Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
01『レア・ロボ』

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 思い切り殴り飛ばしたカーライルの行く末を見て、俺は地面にしっかりと足をつけた。

 カーライルのライフはどうやら尽きたらしく、俺の意識が急速にアルファ・レイから離れていく。身体に意識が戻り、目の前の黒服は悔しそうにホロセウムで横たわるカーライルを取り、キューブに戻す。
「き――さまッ!」
 そして、俺を睨む黒服さん。
 いや、確かに勝っちゃったけどさ。
「すっごいじゃない君! 初心者とは思えない、いい動きだったわよ?」
 と、カリンさんに頭をぐりぐりと押してくる。
 地味に痛い。
「アルファ・レイも、君に使われてよろこんでるかもね。ほら」
 そう言って、ホロセウムの中に立ちっ放しだったアルファ・レイを取り、俺に渡した。眠ったように全身の力が抜けたアルファ・レイをキューブに戻し、一瞬ポケットにしまってもいいのか迷ったが、話の流れから俺の物でいいっぽいので、しまった。まあダメなら誰か言ってくれるだろう。
「今日の所は引き上げる――が、少年。アルファ・レイを持つかぎり、君は狙われるぞ!」
 ホロセウムを畳んで、スーツの内ポケットにしまうと、黒服は大急ぎで走り去っていった。
 その後ろ姿を見て、なんだったんだろうとか、嵐みたいだなとかいろいろ思ったが
「うんうん。さっすがわたしの作ったアルファ・レイだわ。初心者でもここまでの戦いをさせてしまうとは」
 一番の嵐は、俺の隣に立って、腕を組んでうんうん言いながら天狗になっていた。
「……あの、いろいろ言いたいことはあるんですけど、事情の説明を」
「おお、そうだったねえ。んじゃ、行こっか」
「はい?」
 どこにだよ。と聞く前に、カリンさんは歩き出していた。
 俺のことを無視してる感があるものの(当事者なのに当事者になりきれていない感じ、というか)、俺はカリンさんに着いて行く。
 アルファ・レイのことも聞きたいしな。


  ■


 カリンさんに着いて行ってたどり着いたのは、近所の公園だった。
 噴水が中央に備えられ、その周囲に設置型のホロセウムが置かれ、子供たちが遊んでいる。その隅に、黄色いボックストラックが停められていた。側面には黒いペンキで『カリンの工房』と書かれていた。
 その荷台のドアを開き、中に入ると、そこは工房という文字に違わず、むしろ工房というよりは研究室の様な佇まい。そこかしこにロボの部品や工具、おそらくはチューニングに使うであろう機械があり、カリンさんはその一番奥にある作業用のデスクに腰を下ろし、簡素な折り畳み椅子を俺の前に引いてくれた。
 向かい合って座る俺たち。話を訊く立場の俺から口を開く訳にも行かず、なんとなく肩身の狭い思いをしていると、カリンさんが粛々と喋り始めた。
「……ラムダ社、って知ってるかしら」
 ラムダ社。それはカスタムロボのシェアナンバーワンを誇る国内最大のロボメーカー。カスタムロボファンなら知らぬものはいない名前だ。
「わたしはエンジニアとして、開発部門に席を置いていたの」
「へえー! すごいじゃないですか」
 全少年少女の憧れだ。実際に自分の作ったロボが、バトルで使われるのだから。
 もちろんトップシェアを誇る会社に入る事自体、相当狭き門なのに。花形の開発部門で仕事していたなんて。
 ――って、あれ?
 仕事『してた』? なんで過去形だ。
「やめたのよ。面倒になって」
「ええ!? もったいなっ!!」
 世間知らずな中学生の俺でもわかるもったいなさ。
 もったいないお化けが出るんじゃないのか。
「アルファ・レイは、私が最後に関わった『ARプロジェクト』って計画の試作機でね。まあ退職金代わりにもらってきたのよ。最高傑作だったから」
「それ泥棒じゃねえか!?」
 自分で作ったものとは言え、アルファ・レイはラムダ社の所有物だよな?
 それを最高傑作って理由で持ってきちゃ駄目だろう……。
「ああ、でも社長には許可もらってるのよ。外注のプロジェクトで、事情があって頓挫したから、もういらないってことで」
 ああ、よかった。
 俺は盗品にユーザー登録したのかと。
「それで、わたしは思ったわけよ。会社をやめたんだし、これからは趣味に生きようって」
「ふんふん」
「わたしはロボバトルするのも好きだけど、教えるのも嫌いじゃなくてさ。だからこれからは、コマンダーを育てていこうと思って。――でもなーんか、アルファ・レイが何者かに狙われてるんだよねえ」
「狙われてるって……」
「ま、アイコンタクト・レジスターしたから、向こうも手は出せないと思うけどね。簡単には解けないロックなのよ、アイコンタクト・レジスターは」
 そうなのか。
 まあ確かに、中古のカスタムロボとか見たことないが。
 中古品が出まわらないものって復旧するのかな、という多少の心配もあったが、今現在のカスタムロボブームを鑑みるに、余計なお世話だろう。
「だから、セイジくんはなんの心配もなく、カスタムロボを極めてちょうだい」
「……わ、っかりました」
 まあ、まあまあまあ。
 いろいろ不安はあるが、くれるというのだからもらっておこう。
 アイコンタクト・レジスターしてしまっているのだし、相手ももう手は出せないだろう。
「よっし! そうと決まれば、あたしがいろいろ、教えてあげる」
「……カリンさんが?」
「うん。あたし、結構ロボバトルもいけてるのよ」
 そう言って、つなぎのポケットからロボキューブを取り出し、変形させる。そのロボは金に近いブラウンの髪をポニーテールにした、少女型のロボ。
「エアリアルビューティーの『フレア』エアリアルビューティーは、空中性能が高めなタイプね」
 よく見れば、そのロボは結構年季が入っていた。エンジニアなので、メンテナンスはもちろんバッチリなのだが、使い込んだ物に宿る、貫禄のような物がある。そんなことを考えていると、それを察してか、カリンさんが答えてくれた。
「フレアとは、小学生の時からの付き合いなんだよね……」
 懐かしそうに、まるでアルバムの写真にそうするみたいに、カリンさんはフレアの髪を指で梳いた。
「そういえば、アイツ元気かなぁ」
「え、アイツって?」
「あたしの小学校からの友達。転校してきたと同時くらいにカスタムロボ初めて、一年足らずでグレートロボカップチャンピオンになったっけ……」
「す、すげえ人だな……」
 それ人間かよ。
 さっきやってみてわかったけど、動くのもそこそこ大変だし、飛んでくる弾丸やミサイルには恐怖してしまう。慣れるのにしばらくかかりそうだというのに、一年たらずで。
「アイツは確かにすごいけど、あたしのアルファ・レイを使うんだから、あなたにはアイツを超えてもらう」
「またまたご冗談を」
 苦笑する俺だったが、カリンさんの瞳に宿るギラギラとした光を見て、本気かよと肩を落とした。


  ■


 カリンさんとケータイの番号を交換し(社会人との番号交換は大人に近づいたようなドキドキがあった)、困ったことがあれば来るようにとの言いつけを賜り、足取り軽く、帰路を歩いていた。
 よくよく考えたら、俺学校の帰り道だったじゃないか。まあ特別門限はないが、なんとなくバツが悪い。
 赤い屋根の二階建てが俺の家で、その屋根は、夕日に照らされ、赤みが増している。
 玄関を開け、「ただいま~」と家の奥に声を投げた。すると、どたどた足音が聞こえ、まっすぐ伸びる廊下の奥にあるドアから、シイナとエリナが飛び出してきた。
「おかえり兄ちゃん! 遅かったな」と、シイナが人懐っこい犬みたいな笑顔で言う。
「珍しいね。お兄ちゃんが連絡なしで寄り道するなんて」と、エリナは心配そうなんだか疑ってるのか、よくわからない顔をしていた。
「まあ、ちょっとな」
 カスタムロボをもらったことは、なんとなく言い出せなかった。知らない女の人からもらったなんて、明らかに怪しい。
 そうでなくても、アルファ・レイはちょっとヤバい。オリジナルの一品で、黒服に狙われてて。アイコンタクト・レジスターしてしまったからもらったが。
「むう。もしや兄ちゃん彼女か」
「違う。いいから詮索するな、巣に帰れ」
 そう言って、手を埃でも飛ばすみたいに振って、妹二人を置いリビングに追いやる。
「ちぇっ。教えてくれたっていいじゃねえかよー」
「ケーチ」
 そんな捨て台詞を吐いてリビングへ戻っていく二人。
 どうでもいいが、二人はちょっと仲よすぎませんか。いつも一緒にいる気がするのだが。
 まあいいや。
 俺は妹達の仲の良さを、若干微笑ましく、かなり怪しげに考えて、階段を上がり、二階の自分の部屋に。ちなみに、さすがのシイナとエリナも部屋は別々だ。ベランダがつながっているので、あまり意味はないが。
 三人の部屋はそれぞれ六畳半。俺の部屋は二階の一番奥にある。女系家族の男として、数少ない特権だ。ちなみに、父さんは単身赴任。
 自室へ帰り、ベットに横たわると、ポケットからキューブを取り出し、アルファ・レイへと変形させる。赤い髪は炎のように逆立っており、険しい表情をしている。
「……」
 俺たちはじっと見つめ合い、結局、俺はアルファ・レイをキューブに戻し、枕元に置いた。初めてのダイブは予想よりはるかに俺の体力を奪っていたらしく、意識が勝手に離れて行った。


  ■

 翌朝。
「その日は友達とお酒を楽しく飲んでいました。バイクに乗っていたので、本当は飲まないつもりだったのですが、友人達の楽しそうな雰囲気に飲まれ――別に上手いこと言おうとしたわけじゃないけど――まあとにかく、お酒を飲んでしまって、バイクをどうしようか迷ったんだけどね、結局乗って帰ることにしたんだよ。そしたらね、まあ案の定というか、やっぱりというか、車に接触しそうになってね。盛大にコケちゃったんだよ。ちょっと頭を打ったくらいで、まあ大丈夫だろうって、自宅に帰ったんだよ。頭も痛いし、ゆっくりしようと思って、玄関で靴を脱ごうとした瞬間――気づいたの。

とんでもない方向に折れている、自分の右足に」

「うぎゃあああああああッ!!」
 飛び起きた。
 ベットの脇を見ると、そこには俺の耳に今しがたまで囁いていただろうエリナがいた。
「お、お前、お前朝からなんて話しやがる! ちょっと怖いじゃねえか!」
「おはよーお兄ちゃん」
 なんでシイナは肉体的、エリナは精神的なショックで俺を起こしにかかるんだよ。
 恨みでもあるのか? そんなにこの間お前ら姉妹のプリン取ったのが悪いことなのか?
「その件について言えば、もう制裁は終わってるから許すよ」
「え? なんだよ制裁って。今の起こし方か?」
「いや、違うけど。聞かない方が身の為だよ。私の」
「お前のかよ! それは俺がお前らに危害をくわえるレベルで怒るってことだろ!?」
 お前ら俺に何したんだよ。
 その後、何回か訊ねてみたが、頑として言おうとはしない。
 シイナにも訊いてみたが、結果は同じ。

 モヤモヤしたまま学校へ行き、教室に入ってアキラと挨拶を交わし、さっそく奴にアルファ・レイを見せた。
「うっはー! ついに買ったのかカスタムロボ!! ――でも、あれ? そんなロボ、見たことねえぞ俺」
「オリジナルらしいんだ。もらったんだけど……」
「へー、ふーん……。まあでも、オリジナルロボがダメってわけじゃねえからな。レギュレーションさえ守ってれば、公式大会でも使えるし」
「レアなロボなのか? それ」
「あー、まあ一点物なんじゃねえの?」
「おお! レアロボはみんなの憧れだぜ!」
「……レア、だと?」
 その時、教室で山が動いた。山、というのはもちろん比喩で、教室で一等身体の大きな男が、机から立ち上がったのだ。
「お前、レアロボを持っているのか!」
 その男は、平均より倍はデカイ体躯の持ち主。この学校の番長(笑)。ゴウタだ。
 坊主頭に太いマユ。私服OKの学校なのに、やつのみ学ランを着ている。この学校一、カスタムロボが強いらしい。
「まあ、レアかどうかは、知らないけど……」
 ほら、とゴウタにアルファ・レイを見せる。
「俺も、そんなロボは知らないな」
「ん、ああ」
「お前、生意気だ」
 はい? 生意気?
「そのロボ、俺に倒させろ」
「はい!?」
 なんでそんな話になった?
 俺、いまどこかで話聞いてない部分あったっけ?
 そう訪ねようとアキラを見ると、アキラもぽかんとしていた。俺だけが事態に置いて行かれたわけじゃないらしい。
「俺は、貴重な物を台無しにする瞬間が、大好きだ! レアなカスタムロボをぶっ潰す瞬間が、特にな。レアは強さが伴って初めてレアだ。そのレアではなくなる瞬間が、たまらない。それになあ、お前みたいな初心者がそんなもん持つのは、分不相応なんだよい」
「なんだと?」
 たしかに俺は初心者だが、今の言い方にはカチンと来た。
「ちょ、ちょっと待てゴウタ!」
 と、アキラは俺とゴウタの間に割って入る。
「お前な。セイジは初心者だぞ? それを急に……」
「俺は決めた。こいつとやる」
 ゴウタは腕を組んだまま、俺を睨む。
 なんてわがままなんだ。
「わーかったよ。やるよ、ゴウタ」
「おいセイジ……」
「上等」
 そして、俺とゴウタは放課後にバトルすることを約束した。
 これは、アルファ・レイの名誉を守る戦いだ。

  ■

 最近のカリキュラムには、体育にカスタムロボが含まれている。確か、20XX年に『心の強さを鍛える』とかの理由で追加され、最近はどこの学校にも、ホロセウムがある。我が校にももちろん存在し、校庭の隅に、まるでテニスコートの様な扱いで設置されている。
 フェンスに囲まれ、四つのホロセウムが正方形を描くようにして並ぶそこに、俺とアキラ、そしてゴウタが居た。
「逃げずによく来たな」
「お手柔らかに」
 そう言って、俺とゴウタはホロセウムを挟んで向かい合う。
 俺の隣にはアキラが立ち、「俺はセイジのセコンドをやる。初心者なんだ。文句ねえだろ」と言った。ゴウタもそれに不満はないらしく、ロボをホロセウムに投げ入れた。
「引き潰せ! ブチル!!」
 ホロセウムは岩山。
 ゴツゴツとした岩がそこかしこから飛び出し、地面にはコケが生えている。
 そんな場所に、ゴウタのロボが立った。太った男性型。緑の外装に赤い瞳。トゲが生えた帽子のようなものを被っている。
「ファッティバイスのブチル……。最高クラスの防御力を持ったロボだ。ファッティバイスは地上の移動能力が低い。狙うなら地上だ」
 アキラのアドバイスを聞いて、俺もホロセウムにアルファ・レイを投げ入れた。ブチルと対峙するアルファ・レイにダイブすると、ブチルの威圧感を感じた。
「うぉぉ……」
 ガラにもなくちょっとビビってしまった。
 さすが、学園一強いと噂されるコマンダーだ。初心者にはちょいと辛い相手かもしれない。
「ぼうっとするなら、こちらから行くぞ!」
 そう言って、ブチルは右手に装着された銃を構える。六つの銃口がある、とんでもなく大きな銃。
「ガトリングガンだ! 躱せセイジ!!」
 アキラの声に、俺は急いでジャンプ。ブチルが放ってきたとんでもない連射から逃げる。
 カスタムロボは足のパーツ(レッグ)で空中ダッシュが可能になる。アルファ・レイの空中性能の高さも相まって、俺はなんとか岩の陰に身を隠し、ガトリングガンを躱すことに成功した。
「くっそ。あんなガンがあるのかよ……」
 対して、こっちはベーシックガンと呼ばれるハンドガン。
「隠れているのなら、誘き出すまで」
 そんな声が聞こえ、何かが俺の前に降ってくる。
 それは、どう見ても手榴弾。
「やば――ッ!!」
 急いで逃げようとしたが、間に合わず。
 手榴弾は爆ぜた。
「うおおおおおお!?」
 その爆風は縦に伸び、俺を空中へと投げ出した。体勢が整わず、空中ダッシュも使えない。つまり、いい的だ。
「ミンチになれえッ!!」
 無数の弾丸が俺に向かって、空気を裂いて飛んでくる。
 腕をクロスさせ、ガードするが、まともに喰らってしまい、俺はホロセウムの端まで弾き飛ばされ、ホロセウムと外界を繋ぐバリアに激突し、地面に落ちる。
「い、ってええ……」
「セイジ! 止まっちゃ駄目だ!」
「は――?」
 アキラに促され、前を見ると、ブチルがまるで階段でも登るような多段ジャンプで空高く跳び上がり、こっちに向かってガトリングガンを向けている。俺のヒットポイントは残り少ない。おそらく次は機能停止する。危機感に煽られた俺は、すぐさま立ち上がって走りだす。
「ジャンプはするな。着地時に隙ができる! ガトリングの連射が終わるまで走って躱せ!」
 カスタムロボは体力を使用しないが、精神力を使う。ダイブに不慣れな俺が走れるのも、そろそろ限界だ。
「ちっくしょうッ!!」
 俺も、単発銃で撃ちまくる。しかし、よほど俺は射撃が下手なのか、一発も当たらない。
「しっかり狙えセイジ!!」
「狙いました!」
 セコンドからの地味に傷つく言葉に耐えつつ、避けようとするのだが、地面に生えたコケに足を取られ、こけてしまう。
「いったた……」
 やべえ、と思ったが、偶然ガトリングの弾が切れて、ブチルは地面に降りる。今頃はリロードしているのだろう。その隙をついて、再び岩陰に隠れた。
「あー、ったく。やっぱ勝てねえかなあ……」
 そりゃ、初心者だから勝つのは難しいだろうが。
 やっぱできりゃあ勝ちたい。
「……ちょっと卑怯な手、つかうかな」
 それくらい許せ。
 心の中でそう言って、俺は岩場から飛び出す。
「さあ、そろそろミンチにしてやる!!」
「それはお断りだ!」
 ガトリングを撃ってくるも、俺は空中ダッシュでなんとか躱し、ボムを放り投げる。
 それはブチルの前で破裂し、ブチルが吹き飛ばされた――と思ったが。さすが防御力最大。倒れない。俺はガンも駆使して、ダメージを与えようとするものの、ブチルは体型に似合わない華麗な動きで躱していく。しかしその瞬間、ブチルは盛大に、派手に転けた。
「な、なんだ……!?」
「うっしゃああああ!! やっぱりこけやがった!」
 俺はもちろん、その隙を見逃さない。まずはボムを投げ、相手を弾き飛ばす。
「うおおおお!?」
 爆風によって飛ぶブチルに向かって、俺は背中に背負ったミサイルポッドと、手持ちのボム。そして、ガンの全弾を放つ。
「全弾開放ぉぉぉぉぉッ!!」
 ミサイルがブチルの身体を抉り、ボムが弾き、ガンが貫く。
 その瞬間、俺の意識が急速にアルファ・レイを離れ、元の身体に戻った。

 ロボから、元の身体に戻ると、いきなりアキラが抱きついてきた。

「す、すげえなセイジ! 勝っちゃったよ!! 偶然転けたから、ってのもあるけどさ、それでもすげえ!」
「いや、偶然じゃねぞ、あれ」
「……わざと転けさせたのか? どうやって」
 俺は、ホロセウム内を指さした。コケの生えた岩肌。
「岩陰で集めたコケを、最初に投げたボムと一緒に投げたんだよ。俺も転けたんだし、あいつも転けさせてやろうと思って」
「……なるほど、そういうことか」
 そう言ったのは、ホロセウムの向かいに立つゴウタだ。
「ちっ。アホらしい……そんなことで負けたのか……。いや、そんなことだから、か?」
 にやりと笑ったゴウタは、一枚のチップを差し出してきた。
「荒削りで、馬鹿らしい戦いだった。しかし、ちょっと楽しかったぞ。そのお礼だ」
 そのチップを受け取ると、そこには、『ガトリングガンデータ』と書かれていた。
「それをキューブに差し込め。ガトリングガンが使える」
「マジで!? いいのかよ!」
 俺は嬉々としてそのチップを受け取り、「ありがとなゴウタ!」とお礼を言っておいた。
「いいなーセイジ。ガトリングガンは人気高くて、あんま手に入んないガンなんだぜ?」
「へー……そうなのか……」

 チップを見ながら、早くガトリングガン使ってみてえなあ、と思う俺。
 そんな俺を、遠くで見つめる人影があった。


「……つまんない。この学校も、こんなもんなんだ」
 ガムを噛みながら、被っていたフードをさらに目深く被り、彼女は空中にキューブを放り投げる。

「これじゃ、期待ハズレ。……ここにも貴女の敵はいないよ、『マーキュリー』」

       

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