやめてください」
「『股間が気持ちいいのでやめてください』? お前変態だな」
「痛い、です! 不必要に伏字濫用した上の捏造はやめてくれませんか」
「じゃあ、単4、単3、単2…と段階を踏まずに、いきなり単1電池を肛門に突っ込むのはどうだろう」
「既に単2電池を装着済みなのであまり効果的ではないですね」
 営業怖い。

 そんなわけで今日もシェイクスピアは通学中に新作戯曲の執筆を続けている。執筆に夢中になると降りる駅を通り過ぎてしまう。そのまま終点まで行くこともある。車庫に入った電車の中で執筆を続けて車掌に怒られたことも一度や二度ではない。

(了)

sage