Neetel Inside ニートノベル
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マンションの脇についた螺旋階段をかけて上った。
上るにつれて、自らが何かから解放されるような、
そんな錯覚に陥った。

不思議と、親の顔も浮かばないし
今までの思い出も走馬灯のように
よみがえったりもしない。
躊躇いがなかった。

どうせなら顔から落ちよう。
このひどい顔からも解放されよう。



半分を切った辺りから、息があがり出した。
苦しさに負けてしまわない様に、
私は歌を歌った。


「うーえーをーむーいて、あーるこおー」


涙がこぼれないように。
私は必死に上をむいたつもりだった。
でも駄目だった。私は駄目だったんだ。
ならば最後くらい、笑顔でいよう。
私は笑顔でうたを歌った。


20段を切った。カウントダウンを始める。

もうこの頃には下にいた時ほどの余裕はなく
精一杯息を吐き出すように、か細い声しか
出せなくなっていた。それでも私は
できる限りの精一杯の声でカウントをした。


10段を切った。
ここにきてやっと、涙があふれてきた。
さっきまでの高揚感も薄れ、ただただ
自分は今から死にに行くんだという
現実を、一段一段かみしめ始めた。

5を切る。
4、3、2、1・・・




「えっ・・・」


屋上につくと私は
呆気にとられた顔を浮かべてしまった。


「鴨がネギしょってとは、よく言ったもんだよ。」


仮面をかぶった変態が立っていたのである。

       

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