Neetel Inside 文芸新都
表紙

ピーラー
一、スロースターター

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「てかガチで合わないっていうかー、ひゃぁ、あ、もう、お兄ちゃんっ、聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる、どーぞ続けて」
「ちょっと、胸、触らぁ、ないっ、で、ぁ!」
 お兄ちゃんはあたしの背中に手を回してホックを外すと、ブラウスの第二第三ボタンを外して手を差し入れてきた。ブラが変な方向に持ち上がって、反抗をしてみたけれど無駄だった。お兄ちゃんはあたしの話を聞く気はないみたいだ。お兄ちゃんの部屋でベッドに転がりながらあたしは声を上げる。そしてそのまま始まってしまって、あたしもお兄ちゃんも適当に下着を下ろす形でセックスをした。お兄ちゃんはあたしの首元に顔を埋めて、あたしはぼんやりとヤニで汚れた天井を見つめた。
 あたしが小六から続くお付き合いというものは、今年で五年目を迎えようとしている。小学生だったあたしはこの春に高校生になり、大学生だったお兄ちゃんはもう社会人二年目だ。ロリコン気味のお兄ちゃんと呼べって言う変態も混じっている彼氏と、飽きっぽくて人情が薄めなあたしでよくもまぁ五年も続いたものだ。途中、音信不通や別れたこともあったけれど、今はお付き合いをしている。
 実際五年近くこの男に縛られているのもどうかと思うのだが、持ち前の男運の無さでこれ以上の男が周りに居ないから妥協策だ。学生同士の恋愛も楽しそうだけれど、大人の恋愛ってのもそれはそれで良いもののはずだ。
「お兄ちゃん部署移動出来た?」
「あー無理だった。やっぱ二年目じゃ無理だ。名刺も舞にやったまんまだよ」
「営業部平戸都ってやつ?裏に英語書いてあるやつ、タカシーヒラドーっての」
 お兄ちゃんが煙草を吸う横であたしも煙草を吸ってお互いに煙を飛ばす。あたしは細長くてメンソールの香りがする薄いの、お兄ちゃんは真っ赤なパッケージの親父臭いの。煙草を吸いながら唇の皮を逆立てて捲りとる。
「舞は高校で友達出来たか?」
「出来たって言ってんじゃん!もー話全然聞いてない!!バカ!」
「聞いてたよーだって気合わないって言うじゃんかーそーゆーの友達つうの?」
「言うよー、友達は友達だよ!」
 お兄ちゃんとはそのまま少し話して、煙草をあたしは二本、お兄ちゃんが五本消費したくらいで家に帰った。家で風呂に入って制服にファブリーズをする。夕飯を適当に作ると、テレビでプレミアリーグの録画放送を見ながら食べた。明日登校するのが気が重い。
 お母さんの分の夕飯をラップをかけて、冷蔵庫におひたしと酢の物を仕舞って、鶏肉のトマト煮と南瓜の煮物はそのままテーブルに置いておいた。最初は手紙を置いていたけれど、今はもう置かなくなってしまった。 

 

 あーそう、だから何だっていうの、チャイナもニガケも樽もトーマスも誰だかわからないし、どうでもいいのよ、そんな知らない連中の話は、何で数日で同級生の区別付いてるのよすげぇなおい、ってか噂話って何が楽しいのか全然わからないわ、本当にっっ!!
 心の中をひた隠しにしながら、そうなんだーと笑顔で相槌を打つ。イライラが止まらない。右手で箸を持ってブロッコリーを口に運び、左手では親指の逆剥けを削り取りながらその手を机の下に隠す。
 ナギーが大声でホント気持ち悪いんだって、授業中見てみてよ今度、と言うと、花音はあークッソ、私チャイナより前の席なんだよねーと笑った。私隣の席だからガチ迷惑なんだけどーと、セーラ様は周りに聞こえるような声で笑う。物凄い溜息をつきたいけれど堪える。昼食を取るために、あたしとよっしーの席を繋げた即席のテーブルでは自分の席に戻る快楽すら失われている。
 高校に入って数日、あたしはストレスフルな日々を過ごしている。どうしてこんな事になってしまったのか。それは、そもそもあたしが中学の友達が一人も居ない高校に入学してしまい、そしてあたしに初対面でその人と合うかどうか見抜く技術が無かったからだ。そんな無能のために確実に気の合わないグループに入る事になってしまったのだ。数日前に良かったぁ、友達が出来てと喜んでいた自分の頭をタイムマシーンに乗って戻って叩いてやりたい。でも今更このグループを抜けるわけにもいかない。そういうのってとっても面倒くさいのだ。
 だからあたしは全ての気持ちを仕舞いこんで人間ピーラーになる。唇はグロスを塗っているから皮剥き出来ないけれど、指の逆剥けを逆立てて剥ぎ取る。今あたしの指は肉が見えたり血が見えたりしている。これを止めるためにはスカルプを付けるしかない気がする。小汚い癖だと判っている。だけど止められない。実際皮だけ剥けるより障害があって、肉ごと剥ぎ取られる方が気持ちいいのだ。あたしは真性のMなのかも。元々の癖がストレスで悪化している、きっと一ヶ月くらい経てば治るだろう。というか治ることを願う。

       

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