Neetel Inside ニートノベル
表紙

カスタムロボOriginalNovell
04『サンデー・マッチ2』

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「行くぞドデカンよ!!」
 相手のロボ、ファッティバイスのドデカンは、ドカドカと走りながら、こっちに向かってくる。体が大きいからか、やたらと威圧感がある。
 こちらに走りながら、やつはポッドを発射。ゆっくりと飛ぶミサイルのような形で、じりじりとプレッシャーをかけてくる。
 俺はそのポッドから逃げるように、横へ走る。しかし、俺が走った先には、すでにドデカンが立っていた。
「――いぃッ!?」
 んなバカな。あのスピードで先回りができるのかよ、と思った瞬間、俺は頬を殴られ、後ろへ弾き飛ばされた。そこにはボムがスタンバイされていたらしく、俺の背中を爆風が焼く。
「――ッそういう、ことかよ……」
 つまりドデカンは、俺がボムを避けるために移動することを読んでいた。だから、片側にボムを置き、もう片側には自分が先回りした。動きを読まれていたなら、先回りされたのも頷ける。
「……違う、読んでたんじゃないんだ」
 俺が避けることは『決まっていたんだ』
 あのフカシってコマンダーの経験上で。マヌケな顔してる癖に、強いじゃねえか。俺は不意に、力無く笑った。
「笑っている暇なんてないのだ!」
 叫んだドデカンは、銃口を俺に向け、撃つ。その弾丸は泡で、ゆっくりとこちらに向かってくる。またゆっくり系の装備かよ、と若干イラつきながら、俺はその泡に向かってガトリングを放った。泡は目論見通り割れてくれたのだが、狙いはめちゃくちゃだった。泡にかすった程度。
 しかしそれでも割れたことに変わりはない。俺は地面を蹴り、ドデカンに向かう。走り出した瞬間、いつもより少しだけスタートダッシュが速い気がした。
「うわっ、と、と!?」
 その速さに驚いてしまい、スタートダッシュ時にもたついてしまう。
「ぬっ!?」
 その所為で、一気に距離を詰める企みは失敗。ドデカンは軽やかに跳び、白い柱の上に立ち、泡のガンで俺を狙い撃ち。どうもこのフォーミュラレッグは小回りが効かないらしく、避けることができなかった。
「はぐっ……!」
 体に当たった泡が俺を弾き飛ばし、俺は砂に体を叩きつけられた。地面に手をつき、じゃりじゃりと耳障りな音を聞きながら立ち上がる。
「うらぁぁぁぁぁ!!」
 真上からの声に驚き、とっさに顔を上げた。体を丸くしたドデカンが、俺の元へ落ちてきていたのだ。
「どわぁぁぁぁぁッ!!」
 腕まで使ってなんとか落下地点から逃れた俺は、ガトリングを放ちながらバックステップでドデカンから距離を離す。
 だが、ドデカンにはあまりガトリングが効いていないらしく、構わず俺を追ってきた。ガード性能の高いファッティバイス。さすがである。
 俺、同じファッティバイス使ってたゴウタにはどうやって勝ったっけなぁ……。あん時はたしか、足元の悪さを利用して……。
「……あっ」
 閃いた。ここも同じような手が使える。
 俺は、迫ってくるドデカンの少し前辺りに、ガンやボムやポッドを、とにかく派手に連射しまくった。
「目眩ましして逃げる気か! そうはイカの金時計なのだ!」
 そのまま、爆炎の嵐と化した砂漠を突っ切ろうとするドデカン。俺はそのドデカンからさらにバックステップで離れる。
「ぬぁっ!?」
 爆炎が引く直前、ドデカンの間抜けな声が聞こえた。それを合図に走り出す。
 ドデカンが姿を現すと、やつは穴に半分ほど体を埋めていた。俺がガンやらで掘った落とし穴だ。
「その穴からすぐに脱出はできねぇだろぉっ!!」
 そして、俺は跳んだ。体がミサイルになるような超感覚。カスタムロボ式、ドロップキックをドデカンの体に叩き込んだ。
「ぬわぁぁぁぁぁッ……!?」
 ドデカンを蹴り飛ばし、空中で反転し、着地する。
 その瞬間、やつのヒットポイントがゼロになったらしく、俺の意識が急速にアルファ・レイから離れる。


「……ふう」
 ため息を吐き、ホロセウム内に転がるアルファ・レイを回収。フカシもドデカンを回収すると、キューブに変形させポケットしまう。

『第五ホロセウム決着ぅぅ! 勝者、セイジ選手だぁぁぁぁ!!』

「ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ……っ!!」
 悔しそうに身を震わせ、さすがにプライドを傷つけたかと心配したが、いきなりフカシは「ふむ」とか言って腕を組んだ。
「よかろう。貴様を俺様のライバルとして認めてやる!」
「……はっ? ライバル?」
「うむ。光栄に思うがいい。俺様のような強いコマンダーに目をかけられたのだからな!」
 ……こういう時、どんな顔をしたらいいのかまったくわからん。光栄とはまったく思えんし。
「フカシ……あたしの弟子にバカな電波飛ばさないでくんない?」
 と、いつの間にか俺の隣にいたカリンさんが、変わりにリアクションをしてくれた。その顔はひどく不機嫌そうだ。
「ほう、久しぶりではないか! 変わらんな貴様は!」
「その言葉、包装紙に包んでお返しするわ。……あんたまだそんなバカ言ったりやったりしてんのね」
「……知り合いですか」
「知りたくなかったわよ。人類がどれだけバカになれるかなんて……。ほら、早くどっかに行きなさいよ。私はセイジくんに大事な話があるから」
 まるでネコを追っ払うような仕草でフカシへの敵意を現すカリンさん。
「ふん。――まあいい。ではなセイジ。俺様は去る。敗者に口なしなのだ」
 そう言って、大笑いで去っていくフカシ。
「はぁーっ。まさかフカシに会うなんて……」
「どういう関係ですか?」
「小学校の同級生。決して友達じゃないから」
 まあ、カリンさんがそう言うならいいが。
「――で、大事な話って?」
「あぁ、うん。さっきのフカシとの戦い見て、確信したんだけど――。セイジくん、アタックばかり使ってない?」
 アタック――つまりは肉弾戦だ。
 確かに、俺の基本戦法は肉弾戦だなぁ。だって、ガンとかポッドとか慣れないし……。
「ダメだよそれじゃ。フカシ相手だからなんとかなったけど――」
 そこで、カリンさんはちらっと、他のホロセウムへと視線を向けた。第二ホロセウムは決着したらしく、勝ったのは黒いテンガロンハットを被った、襟足の長い男。俺と同い年ほどで、体格はひょろ長。茶色いパーカーに黒いスリムジーンズを穿いている。
「あの子は『カズマ』ガンの使い方が圧倒的に上手い。――他には」
 カリンさんの視線が移動する。第一ホロセウム。そこに居たのは、ミズキ。
「あの子は――」
「――ミズキ」
「あら、知ってた? なら話は早い。彼女はすごいよ。カスタマイズのバランス、作戦の組み立て方。全部完璧。カスタムロボと本当に一つになってる、って感じ。……あー、あのカスタムロボ、分解したいなぁ」
 よだれを垂らすんじゃないかってくらい、見事な口半開き。俺の「口開いてますよ」の言葉に、口を結び直すカリンさん。
「……ま、まぁとにかく。この大会、マジでやばいのはあの二人。肉弾戦で勝てる相手じゃないよ」
「でも、俺、そのー……」
「射撃に自信ないんでしょ? だったら、3ウェイガンの出番じゃない。次からは、私もセコンドやるからさ」
 まあ、カリンさんにセコンドしてもらえるなら、それは確かに心強い。なんか駄々をこねた子供みたいになったが、俺は言われた通り、ガトリングから3ウェイガンにカスタマイズを変更し、係員の誘導に従い、二回戦の第四ホロセウムへ移動する。
 俺の向かいに立ったのは――。
「あれっ……もうセイジとやんのか……」
 困ったような顔をするアキラだった。
「お前とは決勝でやりたかったんだけどなぁ。ま、しょうがねえか。手加減しねえぞ。俺もアヴァロンには出たいからな」
「……そのアヴァロンって、そんなすげーの?」
 初心者だから知らないのだ。さっきの話を聞くに、どうも全国大会みたいなノリだが。
「ばっ……! お前、知らないのか? アヴァロン優勝者には、グレートロボカップ出場の権利が与えられるんだよ。――つまり、アヴァロン出場は、グレートロボカップ出場のチャンスなんだよ」
「なんだ。知らないで出たの?」
 カリンさんにそう言われ、俺は思わず頭を掻いた。確かに知らなかったけど。
「いや、ミズキと決着つけたかっただけなんで……」
 多分、ミズキがあの場で決着をつけようと言っていたら、この大会の存在を知ることもなかっただろう。
「ま、もういいだろ。グダグダ言う前に、やろうぜ。カリンさんのアドバイスで、だいぶ強くなったからな、俺」
「あぁ。そうだな、やろう」
 俺達は、互いにロボキューブを取り出し、ホロセウムへ投げ入れた。
「野獣の咆哮を見せてやる!」
「駆け抜けろ! アルファ・レイ!!」


 アルファ・レイとなり、ホロセウムに降り立った。そこはどうやら飛行船の上らしい。吹き荒れる風と、そこかしこにある木のピラミッドが目を引く。
「さぁ……行くぜ!」
 目の前に立ったウルフェンが跳ぶ。まるで狩りを行う狼。
 おそらく――前の戦いの時に見せた野獣殺法とは違うはず。俺はすぐに、ウルフェンに向かってダッシュした。
「甘いぜ!」
 その瞬間、空中のウルフェンが俺の少し前にボムを落とした。どうやら3つ一気に射出されるタイプらしく、前方と左右に爆風が立ち上る。
 逃げ道が塞がれた――。
 そう思ったが、後ろはまだ開いている。一旦距離を取るべく、バックステップ。しかし――。
「ここは通さねえぜ……」
 爆風のない地点に周り込んでいたウルフェンが、俺の背中にガンを突きつけていた。
「ナックルガン!」
 その瞬間、トラックに弾かれたような衝撃が俺の腰を襲った。圧縮された酸素が口から漏れる。そして、爆風に向かって弾き飛ばされ、その爆風に弾き飛ばされ、またナックルガンで弾き飛ばされ、飛行船の端まで飛ばされてしまった。
「はぁー。考えたわねえアキラくん。デルタボムで退路を限定して、そこにナックルガンでトドメ。うん、ウルフェンの機動力を存分に生かしたカスタマイズだわ」
「感心してる場合じゃないっすよカリンさん! アドバイス、アドバイスプリーズ!」
 空から降ってくる声に、天からの恵みを乞う。俺の隣にいるはずのカリンさんの声が空から聞こえるのだから、不思議な話だ。
「大丈夫よセイジくん。限定って言うのがポイントよ」
「限定……?」
 いや、逃げる方向が限定されてたら逃げられないんじゃ……。
「アドバイスは終わったかぁ!?」
 ウルフェンは、素早い動きで十メートルほどの場所に近づいてきており、俺に向かってデルタボムを放った。再び囲まれ、後ろにくるウルフェンを待つしかなくなってしまう。
 ……んあ? 待つしかない?
 自分の言動におかしさを感じ、デルタボムの爆風がない方向へガンを構えた。そこに、案の定ウルフェンが降りたのだ。
「うっしゃぁぁぁ!!」
 先ほどやられたように、至近距離から3ウェイガンを連射。ウルフェンはくの字に体を曲げ、吹っ飛んでいく。
 俺はそのウルフェンを空中ダッシュで追いかけ、空中からさらに追い討ちををしかける。3ウェイガンの特徴である弾数の多さに、ウルフェンのライフは見る見る減っていき、ゼロになった瞬間、俺の意識がアルファ・レイから離れた。


「くっそぉ……。新・野獣殺法にあんな弱点があったとは……」
 ウルフェンを回収しながら、悔しそうに呟くアキラ。
「考えは良かったんだけどねー」
 フォローのつもりか、カリンさんはアキラの隣まで行き、肩を叩いた。しかしアキラも、今のバトルに何かしらの手応えは感じたらしい。
「次やる時は負けねーぞ、セイジ」と、笑顔を見せてくれた。「んじゃ、俺は応援に回るわ。優勝してくれよ、セイジ。優勝者に負けたなら、少しはかっこつくし」
「あぁ、まかしとけ」
 俺達は、互いの拳をぶつけた。
「準々決勝、進出したみたいね」
 と、俺達が友情を確かめ合っていたら、ミズキがやってきた。
「ようミズキ。お前は――訊くまでもねえか」
 俺の言葉に、ミズキは頷いた。
「私とやるなら、決勝まで勝たないとダメだから」
「わかってるよ。お前と決着つける為にこの大会出たんだからな」
 フードから覗く唇がにっこりと微笑み、ミズキは踵を返し、自身の戦うホロセウムへと歩いて行った。
 決勝で戦えるとは、ありがたい。そういう運命のイタズラは大好きだ。

 それがやる気になったのか、準々決勝はあっさり勝てた。カリンさんのアドバイスもあったが、やはり気力が満ちているのが一番の勝因だ。

 そして迎えた準決勝。
 俺の相手は――。
「キミが相手かぁ……よろしく、セイジくん」
 カリンさんイチオシ。カズマだ。
「キミは初心者なんだって? ……心苦しいなぁ」
「……なにが」
「俺のガン捌きをキミのような、無垢なコマンダーに刻みつけてしまうとは……。同じ刻みつけるのであればあっちの女の子と戦いたかった……」
 なんか、俺とは相容れないノリの持ち主みたいだ。
「まあそう言うなよ。俺もなかなか強いぜ」
「ふうん? まあ、それはやってみればわかるか……。俺のブライトは、すべてを射抜く」
 やつが取り出したロボは、やつと同じ様なカウボーイスタイルだった。
「さあ、俺の的となるがいい」

       

表紙

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