Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
12『アヴァロン・2』

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 一回戦第二試合は『ミズキ』VS『ロボキチ』
 トーナメント表からホロセウムに視線を移すと、すでに両者向かい合っていた。ロボキチというのはどうもおじいさんだったらしく、赤い帽子に色が落ちたオーバーオール。その下には黄色と赤のボーダーTシャツ。さらに赤いマントを羽織っている。
 年相応のシワが彫り込まれた顔にメガネをかけているが、妙に若々しい。少年が老人の特殊メイクしてるみたいだ。
「ひょひょっ! ワシの名はロボキチ。神出鬼没の老人コマンダーじゃ。噂は聞いとるよ。『アイス・フェアリー』の異名を持つ、ミズキちゃん」
 ロボキチさんは顎に手をやりながら、不敵に笑ってみせる。その仕草だけで、「あ、あのじいさん変わり者なんだな」ってわかった。
 それをミズキは、相手にもせず、飴を舐めながらマーキュリーのカスタマイズに勤しんでいる。あいつも随分神経図太いよね。つうか、あいつも異名あるんだ。いいなーかっこいいなー。俺もなんか『狂乱春雷』とか、『疾風一閃』とか、そういうかっこいい異名欲しい。シイナとエリナも『期待のツインズ』ってのあったし。俺だけなくない?
「おじいさん、カスタマイズしなくていいわけ」
「ワシか? ワシはすでにカスタマイズを終えとる。ミズキちゃん待ちじゃよ」
「あ、そ」
「しかしなぁミズキちゃん。このホロセウム、つまらんと思わないか」
 ミズキはカスタマイズ画面から、視線を外して、ホロセウムを見る。先ほどシイナとエリナがカズマとやった、海底ステージだ。
「別に。ホロセウムにつまるつまらないなんてないでしょ」
「ひょひょひょ。まだまだ青いのうミズキちゃん。ホロセウムに合わせたカスタマイズはカスタムロボの真髄じゃ」
 そう言って、ロボキチさんはホロセウムの側面に備えられたキーボードに何かを打ち込んでいく。ホロセウムの形が変わって、マグマに向かってベルトコンベアが伸びるホロセウムになった。
「これくらいでないといかんよ。ホロセウムは」
「ちょ、あんなんありかよ!!」
 非難を口にするが、カリンさんは俺の肩に手を置いて苦笑する。
「あの人ああいう人なの。仕掛けたっぷりホロセウムが大好きで、自作のホロセウム作ってるから」
 それだったら、いくらでも自分に有利なホロセウム作れるじゃねえか。
「ミズキちゃんはこれでいいかの?」
「構わないけど」
 歳の割に白い歯を見せて笑うロボキチさん。
 二人は、同時にロボキューブをホロセウムに投げた。
「神出鬼没のオヤジコマンダー、ロボキチの実力を見せてしんぜよう!」
「氷結の舞、見せてあげる」


 二人のロボがホロセウムの中心に降り立つ。ミズキのマーキュリーと、黒い眼帯と赤い帽子を被った老人型のロボット。

 えーと、ファニーオールドマン型の独眼爺ってやつだな。空中ダッシュが六回まで可能で、一回一回が長く、空を飛ぶみたいな感じらしい。その変わり地上での動きと防御力が低いんだよな。
「さあミズキちゃん。どこからでもかかってきなさい」
「……その余裕、ムカつく」
 ベルトコンベアが動き出し、マーキュリーが跳ぶ。独眼爺に照準を合わせ、フリーズボムを放つ。独眼爺は、小さくジャンプし、地面スレスレで空中ダッシュ。独眼爺の地上スピードは遅いが、空中ダッシュならそれよりは速い。使い方を心得ているなぁ。年の甲ってやつか。
「ちっ……」
 小さな舌打ちをしながら着地。そして、ブレードガンを独眼爺に放つが、彼は壁の後ろに隠れブレードガンを防いだ。
「もう一度……」
 ジャンプしようと膝を曲げた瞬間、壁の横、何もない空間から何発かの弾丸が飛び出してきた。
「っ――!?」
 不意を突かれた所為か、ミズキはそのガンを躱し切れず、腹と足に弾丸が突き刺さる。
「くっ……!! トラップガンか……」
 トラップガンは……確か、地上ではしばらくした後に発射される小さな弾丸をセットし、空中ではまっすぐ相手に向かって飛ぶ弾を発射する特殊なガンだ。よーく見ると空中に黄色い粒が浮いてるのがわかるんだけど、戦ってると意外に見えなくなるものなんだよな。
 トラップガンに襲われ、ふっ飛ばされたマーキュリーは、そのままマグマへと落ちる。
「っつ!!」
 さすがクールなミズキ。リアクションは小さかった。思いっきり飛び上がり、ホロセウムの中心へと落ちて、独眼爺が隠れている壁に向かって、憎しみとも言える視線を投げる。
「よくも……!」
 独眼爺が壁から飛び出し、ポッドを放つ。3つの小さなロボットが壁にぶつかりながらステージ内を縦横無尽に駆けまわる。あれはリフレクションポッドだろう。そこからさらに、山なりに相手へ向かって飛ぶクレセントボムを放つ。
 どれも時間差で相手を攻めるパーツだ。
 空中に上がった独眼爺は、ホロセウム内をぐるりと周り、トラップガンを放つ。
 ミズキはその、独眼爺が放った攻撃を全て確認する。ボムの起動、クレセントボムの着弾速度。そしてトラップガンの軌道を確認。リフレクションポッドを躱しつつ、スカイフリーズポッド二発を空中に放ち、独眼爺の動きが空中で止まる。
「おおッ!?」
 そこから、ミズキは壁の上に飛び乗り、さらに空中の独眼爺をマグマに向かって蹴り飛ばす。見事マグマへと落ちた独眼爺は、「あちちちちちッ!!」と、さきほどのミズキと同じように飛び上がってきた。
「おかえし」
「ひょひょっ! 小癪なお嬢ちゃんだ!」
 空中にとどまったままのミズキは、さらにフリーズボムを放ち、独眼爺が空中ダッシュでそれを避けると、ブレードガンを連射。
「甘い甘い!」
「どっちが!」
 独眼爺が空中ダッシュで向かった先には、先程ミズキが置いていたスカイフリーズポッドの残りがあった。それに正面からぶつかってしまい、また空中で独眼爺の動きが止まる。
「ぬお……!」
 空中で停止した独眼爺に悠々と照準を合わせ、ミズキはブレードガンを放つ。
「バイバイ。おじいさん」
 銃口にキスをすると、独眼爺の眉間にブレードが刺さる。


  ■


「一回戦第二試合、勝者ミズキ選手!」
 審判の声に、二人はダイブを解いてロボを回収する。観客の拍手が会場内に反響する。俺もミズキへと拍手を送った。鮮やかな勝利だったな。
「どう? 私の実力」
「ふうむ。中々じゃったのう」
「次は本気で相手してよね。おじさん」
 そんなミズキの言葉に、ロボキチさんは目を丸くして、「ひょひょひょッ!」と声高々に笑う。
「そうじゃのう。次は本気でやらせてもらおう。老兵は死なず、ただ去るのみじゃ」
 そう言って去っていくロボキチさんの背中を見ながら、棒付きキャンディーを取り出す。
 やつはキャンディーを口の中で転がしながら、俺たちの元に戻ってくる。
「鮮やかだったなー」
 と、俺が先ほどまでのバトルの感想を言って、やつの肩を叩く。
「当然」
 それだけ言うと、やつは俺の隣に回って、観戦モードに入った。こいつの妙な自信はどこから来るんだろうな、と思わないでもないが、こいつはマジで強いからなあ。

  ■

 そして、第三試合は正直、圧倒的に終わりすぎて特に何かコメントも沸かないまま、ナナセさんって人の圧勝で終わり。リヒトって人はなんでアヴァロンに出れたんだよ。ってくらいの結果でした。
 そして、一回戦第四試合。ジロウさんVSユリエさん。

「さあああ! おそらくこの試合を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか!!」
 審判の人による煽りで気づいたのだが、なぜか周りにピンク色のハッピとか団扇とか持ってる人がやたらいることに気づいた。団扇には、茶髪のボブカットで、毛先が外にハネた、目がくりくりとした女性の写真と、『ユリエ』なる、名前らしき文字が書かれていた。なんだろあれ、とか思いつつ、俺は中央のホロセウムに視線を戻す。
「では、入場していただきましょう! まずは、ジロウ選手!!」
 ステージ中央のホロセウムに、一人の男性が歩いて行く。逆立った金髪に、赤いバンダナ。そして緑のマントを羽織っている、軍人のような雰囲気の男性だ。鼻も高く、目付きも鋭く凛々しい顔つき。
「伝説のコマンダーの一人! 永遠の二番手、ジロウ選手!」
 審判の紹介に、なぜかジロウさんは苦い顔でぽりぽりと頬を掻く。
「その呼び方、やめてほしいんだがな……」
「緑……二番手……」
 俺はそのワードで、なにかを思い出しそうになっていた。えーと、背の大きい方のおっさんで……。
「あ、ル○ージ!」
 すると、ジロウさんが俺の方に振り向いて、まるで親の敵でも見るかのような凄まじい表情を見せてきた。
「誰だ今俺のことルイー○って言ったのは……」
 当然誰も答えないで目を逸らす。当然俺も。
「ちっ。まあいい……」
 舌打ちして、犯人探しを諦めた辺りで、カリンさんの唇が俺の耳元へやってくる。
「ジロウさんは、緑とか二番手とかって呼ばれるのを嫌うのよ……。○イージなんて最悪だわ」
「ああ、そうなんですか……」
 だったら緑の服やめればいいのに。とか思わなくもないが、まあそんな単純に行けば人間苦労しないのだ。
「それでは! ユリエ選手! 入場です!!」
 その瞬間、野太い声で、『ユリエちゃーん!!』と会場中から聞こえてくる。なんだ、このアイドルを出迎えるファンの様な歓声だ。しかもどこからか、なにかポップな音楽まで聞こえてくる。
「こ、これは……!」と、アキラが興奮した面持ちで拳を振り上げる。「アイドル・コマンダーユリエちゃんのデビューシングル、『恋愛ホロセウム』じゃねえか!!」
 え、なにそれ。
 とは聞けない雰囲気でした。ミズキは知ってるだろうか、と思いやつの表情を伺うと、首をひねっていた。カリンさんは知っているらしく、関心したように口を小さく半開きにしている。
 そうこうしている内に、その、ユリエという人が入ってきた。
 先ほど団扇に載っていた写真の通りの顔に、ふりふりがたくさんついたピンクのドレス。頭には赤いリボン。今時いるのかよ、ってくらい昭和のアイドルだが……彼女には似合ってる気がした。というより、実際似合っている。
「みなさーん! 今日はユリエのためにありがとー!」
 いや、みんながみんなあんた目当てじゃないと思うが。
 まあそんなツッコミは野暮だろうし、言わなかった。
 ユリエさんは、ホロセウムへと歩いて行き、にっこりとジロウさんに笑いかける。きっと万人の男がその笑顔の先にいたいと思うはずなのだが、ジロウさんはクールにそれをいなすと、「アイドルが板についてきたな」と小さく笑う。
「ただのアイドルじゃないもーん。アイドル・コマンダーだもーん」 
「似たようなもんだ」
「――ガチの戦いって、いつぶりかな?」
「さあな。久しぶりであることに変わりないが」
 頷くユリエさん。
 二人はキューブを取り出し、ホロセウムに投げた。
「プラネッタよ。ワタシに力を与えて!」
「久しぶりに、本気で行かせてもらうぜ」
 二人のロボが、ホロセウムに立つ。
 その時、俺の背筋がひやりと凍えた。まるで、雪解け水が流されたように。
「――セイジくん。よく見てなさい。あの二人は、グレートロボカップの常連。そんな二人のガチバトルなんて、滅多に見られるモノじゃないわよ」
 カリンさんの言葉に、俺は返事をすることも忘れて、ホロセウムに釘付けになる。
 激闘を繰り広げるだろうことだけは、俺にも分かった。

       

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