Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
14『アヴァロン・4』

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 アヴァロン二回戦、第一試合。
 そのカードはミズキ対シイナ&エリナ。第二試合はジロウさん対ナナセさん。
 余った俺は、なんと準決勝に駒を進めることになった。
 じゃあ次の対戦相手の戦いを見ておかねば、と思ったのだが、緊張で腹を壊してしまったのか、トイレにこもっていた。
「俺は何をやってるんだ……」
 ズボンを下ろし、下を丸出しにして腹痛と戦い、なんとかトイレから脱出すると、もう俺の出番になっていた。
 ほんま便座はタイムマシンやでぇ……。
 見たかったなぁ、ジロウさんとナナセさんの戦い……。

 勝敗はジロウさんの勝ちだったらしく、俺の対戦相手はジロウさん。
 カリンさんとホロセウムへ行き、ジロウさんと向かい合う。ものすごいプレッシャーに飲まれ、ガチガチに緊張する俺にジロウさんは「お前か、カリンの弟子は」と微笑みかけてくれる。
「え、あ、はい! カリンさんの一番弟子のセイジです!」
「カリンも弟子を取るようになったか……」
「セイジくん」
「はい?」
 いつも飄々としていたカリンさんが、神妙な顔で俺を見た。余裕を崩さないこの人が真剣になっているというのが、俺には酷くプレッシャーだった。
「今回は正直、勝てないと思うわ」
「……でしょうね」
 相手は永遠のナンバー2。ジロウさんだ。端から見ているヤツはその称号を笑うかもしれないが、この称号はとてつもなく重い物だ。チャンピオンが代替わりしようと、彼はそこに居続ける。これは決して簡単なことではない。伝説の男、マモルがライバルと認め、チャンピオン達が口を揃えてぶつかりたくないと口にする執念の男、ジロウ。
「ふっ。やってみるまではわからんさ」
 その瞬間、まるでジロウさんの背中から突風が吹きすさぶような、強烈なプレッシャーを感じた。カリンさんと戦った時、その片鱗は感じたが、これは。一流のコマンダーが放つオーラ。
 背中に冷たい汗が流れ、唾を飲んだ。
 しかし、これでビビっていてはサスケとの再戦なんて夢のまた夢。気を引き締めなおし、ロボキューブを取り出して、ロボをカスタマイズする。ジロウさんの戦法は知っているから、スピード重視のカスタマイズにした。
「……行きますよ、ジロウさん!」
「あぁ、来い!」
 互いにロボキューブをホロセウムに投げ入れた。
「駆け抜けろ! アルファ・レイ!!」
「本気で行くぞ、セイジ!」

 ロボにダイブし、俺とジロウさん。アルファ・レイとメタルベアーが深海のホロセウムにて向かい合う。気迫が突き刺すようで、俺は相変わらずジロウさんに飲まれたまま動けずにいた。どこに打っても返されるような、最初から王手を打たれたような感覚。
「セイジくん、先手必勝ッ!!」
「は、はいッ!」
 カリンさんに大きな渇を入れられ、俺の中からマイナスな思考が消えた。まっすぐメタルベアーに向かって突っ込み、ストレートボムを撃った。
 直撃し、爆風がメタルベアーの視界を覆い隠す。そのカーテンに隠れた俺は、背後に回って3ウェイガンを構えた。
 しかしその瞬間、俺の真上に、円錐形のビームが放たれている事に気づいた。先ほどジロウさんが使っていた、レイフォールガンだ。
「やべぇ――!」
 気づいて後方に跳ぶが、レイフォールガンが落ちてくる方が速く、俺の体を貫いた。

「ぐっあ……!!」
 ぶっ飛ばされ、ホロセウムの端まで飛んでしまう。爆炎を力強い腕の振りで払い、メタルベアーが姿を現した。
「ふん。目眩ましか……まあ妥当だな」
 まったく効いていない様子で、メタルベアーは首をコキコキと鳴らす。
「だが俺には効かないぜ。レイフォールガンのホーミング性能は伊達じゃない」
「……そのようで」
 ホロセウムバリアに手をつき、立ち上がる。体の関節に小石が入ったような痛みに襲われ、ため息を吐いた。
「セイジくん、ジロウさんのレイフォールガンは近距離に弱いわ」
 カリンさんのアドバイスで、俺に光明が見えた。なるほど、確かにレイフォールガンはメタルベアーの上に出るのだから、その性質上近くなればなるほど照準が狂う。
「なるほど!」
「あっ、ちょ、待ちなさい!」
 だから俺は、空中ダッシュでメタルベアーへと近づいた。
 ちょうど二人の中間ほどで着地し、蛇行に走って接近。
 だが、メタルベアーの強烈なタックルで再び吹っ飛ばされた。
「げぇっ……!!」
「だから言ったのに……」
 地面に背中を叩きつけられ、頭もぐわんぐわん揺れる。うっ、酔いそうだ。
「ジロウさんのメタルベアーはパワーも高いのよ。近距離も死角なんかないって!」
「先に言ってくださいよ!」
「言おうとしたら走り出したんでしょうが!」
 はいそうでした。
「どうしたカリン。慣れないセコンドに戸惑いがあるのか?」
「うっ……」
 図星を突かれた様子で、カリンさんの声が上擦る。
「まあ、セコンド見習いだからな、お前は……最近まで現役だったくせに」
「う、うるっさいですねー! もうあたしはセイジくん育てるって決めたんですー! セコンドもこれから上手くなっていきますよ! セイジくん、まずは距離を取りなさい!」
「あ、は、はい!」
 バックステップで距離を取って、ガンを構える。
 しかし、そこにまっすぐ突っ込んでくるメタルベアー。まるでアメフトのタックルのようで、俺には下がることしかできない。
「カリンさん! 指示! 指示ください!」
「え、あ、右に跳んで、ガンで牽制!!」
「遅い」
 右に跳んだ瞬間、メタルベアーに左腕を捕まれ、地面に倒され、顔面に一発拳を入れられた。
「ぐ……」
 頭がくらくらする。しかし、まだだ。立ち上がらなくては。俺はまだやられるわけにはいかない。ここで負けてはいられないのだ。俺はサスケともう一度戦うのだから。
 上半身を起こし、ふらつく視界をなんとか意識の中で調整しながら、足でしっかりと地面を掴み、目の前のメタルベアーをしっかりと見据えた。
「いい目だ。しかし――今は、寝ていろ」
 そう言って、メタルベアーは拳を振り上げる。その拳が連れてくる運命を察したが、俺はその拳を最後まで睨んでいた。

  ■


『準決勝! その勝者は下馬評通り! 永遠のナンバー2! ジロウ選手だあああああ!!!』
 アルファ・レイから離れた意識が俺の身体に戻ってくると、そんな司会者のアナウンスが耳に響いた。伝説のコマンダーの一人だけあって、実力がどれほど開いているのかさっぱりわからない。しかしやっぱり負けて悔しい。実力とか経験とか、色々なものがとんでもなくらい離れているのはわかるけれど、負けたら悔しいのは当たり前だ。
 けれど、心に悔しさの雲があまりかからなかった。それというのも、俺の隣に立つカリンさんが、俺以上に悔しがっていたからだ。特に動いたり叫んだりではなかったのだけれど、その表情はまるで、はじめて失恋を味わった少女みたいな、悲痛な顔。
「カリン……お前はコマンダーとしては成長したが、セコンドとしてはまだまだだな」
 歯を食いしばり、言いたいことを溜めに溜めているというのが見て取れた。しかしその言葉は、中身が詰まっていない強がりにしかならないことがわかっているのか、何も言わない。
「ジロウさんの……言う通りだわ……」
「ちょ、なんでですか! 俺はカリンさんの指示がなかったら、そもそもここまで……」
 しかし俺は、まだ子供だった。だからこんな風に、無意味にカリンさんを庇ってしまった。
「最後のバックステップ。あそこは、カリンが指示を出すべきじゃなかった。俺ならカリンの指示を聞いて、セイジの動きを止めることができる」
 事実あの時、ジロウさんに止められた。
 指示を聞かれて、行動を起こすまでのラグを狙われたのだ。一流のコマンダーにとっては、その一瞬で充分。
 俺も、何も言えなくなった。強がりすらもう出ない。
「おい、審判」
 ジロウさんが、ホロセウム脇に立っていたマリンパークの従業員らしい男に声をかける。先ほどからアナウンスを担当していたため、彼はマイクを口元から外し、「はい?」と首を傾げた。
「俺は棄権だ。今のは無効試合にして、セイジを決勝に進出させろ」
「なっ……! ジロウさん、何言ってるんですか!!」
 怒鳴ったのはカリンさんだった。今まで聞いたことのなかった、カリンさんの本音。

「私達は負けたんです。大人しく去ります!!」
「俺はすでに、グレートロボカップの出場が決定しているからな。決勝で勝っても、意味がないからな。俺の遊びは終わりだ」
「ふざけないでください!!」
 カリンさんが怒鳴った。冷静な人だと、叫ばない人だと思っていた俺は、驚いてしまい、黙って見ているしかなかった。
 二人はそのまま、しばらく沈黙したまま睨み合い、少しして、ジロウさんが唇を釣り上げ、「またな」とマントを翻して観客席へと消えて行った。
『……あ、えー。ジロウ選手、棄権により、セイジ選手決勝進出です!』
 テンションの置き所を決めかねているアナウンスなんて聞いてないかの様に、カリンさんはゆらゆらとホロセウムから離れていく。周りは次のバカコンビ対ミズキ戦へと移り変わっていくのに、俺とカリンさんだけは、先ほどの戦いを引きずっていた。
「すいません。俺が未熟だった所為で……」
「子供が余計な気を使うなっ」
 謝ったら、額を指で押された。
「初めて一ヶ月足らずで、ジロウさんに勝てるわけないでしょうが。あたしだって、ジロウさんと初めてやった時はコテンパンにされたんだから」
「そう、なんですか?」
「だからセイジくんが気にすることなんてないわ。あたしがもっとしっかりしてれば、あんな不甲斐ない負け方はさせなかった」
 ああ、不甲斐ない負け方したんですね俺!
 一応全国大会なのに……。
「まあ、あれね。勝っても負けてもうらみっこなしよ、ってやつね!」
 おお、カリンさんの決めゼリフ。
「元気印のコマンダー娘がうだうだやってたってしかたないってことよ。――とりあえず、決勝のために、ミズキちゃんと妹さん達の戦いを見ときましょうか」
「そうですね。勝って、グレートロボカップで倒してやればいいんですよ!」
「そのためにも、もっと力をつけないとね」
 俺とカリンさんは、互いに笑みを見せ合って、拳をぶつける。
 観客席に戻ってきたので、そのままバカ達対ミズキを観戦することに。力をつけて、俺はカリンさんの為、強豪達に勝たなくてはいけないのだ。

「セイジの妹達、だっけ?」
 試合をする為のホロセウム。マリンパーク巨大水槽広場中央に鎮座するそれを挟むみたいに、バカどもと、ミズキが向かい合っていた。
 ミズキはポケットから棒つきの飴を取り出し、それを咥える。
「そっすよ姐さん! 一度会ったでしょ」
 そう。ミズキとバカーズは一度、ミズキが我が家を訪れた際に一度会っているのだ。忘れられたと思っているらしいシイナは、涙目でジタバタしていた。
「忘れてないって……いろんな意味で印象強いし」
「おお、姐さんに褒められたぞエリナ!」
「褒められてるのかなあ……」
 どうにも釈然としていない様子で、苦笑しているエリナ。しかしそんなことは、空気の読めないシイナが感じているはずもなく、「早速はじめようぜ!」とロボキューブをミズキにつきつけた。
「セイジの妹だからって、手加減しないわよ」
「「上等!!」」
 双子の専売特許ハモリを見せたところで、ミズキとシイナがロボキューブをホロセウムに投げた。
「氷結の舞、見せてあげる!」
「ツインズ・バトル! レディー……ゴー!!」


 深海のホロセウム。
 どうやら最初からデュアルダイブで行くらしい妹二人は、すでにアデラへデュアルダイブしている。ミズキの実力は知っているらしい。
 ミズキも、お得意のフリーズ装備にブレードガン。どちらも本気だ。
 認めたくないが、妹どもは地味に実力がある。ミズキは言わずもがな。正直どっちが勝つかはわからない。心情的にミズキに勝ってほしいが……。
 頭の中で無意味な計算が行われそうになったその時、ミズキのロボ、マーキュリーが先手を打った。
 エアリアルビューティー独特の多段ジャンプを駆使し、高く飛び上がったのだ。
 ブレードガンで何本もの剣を空から放り、銀の雨がアデラへと降り注ぐ。
 それを掃射範囲内から出るのでもなく、身体を揺らしながら剣を鮮やかに躱す。
「さっすがシイナ!」
「へへん、当然!」
 どうやら躱したのはシイナのお手柄のようだった。エリナがシイナを褒めている。
 確かにあの身体能力はやっかいだ。並のコマンダーなら、あれだけで倒せそうだ(頭が壊滅的に悪いから、実際は並より弱いのだが)。
 そこへ落ちてくるグランドフリーズポッド。今回も華麗に躱すのかと思いきや、アデラは先程の剣を一本足に受けていたらしく、バランスを崩した。
「「やばっ!」」
 アデラの顔が露骨に焦り、グランドフリーズポッドに当たった。
 フリーズ系は攻撃力は大したことないのだが、動けなくなってしまうのだ。
 もちろん、動けないアデラ。その隙に降りてきたマーキュリーが接近し、拳を振り上げる。
 しかし、その瞬間、アデラが右ハイキックでマーキュリーの頭を揺らした。
「なッ……!」
 ぶっ飛ばされたマーキュリーは、空中で受身を取り、地面に着地する。
「動き出す時間が早い……! まさか……!? 」
「止まったフリ」
 ニヤリと笑って、ピースサインをするアデラ。
「止まったフリされたのは、さすがに初めてだわ……」
 首をぐるりと回し、舌打ち。マーキュリーは、走り出す。グランドフリーズポッドを射出、二つの蜘蛛型ミサイルが地を這う様に左右へ展開し、マーキュリーはさらにアデラの正面に向かってフリーズボムを発射。
 逃げ場はもちろん、上しかない。
 飛び上がったアデラは、空を駆け、空中でガンを発射。真っ直ぐ飛ぶ青いレーザー。
 あれは、Vレーザーガン。空中では真っ直ぐ飛ぶが、地上ではVの字に分かれるガンだ。
 弾速は速かったが、マーキュリーは後ろへ飛び、サンゴの後ろに隠れる。
 マーキュリーの真上に、山なりに飛ぶボムが落ちてくる。トマホークボムだ。
「チッ」
 舌打ちし、サンゴから飛び出すが、そこへVレーザーガンが飛んできた。サンゴの裏に隠れたマーキュリーをトマホークボムであぶり出し、そこへ左右どちらに出てきてもいいよう、障害物を挟むようにVレーザーガンを放ったのだ。
 いいようにアデラの策へハマったマーキュリーは、Vレーザーガンの直撃を受け、倒れた。

  ■


『決勝進出を決めたのは、期待の新星! サリー&エリーだぁぁぁ!! 基本に忠実な見事な戦法で勝利を掴んだ!』
 アナウンスが会場に響き、俺の決勝の相手がシイナとエリナになったことが決まった。
 その二人はハイタッチして、抱き合っていた。
「きゃっほー! これは優勝決まったも同然だね!!」
 エリナが、シイナの首にぶら下がりながらそんなことを言っていた。俺のことは眼中にないらしい。
「兄貴なら楽勝だろ!」
 シイナまで俺のことは眼中にないようだ。
 あいつらは俺を下に見てるからな。しかもそれを隠さない。ちょっとお仕置きが必要だ。
「チッ……負けた……」
 ホロセウムからマーキュリーを回収し、ミズキはパーカーを深く被り直す。
「セイジにリベンジ、したかったんだけどな……」
 チラッと、ミズキがこちらを見る。
 何か言われたような気がしたけれど、距離が離れすぎていてわからない。俺は一応、親指を立てて見せた。するとヤツも、ゆっくり親指を立てて、ニヤリと笑っていた。
 ミズキの敵は俺が取ればいいんだろ?
 決勝の相手は妹達だ。
 兄より優れた妹なんていないってことを、教えてやる。

       

表紙

七瀬楓 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha