Neetel Inside 文芸新都
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そんなもの飼ってどうしようっての?
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 俺はペットが飼いたかった。

 世にはネコ派やイヌ派なる人々がいて、どちらが愛くるしいかなどと平和な話題で争っているようだ。しかし言わせてもらえばどちらも可愛いに決まっている。犬猫にとどまらずハムスターだろうがインコだろうが、もっと言えば蛇だってかわいいもんだ。とにかく俺はペットが何でもいいから欲しかったのだ。もうなんでもいい。

 犬猫などの大きな動物ならともかく、ハムスター程度ならば購入後になし崩しで飼育許可を得られる。そんな根拠のない自信を胸に秘めてはいたが、小学生の俺にはおこづかいという名の自由裁量権は与えられてはいなかった。金は出せない。

 そうとなれば野生の生き物を捕まえるしか道はない。近くの川にはザリガニも住んでいる。学校の帰り道で見かけたお化けミミズ(シーボルトミミズ)を探しに行こうか。冒険心を胸に腰を浮かしかけた俺だが、外に出かけるまでもなく我が家の室内にそいつはいた。
 コクゾウムシ。

 コメを食べる害虫。体長3mm前後。黒褐色でくりんとしたフォルム。米粒より小さいそいつはおばあちゃんのくれた無農薬米をガジガジとかじっていた。こら、やめろ、許さんぞ。もうこいつでいいんじゃないかなぁ、外に探しに行くの面倒だし、幸せの青い鳥は自宅にいたんだ!彼の身体能力は夏休みを控えて元気がありあまった小学生の俺と比べればゴミクズ以下。あっさりと捕獲ができた。ははは、例え一万匹いても俺には及ぶまい。哀れな奴め。
 
 仏の○○と自称するほど慈悲深い俺は、もちろん彼に孤独な獄中生活を送らせる気などなかった。手早く数匹の仲間たちを捕獲する。名前は付けない、だって♂と♀すらわからないから。次は小学生の好奇によって囚われの身となった彼らのために、アルカトラズを用意しなければ。

 おもちゃ箱を漁って見つけたそのビンはそこが広くずんぐりとして透明、反り返ったガラスの絶壁は滑らかで、1万匹いても俺に及ばない雑兵たちには突破不可能に見えた。俺は先住者である綺麗なビー玉たちにご退場いただいてコクゾウムシ君たちを放り込んだ。後はコメを一掴み投入してやれば完成、害虫だけあって育成するのに手間がいらないな。

 後はながめるだけの簡単なお仕事です。おお、歩いてる歩いてる。かじってるかじってる。ははは、可愛くはない。
 ストローを細かく切って入れてみる。おお、通ってる通ってる。あ、SEXしてる。昨晩はお楽しみでしたね。可愛くはない。
 米粒を食い破って出てくる。まるで鳥のひなが卵を破って出てくる様だ。生命の神秘を感じてしまう。可愛くはない。
 
 1週間後、そこには
ウゾウゾウゾウゾ、ウゾウゾゾ、ウゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾウウゾウゾ、ゾゾウゾ、ウゾウゾゾウゾウゾウゾ、ウゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾゾゾゾ、ウゾウゾゾゾゾウゾウゾウゾウウゾゾウゾウゾウゾ、ウゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾゾゾゾ、ウゾウゾゾゾゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾウ、ウゾウゾウゾウゾウゾ、ウゾ、ウゾウゾウゾウゾゾゾゾ、ウゾウゾゾゾゾウゾウゾゾ、ウゾウゾウゾウゾウゾウゾウゾウウゾウゾ、ゾゾウゾウゾウゾウ、ウゾウゾウゾウゾウゾ、ウゾ、ウゾ

 魔窟。

 俺は、そもそも、虫が嫌いなんだ。

 俺は哺乳類も鳥も魚も爬虫類も好きだけど虫は嫌いなんだ。
 虫のあの細長い手足、半端に強度はある癖にちょっとした不注意でもげる。もげる。もげる。おぞましい。ちょっと力を込めれば潰れる、そんなか弱い存在くせに人の顔の方に飛びかかってくる蛮勇。おぞましい。うとましい。存在が憎い。
 処刑だ……。処刑してしまうしかない……。もともと我が家の兵糧を狙った犯罪者。今まで生きながらえ最後に子づくり青春を謳歌できたんだから、ありがとうございますと言われてもおかしくはない!

 だがそこは仏の俺である。できるだけ眠るような穏やかな死を与えてやりたい。凍死である。冷凍庫に気味の悪いものを投入しようとしている俺の頭を、母が3度もはたいたが関係ない。さあ、俺の温情に涙しながら安らかに死ね。コクゾウムシたち。

 その後は凍りついた彼らを、鬼はー外!鬼はー外!と連呼しながら通学路に撒いた。そんなほほえましいエピソードしか残ってはいません。

 

       

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