Neetel Inside ニートノベル
表紙

霧隠れの塔
一話

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都の外れにある、誰も近寄らない薄暗い森の奥。
そこには通称霧隠れの塔とよばる場所がある。
霧に覆われ塔の造形はぼんやりとしか見えず、上に行けば行くほど霧は増す。
一体どこまで伸びているのか。それは霧で隠れ全くわからない。
誰が作ったのか。
何のために作られたのか。
いつからそこにあったのか。
誰も知らない。気付けばそこにあり、随分と昔からあるようにも思えたし、つい最近魔法のように現れたようにも思えた。
一説には天まで届く塔を作った為神の怒りに触れたと言われ。
一説には賢者が自らの研究のため魔法で作り上げたとも言われ。
一説には古代王国が財宝を隠すために作られたとも言われ。
一説には魔王が封印されているとも言われている。
この謎の塔に多くの人間が立向った。
塔の謎を解くために研究者が。
まだ見ぬ世界を追い求めて探求者が。
多くの財宝が眠っている事を信じて冒険者が。
しかし……この塔に立ち入り、帰ってきたものは唯の一人もいない。


耳障りな音を軋ませながら霧隠れの塔の扉は開いた。
「せーのっ!」
掛け声と共に放り出された何か……はドサッという鈍い音を立てて塔の中に転がった。
男たちは無事にそれが塔の中に捨てられた事を確認すると馬に跨り無言でその場を去っていく。
人知れず、開いたままの扉は不気味な音を静寂の中響かせて閉じた。


目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。
冷たくかび臭い床。年季の入った天井。びっしりと敷き詰められた石畳の壁。
確か、私は自分の部屋のふかふかのベットで寝ていたはずだ。
ソロモンが一番最初に浮かんだ疑問はそれだった。が、すぐさまに現状を把握する。
ぼんやりとする頭を振り、意識を集中させる。
怪我らしい怪我は見当たらない。痛みも特に無い。身体は無事。五体満足という奴だ。
次に周りを見渡す。それなりに広い、小部屋程の大きさと言ったところか。
特に自分を脅かす危険のあるようなものも見当たらなかったが、後ろにある扉は押しても引いても開きそうに無かった。
とりあえず今のところ危険は無い。そう判断したソロモンは何故自分がこんな所にいるのかについて思考した。
ソロモンは学者である。若干22歳と若くして地位を築き上げた。
彼は非常に好奇心が強かった。加えて頭も良かった。何でもかんでも調べたい事を調べているうちにいつのまにか学者先生と呼ばれるようになっていたのだ。
そんな経緯もありソロモンは全くと言っていいほど権力争いと無縁であった。
他の高名な先生にも怖気づかずにナイフを切り込んでいく。他の学者たちが足の引っ張り合いで忙しい中そんな事をやっているソロモンは真の知恵者等と呼ばれ、一部からは賢者とまで呼ばれるようになっていた。
おそらくそれが気に入らない連中の仕業だろう。というかそれ以外考えられなかった。
腕を組んで犯人は誰か少しだけ思案する。
以前あの穴だらけの論文を滅茶苦茶にこき下ろしてやったカーンか。
それとも衆人の前で完膚なきまでに論破してやったエリウスか。
まぁ誰でもいい。問題はここがどこでどうやって家に帰るかだ。仕返しはその後たっぷり考えればいい。
意味の無い思考をすぐに放棄し、現実的な問題と向き合う。
どこか、について見当はついていた。おそらくここは霧隠れの塔だろう。
霧隠れの塔はもうずいぶん前から人が立ち入ってないはずだ。なんせ誰も生きて帰ってきたもがいないから。皆怖がって近寄らなくなってしまった。
それなら助けを待っていても誰も来ないし、待っていれば勝手に死んでくれる。何より死体を隠す必要が無い。
人を殺すのに今のところ一番適してる場所だろう。
「霧隠れの塔、か……」
もう一度ソロモンは周囲を見渡した。
何の変哲も無い石畳の道が広がっている。
ただし薄暗く、周りをなんとか確認できるものの奥の様子は全くわからない。
振り返り扉を見つめる。
これさえ開ければ。外とここを繋ぐそれを白く細い指でなぞった。
頑丈そうな扉は非力なソロモンにはとてもじゃないが壊せそうにも無かった。
おまけに魔法的な力も作用してそうだ。少しだが古代文字が読めるソロモンにはそれがわかった。
一人大きく嘆息して見せ、そして小さく笑った。
「ふっ。面白い。どうせならこの塔の謎も解いて帰ろう」
なに、調べるのが少し速くなっただけだ。そうでも言わんばかりに勇みよく歩み始める。
少しも臆する事無くソロモンは前へと突き進む。
そこに一体何が待っているのか。自信に満ち楽しげなその表情には恐怖の色はどこにも見えなかった。
重ねて言おう。彼は非常に好奇心が旺盛なのだ。

       

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