Neetel Inside ニートノベル
表紙

カスタムロボOriginalNovell
11『アヴァロン・スタート』

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 サスケとやった翌日から、俺はカリンさんの下で特訓を重ねた。カリンさんはとにかく徹底した実戦主義で、一日のノルマは五十バトル。その後は反省点をまとめた講義を受け、たっぷり休息を取る。
 まさにカスタムロボ漬けの一週間を送った。
 疲れはしたものの、強くなっていく実感もあってすごく楽しかった。
「……セイジくん? どしたの」
 隣に立っていたカリンさんが、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。日本人の得意技、アルカイック・スマイルで返事をする。
「いや、この一週間を思い出してて、つい」
 カリンさんから、目の前のマリンパークへ視線を移す。
 国内最大級の水族館で、ロボにダイブするイルカが目玉だ。少し外装は無骨で、灰色の壁と青い看板。そして、かろうじて水族館であるとわかる程度のイルカやらクラゲやらの看板。
 周りには魚ファンではなく、カスタムロボファンがうじゃうじゃいる。すげーなぁ、こんな大歓声の中試合すんのか。
「うう。緊張してきた」
「あらあら。サンデーマッチの時はあんなに堂々としてたのに」
「いや、だって……市民大会とは比べ物にならないっていうか。こんなに緊張したの初めてですし……」
 手が震えてきた。人という字が書けない。
「今日もセコンドについてあげるからさ。そろそろ始まるから、直接会場行くわよ」
 実は遅刻ぎりぎりだったのか俺たち。
 カリンさんの車でここまで来たからわかんなかった。

 マリンパークの裏に周り、従業員専用口でチケットを見せて入場する。
 俺とカリンさんは、従業員の案内で、そのまま会場入りした(従業員は焦ってたから、マジで遅刻寸前だったらしい。カリンさんマイペースすぎ)。マリンパーク最大の水槽前の広場が、戦いの場所だ。体育館ほどのスペースがあるというに、ホロセウムは中心に一台だけ。その周りは柵で囲まれ、数え切れない人で溢れかえっている。熱気も人数も、サンデーマッチとは比べ物にならない。床は青と白のタイル。薄暗いのは水族館ならではだ。
『そして最後にぃ! 特別出場枠を勝ち取ったラッキーボーイ!! セイジ選手だぁぁぁ!!』
 いきなりの紹介に焦って、中心を見ると、司会者らしき蝶ネクタイに燕尾服の男が、俺を指さしてマイクで叫んでいた。見れば、ホロセウムの周りにはすでに他の選手が居た。
「……キャラ濃いなー、みんな」
 つぶやきながら俺達も、その円卓(ホロセウム)に加わる。
 それを確認した司会者は、再びマイクに向かって叫ぶ。
『それではアヴァロン一回戦第一試合!! 期待のツインズ『サリー&エリー』VSガン・マスター『カズマ』!!』
 大歓声が沸き、俺たち参加選手は、観客側へと移り、観戦することに。
 その途中、カズマと目が合った。
「よっ」
 俺は軽く手を挙げ、挨拶する。サンデーマッチで戦い、再戦を誓い合った仲だ。
 相変わらずのカウボーイスタイルで、やつはテンガロンハットを指で弾くと、ニヒルに笑う。
「待っててくれセイジ。キミとやるのは決勝だ」
「おう」
 それだけ言って、俺たちは拳をぶつけ合う。
 俺は柵を超え観客側へ。カズマはホロセウムへ。互いに背を向け歩き出す。
「よおセイジ!」
 観客側に入ると、アキラが居た。こいつ観に来てたのか。
 考えが見え透いたらしく、「知り合いが二人も出てりゃ来るだろー」と笑っていた。
 それもそうだな。俺もそうする。
 納得がいった所で、ホロセウムを見ると、すでに三人は向い合っている。
 サリー&エリーは、なぜか二人共パピヨンマスクと黒いスーツを着ていた。髪型は茶髪のショートカットと茶髪のボブカットで違う。
 ――どっかで見たことあるような気がするんだけど、どこだろう?
 首を捻って二人を観察していると、いきなりショートカットの方が腕を挙げ叫びだす。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」
 ……おいおいおい。それって昔の特撮ヒーローの決め口上じゃなかったか。
 おそらく会場の全員が呆れながら聞いていると、次はボブカットが同じようにして叫ぶ。
「悪を倒せと、私たち!」
 そして二人は、挙げていた手を繋ぐと、カズマに向けて下げる。
『ツインズコマンダー、サリー&エリー見参!!』
 ……やっぱ声も聞いたことあるんだよな。どこだ?
 でも、わかった瞬間激しく後悔しそうでもあるのよな……。
 特に身内だったりしたら、マジで目も……。
 身内……?
 身内!?
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 わかった。
 わかっちゃった。
 あいつらの正体がわかっちゃった。
 俺は周りの視線も気にせず、柵を飛び越え、サリー&エリー。改めバカ共の元へ走り出す。
「おいコラてめえら!! シイナとエリナだろ!!」
 俺の姿を視界に捉えたらしく、二人はパピヨンマスクの下で、露骨に表情を歪めた。
 そして、二人は後ろを向いて、顔を近づける。
「おいおいエリナ! 一瞬でバレてるんだけど!?」
「だ、だだだ大丈夫だよシイナ。きっとまだごまかせるレベルだよ」
 聞こえてるぞ。全部聞こえてる。
 あと、ごかませないから。聞こえてなくても。
「お前ら……カスタムロボ買う金はどこから出してきたんだよ?」
 俺この間見たけどさ、カスタムロボって確実に小遣い三ヶ月分はあるんだよ。
「ああ、それは兄ちゃんの貯金箱から――」
「だああシイナ!! それは言っちゃダメぇぇぇ!」
 はっとして口を押さえるシイナだが、俺はもう全部聞こえた。
 俺のカスタムロボ貯金、無くなってってるなーとは思っていたが、お前らが持ってってたんかい!!
 しかもそれでカスタムロボ買ったのかよ!!
 盗人猛々しいなぁもう!!
「お、お前……お前ら……お前たち……」
 何から言っていいやら。とにかく頭がごちゃごちゃになって、顔はひきつってるし。
 二人を交互に指さしながら口だけぱくぱくさせている。
「な、なんだよ兄ちゃん怒ってんのかよ!? いいじゃんなー、兄ちゃんはロボもらってんだろー?」
「そ、そうだよ! それに私たちのプリン取った報いなんだからね!」
 お前らプリンの為に俺の金を……。
 頭痛が痛い。二重表現するほど痛い。
 くらくらしてきた。
「――あっ! やべえエリナ! 私らごまかすの忘れてつい兄妹トークを!!」
「だった!」
 二人は顔を見合わせ、渋々パピヨンマスクとスーツを脱いで、いつもどおりの格好に戻った。
「バレるとは思わなかった……」とシイナ。
「仮にバレても目を逸らしてくれると思った……」とエリナ。
 んなわけねえだろ。どんなド低脳だよ俺。
「あー……。セイジ、そろそろいいか?」
 後ろからカズマに肩を叩かれ、俺は「あ、悪い……」頭を下げ、観客側に戻った。
 カズマーッ!! 勝て、勝ってやつらにお仕置きしてくれぇ!!
 呪いと化してしまいそうなほど協力な応援をカズマにぶつける。

「……君たち。セイジの妹だったのか」
 意外そうに呟くカズマ。まあ、やつらは俺と似てないからな。それにバカっぽいし。俺とは似ても似つかない。
「さっきのセンス。確かにセイジの服装とよく似ているね」
 ……え?
 カズマ、お前、え?
 俺はアキラとカリンさんの顔を交互に見て、「俺の服って、あんなバカっぽいセンスしてんの?」
 かっこよくない? 炎のガラとか。
 何も言ってくれず、目を逸らすお二人さん。嘘だろおい。今年一番のショック。
「よし、エリナ。今日はどっちからやる?」
「んー……この間は私からだったから、シイナから行ったら?」
「譲ってくれんの? ラッキー!」
 どうやらシイナがやるらしい。エリナは一歩下がり、シイナがホロセウムの前に立ち、シイナとカズマが向かい合う。
「ガンの使い方を教えてあげよう!」
「「ツインズバトル・レディー……ゴー!!」」

 二人がロボを投げる。
 ホロセウムは深海。大きい亀が遊泳しているのが特徴的で、サンゴなんかも生えてる。

 シイナがダイブしているロボは、女性型で、エアリアルビューティーよりも大人っぽい見た目をしている。茶髪がボサボサにされ、ちょうど二人の中間みたいな髪型。黒いチューブトップと青いボトムアップジーンズ。ロボっぽくない見た目だ。
「セクシースタンナー型の最新モデル『アデラ』ね」と、カリンさんが説明してくれる。「セクシースタンナーはエアリアルビューティーと同じく、空中戦が得意だけど、多段ジャンプではなく空中ダッシュを使うの。急上昇急降下の駆使したバリエーション溢れる空中戦に定評があるわ」
 あいつら、俺の金で最新型買ったのかよ……。
 まあそのことについては後で、家に帰ってからじっくりと話すことにして。
 今はバトルを見ることに集中しよう。
 先に動いたのはアデラだった。空中に飛び上がり、ガンを発射。しかし、相手には向かわず、エネルギーの塊と思わしき鳥が止まっただけ。
「イーグルガンか。空中では一旦静止して、地上では弾速の速い一発を真っ直ぐ発射する、比較的扱いやすいガンだ」
 今度の説明はアキラだ。

「まだまだ行くぞー!」
 アデラは、空中ダッシュしながらイーグルガンを放ち、カズマのロボ――ブライトの周りを囲んでいく。
 時間差で動き出した弾がブライトに向かい飛ぶ。
 しかし、俺は知っている。ブライトにあんな攻撃、当たらないということを。
 一発躱し、さらに飛んでくる二発目、三発目と華麗に躱していく。すべてを躱すとアデラを見ながら、帽子のつばを指で弾く。
「俺にガンは通用しない」
 言いながら、今度はブライトがボムを放った。アデラを挟み込む様に放たれたそのボムを、アデラはジャンプで躱し、さらに空中ダッシュ。そして再び空中でイーグルガンをばらまきながら、サンゴの裏に着地する。
 空中ダッシュの隙を撃たれない為にサンゴの裏に回ったはいいが、ただガンを放つだけじゃブライトには絶対届かない。それは俺が証明済みだ。
 現に、ブライトは今回のもすべて躱し、ポッドを放っている。山なりに発射されたそれは、サンゴの裏に隠れていたアデラに直撃。アデラを空中へと浮かび上がらせた。
 空中で無防備になったアデラをじっくりと狙い、ドラゴンの形をした極太レーザーを放った。おそらくあれが、噂に聞いたドラゴンガンだろう。
 その極太レーザーがアデラをホロセウムの端まで弾き飛ばす。
「おわあ!」
 壁にたたきつけられ、背中をさするアデラ。
「……おっかしいわねえ」
 そんなアデラを見ながら、カリンさんは首をかしげていた。
「どうしました?」俺はそれが気になったので、訊いてみることに。
「いや、あの子、お世辞にも強いとは言えないのよね……。アヴァロンに出るくらいだから、強いかと思ったけど。見る限り、カスタマイズもそれなりに考えられてるし、動きもいい。けど、なんていうか、頭を使ってないって感じ」
 ……シイナにそれを期待するのは酷というものだ。
 あいつの頭が飾りだということは、俺が二番目によく知ってる。一番はエリナだ。もちろん、やつは双子だからな。
「あー、やっぱ駄目だ!」
 そのバカが、何を思ったのか降参宣言とも取れる言葉を叫び始める。
 しかしそれはもちろん降参なんかでは無かったらしく、エリナが「んじゃーそろそろ本気で行く?」とシイナの隣に立った。
「そうだな。あたしらの本領をここらでかましとくか!」
 すると、下がっていたエリナがシイナの隣に並び、ダイブを始めた。
「な――ッ!! ふ、二人で一体のロボにダイブだと!?」
 めちゃくちゃ驚いている俺の隣で、アキラとカリンさんはしれっと訳知り顔。
 え、なんだよ、また俺だけかよ。
「セイジくん……。この間の講義でやったわよね? あれは『デュアル・ダイブ』二人で一体のロボにダイブする高等テクだって」
 怒りの青筋を浮かべたカリンさんの顔を見て、俺はそんなことも言われたなー、と思いだした。
 確か、『ツルギ・ヤイバ兄妹』と『イライザ・イザベラ姉妹』がデュアルダイブの最高峰とか言われていて、その難易度故にやる人間も少ないとかなんとか。
「デュアルダイブか……。しかし、今更遅い!」
 ボム、ポッド、ガンの順番で射撃するブライト。
 ボムで左右の逃げ道は封じられ、ポッドで上に躱すのも無理。正面からはドラゴンガン。躱すのは無理か、と思ったのだが、なんとアデラは、あえて飛び上がり、ポッドの攻撃を喰らって空中へ跳ね上がった。
「なに!?」
 その行動に驚きつつも、すぐにドラゴンガンを構え直すブライト。
 しかしアデラはその空中性能を活かし、空中からポッドをばらまいていた。大きな目玉のついたおたまじゃくしみたいなポッドで、ゆっくりゆっくりとブライトに近寄っていく。たしかあれは、シーカーポッド、とかいうポッドだったはずだ。じりじりと相手を追いかける弾速の遅いポッド。
 アデラはまたサンゴの裏に着地し、再び飛び上がって、今度はイーグルガンをばらまきながらホロセウム内を一周する。
「甘い! 俺にガンは通用しないと言ったはずだ!!」
 宣言通り、ビデオを繰り返しているように、寸分違わず躱していく。
 アデラはそこに、ボムを投げた。真っ直ぐ飛んでいくあれは、ストレートボムか。
 しかし方向は微妙に外れている。これでは当たらない。そう思ったのだが、なぜかブライトが自分からボムの方へと突っ込んだ。
「――なに!?」
 爆風で動きが止まるブライトに向かって、さらにイーグルガン達が襲いかかる。
 次いで、先程配置していたシーカーポッドまでもがブライトに当たり、ブライトは倒れた。


『一回戦第一試合決着!! 勝利を制したのは、デュアルダイブの使い手、期待のツインズ『サリー&エリー』だぁぁぁッ!!』

 歓声が湧く。
 俺にはいま目の前で怒ったことが信じられなかった。あの二人が、カズマを負かすなんて。
「なぜ……なぜだ……? なぜあそこでボムに突っ込むような真似を……?」
 ショックが大きいらしく、カズマは青い顔をしながらテンガロンハット越しに頭を抱え、ホロセウムに転がっているブライトを見つめている。
 にこっと笑ったエリナは、「説明しよう!」と胸を張る。
「まず、ブライトが一斉射撃した時、待ってるだけだと全部に当たる。だから、敢えてポットを食らって、空中に跳ね上がる。そこでシーカーポットをばらまいたのは最後の為の布石。イーグルガンでボムを爆発させる位置まで誘導して、動きを止める。さっきばらまいたシーカーはトドメ用、ってわけ」
 言われてみればなんてことはない。カスタムロボ基礎中の基礎。しかし、極意とも言えるそのテクニック。『パーツの一つ一つが勝利への鍵』やつらはそれを充分に理解してやってのけた。
「私にはこの作戦を立てることはできても、実行するだけの力がない。動き回るのが苦手で……」
 照れくさそうに笑うエリナ。
「自慢じゃないけど、私にはそんな作戦を立てられる脳ミソがない。動き回んのは得意だけどな」
 と、胸を張るシイナ。自慢じゃないけど、ではなくもうちょっと恥ずかしい素振りをしろ。
「まあ、だから私らはデュアルダイブで互いの欠点を補ってるのさ」
「欠点がなくなった私達は強いよー?」
 二人肩を組んで笑っているが、会場は驚愕の所為かしんとしている。
「――あ、なあちょっと二人共!」
 そんな空気を裂くように、俺は妹二人に呼びかける。二人は俺を見て首を傾げ、「「なにー?」」と声を揃える。
「持ってるロボはアデラだけか?」
「「そうだけど?」」
 お前らいつまで声を揃えてるつもりだ。
「お前らバトルする前、どっちがやるか迷ってたよな? アデラにはどっちがアイコンタクトレジスターしたんだ?」
 まさかしてないのか? いや、そんなことはできないよな。
「二人でしたよなシイナ」
「そうだよねエリナ」
 ……ちょっと待て。
 ……二人で?
「どうやって二人でアイコンタクトレジスターすんだよ?」
「……どうやって、って」
 エリナがホロセウムに立ちっぱだったアデラを回収し、まるでカメラ付きケータイでツーショットを取るみたいにウインク。片目ずつアデラと目を合わせていた。
「こうしたら一人ずつダイブできるようになったぞ!」
 なんでもなさそうに言うシイナだが、常識ハズレもいい所だった。カリンさんに至っては、額を押さえながら、「そんなバカな……」と呟いている。
「さすがセイジの妹達だな……。常識が通用しないらしい」
 ショックから立ち直ったのか、カズマがニヒルな笑みで帽子のつばを弾き、手を差し出す。
 しかし、俺の妹だから常識が通用しないってどういうことだ。あんなにバカじゃねえよ俺。
「兄ちゃんと一緒にすんなよ。兄ちゃんより強いんだぜ私ら!」
 シイナはカズマの手を取り、そんなバカげたことを叫んだ。アホらしい。俺がお前らに負けるか。
「カズマさんも強かったですよ。さすがアヴァロンです」
 その握手にエリナも上から手を乗せることで加わり、両陣営互いの健闘を称えあった。
「……案外、今回一番手ごわいのは、サリー&エリーかもしれないわね」
 カリンさんが、わりと真剣な表情で俺の肩を叩いた。そんなバカな。
「……つーかよ、セイジ。なんであの子らは変装して『サリー&エリー』なんて名前使ってたんだろうな」
 アキラが抱いた疑問の答えなんて、俺にはすぐわかった。俺の貯金箱から金を盗ったので、俺にバレたくなかったから。それと、どうせなら派手に行きたかったから。そんな所だろう。
 あのバカ妹共め。

       

表紙

七瀬楓 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha