Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 つりそうになる腕で身体を支えながら、後ろからお兄ちゃんが挿入してきた。スカートを捲り上げられて、お尻を持ちながら動かれると屈辱的で気持ち良い。目の前の灰皿と目覚まし時計、ティッシュの箱が小さく揺れていた。
 お兄ちゃんは引き抜いてお尻に出した。右尻に生温い感覚がして、コンドームを着けてなかったことに気付いた。
「着けてないとか最悪ー、あたし無理、拭いてよ」
「足が……」
 お兄ちゃんは意味のわからない言葉を呟きながら、ティッシュに手を伸ばして拭いてくれた。少し変な感触のするお尻の上からパンツをはく。
 二人で壁に寄りかかりながら煙草を吸った。セックスした後の煙草は妙に苦い。
 舞、と声をかけてお兄ちゃんはあたしの左手を取った。そして、あたしの中指と薬指の爪にキスをした。どこぞの韓国人俳優みたいと思ったけれど、あたしはそれを煙を吐きながら見つめる。
「また逆向け剥いただろ?痛々しい」
「別に誰もそんな所チェックしないよ。あたし学校に友達居ないし」
 友達居ない、は嘘かもしれない。友達面して付き合う相手はいるから。心を許した友達、親友が居ないと言ったほうが正しい。
 キスされた指先は、気持ち悪い生温かさと柔らかさがあって、むず痒かった。組織液が出るほど抉った指先に舌先が何度も当たって、舌で抉られているみたいだった。お兄ちゃんの舌が猫みたいにざらついて、そのままその肉を抉ってくれればいいのに。煙と菌で汚れた舌から、あたしの皮膚を侵食してそこから腐り落ちるようにしてくれればいいのに。
「くすぐったいよ……」
「口寂しい」
「……煙草無くなった?」
「いんや」

 

 朝はいつも早く学校に行く。よっしーとたまに一緒になったりしていたけれど、最近はよっしーの電車より一本遅いので行っている。一緒に学校に行っているのをナギーに見られると面倒臭そうだから。
 始発から三本目の電車に乗って椅子に座る。乗車率六十パーセントくらいの車両で、あくびをしながら文庫本を広げた。図書館で借りた薄汚い本に挟まった栞を取る。トミーの星型の栞は星の先が曲がってしまっている。
 降車駅に着いて、電車から降りると、隣からおはようと声が聞こえた。男の声だったので、知らない人だと無視をして改札口へ進んだ。その声の主はあたしの横に来て、もう一度どもったような声でおはようと言った。
 顔を右に向けると、同じ学校の制服を着た知らない人が立っていた。知り合いかよくわからなくて、顔をガン見したが、ガチでわからなかった。
「おはよう」
 とりあえず、挨拶は返した。二人で歩きながら改札を抜けた。
「あっあの、姿見えたから、早いね若林さん」
「そんな事ないよ、朝練?大変だね」
「いやっ、僕は朝早く自習室に行くのが好きだから。家って勉強出来なくて」
 あたしもーと言いながら、何故か一緒に学校に向かう。誰だお前とは口に出せなくて、適当に名前についての言及は避けて会話を続けた。朝の明るく清潔な空気にあたしとその男の組み合わせはチグハグのように見える。目を合わすとすぐ目を反らされるし、真っ黒な髪の毛に少し白髪が混じっているし、学ランの下は普通にワイシャツを着ていそうな普通のダサい部類の男だ。鞄は多分パタゴニアと思われるリュック、というよりザックだ、大きくて登山用みたい。
 クラスメイトの名前と顔と声のデータをフル回転させるけれど、何分容量が少ない。目立たない、しかも男の名前なんか覚えてない。大体何であたしになんか話しかけてきてるんだ。
 結局最後まで名前はわからなくて、教室で別れた。荷物を教室に置いてあたしは生物室に向かったからだ。席の場所はわかったから、後で授業で当てられた時にでも確認しておこうと思った。

 ホームルームで教室に戻ると、ナギーは朝練から帰って来ていて、色々と愚痴を聞かされた。それでも、先輩で凄い人が居るとか、同学年ではボスを張れそうだみたいな話が聞けて、良かったねと素直に頷けた。大分あたしも慣れてきた。
 ホームルームでヒエギ先生が早々に担当のテストを返却してきた。教室内がざわめいて、目立つ男が先生に早すぎて心の準備出来ねぇと言って、皆が笑う。確かに、早い返却に凄いなぁと思うけれど、何となくあたしはこの先生が好きでなく、自クラスだけ早いんじゃねぇのと肘を付いて眺めていた。
 あたしは出席番号で言うと一番最後だからぼんやりと配布を見つめる。
 つうか判り易過ぎる。きっと良い点だろうと思う人にはヒエギ先生は笑顔で、悪い点だろうと思う人には無表情だ。あんなんなら、張り出された方がマシだ。
 花音は軽く笑顔、ナギーは無表情、セーラ様は笑顔。どうやら今朝喋った人は立花君と言う人で、笑顔で返却を受けていた。よっしーが立ち上がって、続いてあたしも立ち上がった。
「はい、若林さん」
 笑顔で答案を返されて、睨みながら、どうもと返答した。得点は八十三点だった。こんな点数で笑顔で渡すんじゃねぇよと左手の人差し指で親指の逆向けを逆立てた。
 やっぱりあたしこの先生とはきっと合わない。

       

表紙
Tweet

Neetsha