Neetel Inside 文芸新都
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 中間テストは間も無く終わった。大失敗というのも無ければ、成功したというような教科もない、普通の出来だった。
 テストが終わってすぐナギーに打ち上げにカラオケかサイゼでも行かないかと誘われたが、断った。お兄ちゃんとの約束があったからだ。断った時凄い顔をされて、ただ只管に謝った。予定が重なった事をこんなにも謝らなきゃならない理由が理解できなくて、イライラした。ナギーはあたしの前では仁王立ちで眉をしかめて文句を垂れていたが、あたしから離れると酷く気落ちしているように見えた。 
 その後メールで花音にも打ち上げに誘われたけど断った。花音達の打ち上げは豪勢で、花音達以外にもクラスの男子が数人来るらしかった。メールで先約があることを告げて、また謝った。花音はじゃあ仕方ないねと絵文字付きのメールが来て、花音と目配せをし合って頭を下げた。あたしが思っている以上に花音達はあたしの事を裏切り者とは把握していないみたい。もしかしたら、よっしーが何か口添えをしてくれたのかもしれない。
 そのメールをして、学校を出る前にトイレに行こうと廊下を歩いていると、クラスの男子に声をかけられた。
「悪ぃ、若林今日どこだっけ?」
「は?何のこと?」
「あれ?今日の打ち上げお前来ないの?」
「ああ、あたし予定あんだよね、だから行けないの、花音達に聞いて」
「マジかよー、ま、そっか、わかったわ」
 名前もきちんと覚えていない男との会話を終えて、男は軽く手を振った。あたしはごめんねー、楽しんでーと手を振った。今日は何度無駄に謝れば済むのだろう。
 トイレに入って化粧直しを済ませた。化粧直しと言っても皮脂を取ってグロスを塗り直して香水をつけるくらいなのだけど。そして、お兄ちゃんとの待ち合わせのコンビニに行った。
 コンビニで色々な新作をチェックしていると、お兄ちゃんが入ってきた。髪の毛がぴっちりと頭に張り付いて、グレーのスーツを着ているお兄ちゃんは少し野暮ったかった。薄っぺらい素材のスーツにネクタイの青のストライプだけが悪目立ちしている。
 お兄ちゃんが何かを買って会計を済ませてコンビニを出た後に、あたしも声もかけずにコンビニを出てお兄ちゃんの車に乗った。いつもコンビニを集合場所にした場合はこう。女子高生と付き合っているってことは淫行だか何だかで捕まる可能性があるから隠したいらしい。全くこの国は面倒くさい。十六から結婚出来るくせに成人とセックスしたら淫行で成人が捕まるって仕組みに矛盾は感じないのか。あたしは経済能力もない十代の男と結婚する気なんて起きないけどな、と思いながら無言で車内で煙草に火をつける。
「舞、走り出してからにしてくんね?」
「ごめん、堪ってて」
「やべ、今のエロく言ってみてよ」
「いーやーだー」
 あたしがしかめっ面でそう言うと、お兄ちゃんは舌打ちをして、ぶっさいくと笑ってから自分の煙草に火をつけた。狭い密室空間で吸う煙草は本当に美味しい。制服なんかに臭いがすごくついてしまうけど、最高に幸せな空間だ。
 車を走らせてお兄ちゃんの家に向かう。その間にお喋りをしていると携帯が震えた。覗いてみるとナギーからメールが届いていた。
「出島からメール来たよ」
「面白かったら見せろよ」
 開くとまた長文で、面白いよとお兄ちゃんに申告した。内容は花音達が打ち上げに行くのを見かけたらしくて、男引き連れて盛り付いた雌猫みたいとか言っていて意味がわからなかった。どう見ても妬みにしか見えない文章だった。
 お兄ちゃんの家に着いてから、お兄ちゃんがスーツと靴下を脱いでいる間にあたしは一本煙草を消費した。もうお兄ちゃんと会ってから五本くらい吸ってしまっている気がする。ベッドと壁に寄りかかって、煙草を吸っていると、お兄ちゃんがほいと手を差し出したので、その手にナギーからのメールを開いた携帯を乗せた。
「やっべー、出島マジ面白ぇ、何こいつモテねぇの?雌、猫、って!やべ、息苦しい」
「他人事だったら笑い事なんだけどさー」
「舞上手ぇー」
「ガチで笑い事じゃねーんだけど。あーマジでうっぜぇぇぇぇ!何なのコイツ意味わっかんねぇぇぇ!!知るかっつーんだよ、男と打ち上げしてぇんだったら自分で集めてやれよクソがよ。そんなにてめぇが中心になりてぇんだったら北極にでも行けよ、お前中心で地球回ってくれるっつーの」
 吐き捨てるように言うと、お兄ちゃんは舞ちゃん超怖いーと笑った。何だよ、あたしはこれに返信しないといけないのだ。今度は一対一だから、誰かのメールを参考にすることすら叶わない。煙草に歯形を付けながらメールの文面を考えていると、煙草の灰が溜まって短くなってきたのでヘッドボードの灰皿に押し付けた。
 ベッドの上で四つんばいになっているあたしに後ろからお兄ちゃんが圧し掛かってきた。首筋と耳に口付けされてくすぐったい。あんな暴言を吐いた後に欲情されたことに驚きだ。
 そのまま押しつぶされて、何度かキスをされると振り向かされた。目の前にお兄ちゃんの顔があって押し倒されている。あたしはお兄ちゃんにキスを仕返して、身体を入れ替えた。騎乗位みたいな体勢だ。
 お兄ちゃんの耳に舌を這わせながら、お兄ちゃんごめんね、堪ってて、と呟いた。ピーラー作業と煙草とセックスでストレス発散なんてあたしは本当に女なのか。そんな思いはセックスが始まってすこし経ったら忘れてしまった。

       

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