Neetel Inside 文芸新都
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 家に帰って夕食を作る。お米をといで、少し水を吸わせている間に油揚げの油抜きをして、人参を短冊切りにする。鶏肉を一口大にぶつ切りをしている時にイラつきが湧き上がってきて、ごすんごすんと大きな音を立てて包丁を鶏肉とまな板にぶつけた。このイラつく思いをぶつけるために南瓜を力いっぱい切りつけて、煮物を作った。
 一人で夕食を食べて、自分の部屋に戻って、テストのための勉強をした。学校で配布されたプリントやノートと共に演習本を解き続ける。二回目くらいでようやく覚えられて、さらさらとノートに答えを書き写していく。
 次の日のテスト科目でやろうと考えていたノルマを大体こなすと、机に向かいながらピーラーをした。左手の人差し指から順に逆剥けを削り取る。夢中になって剥いていると、左の薬指の逆剥けは大きく肉を剥ぎ取って、血が滲んだ。薬指を口に含んで血を吸った。鉄のざらっとした感触が舌の上に乗る。生臭いけれど生々しくない死に近い匂い、鉄の味、さらりとした口当たり、最高に美味しい体液だと思う。
 指を吸いながら、自分が何にイラついているのかよくわからないことに気付いた。あたしは何がイラつくんだろう。自分で蒔いた種に近いのに。いや、わかっているんだ、きっと、ナギーとの二人で過ごすこれからは、今以上にイラつく日々になることが想像出来て。それを一時的な自己満足のために自ら招いた自分にイラついているんだ。
 薬指の血がある程度止まって組織液みたいな物が出てきたから、あたしは右手のピーラー行為にうつった。


 テスト自体は特に難なく終わった。まだ明日も続くけれど。テストが終わって一息ついていると、ナギーが寄って来て色々問題について文句を言っていて馬鹿らしかった。
「あの問題無くない?問題の意味自体がわかんないんだけどー」
「まーねー、何とか選択肢で絞る?みたいな?」
 あたしの机の横に寄りかかってナギーは顔を顰めて言葉を続ける。あたしは手元で参考書を開きながら話を聞き流していた。目の端に花音らが見えて、そっちも何かを喋っている様だった。教室内はざわついているけれど、テスト期間中ということもあって、いつものメンバーで集まっていない所も多い。だから、あたし達の分裂はそんなに目立っていなかった。
 それにしても、筆記試験に後からぐちゃぐちゃ文句を付けてどうするのか、あたしにはよくわからない。そう言った所で正解も不正解も変わらないし、点数も変わらない。無駄だ。そんな思いは微塵も出さずに、ナギーの愚痴に付き合った。じゃあ一体どんな問題だったら納得するわけ?という言葉はぐっと押さえた。

 その日はテストの後に英語の補講があって、あたし以外のクラスの人も文句を言っていた。テスト中にやるなんて意味わかんない。その愚痴はナギーとは分かり合えて、文句を言っている間に英語のヒエギ先生が入ってきて、ナギーは席に戻っていった。
 ヒエギ先生はテスト中にごめんなさいねーと大して悪びれもしていない様子で授業を始めた。あたしは明日のテスト勉強をしながら、授業を受けた。せめて明日にこの英語があれば良かったのだけど、明日は切ない事に化学と現代文と数Ⅰだ。
「次は若林さん、EX2を」
「……えっと、1は身体はいつも綺麗にすべきです。2はこの花瓶はとても高価かもしれません。3は見つからないものとあきらめるべきです。」
「はい、1と2はいいですけど、ふふっ、3はmightですよ?mightにそんな使い方ありましたか?」
「……さぁ」
 あたしの受け答えに先生は大きく溜息をついて正解を述べた。あんたが溜息つく前にあたしがつきたいっつうの。笑いながら嫌味言ってくんじゃねぇよ、間違ってるんだったら間違ってるでいいじゃねぇかよ。この時期にイライラさせんじゃねぇよ。
 当てられる人があたしから次の人に移ってから、あたしはテスト勉強を放り出して昨日組織液まで出して痛めつけた左の薬指を弄った。痛めている横から厚めの皮を剥ぎ取って、悪化させていった。

       

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