Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
06『ラスト・サンデー』

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 俺のフレイムガンが、ホロセウム内のクリームを焼き払う。狙ったのはマーキュリーだったのだが、マーキュリーには躱されてしまう。エアリアルビューティー型の本領発揮、というやつだ。カリンさんも言っていた。『だいたいエアリアルビューティーの扱いが上手い奴は、空中主体の戦いをしてくる』と。
「結構、エアリアルビューティーとの戦いに慣れたみたいじゃない」
 と、空中からブレードガンを連射してくるマーキュリーに、俺は中指を立てた。こっちゃお前、カリンさんにボッコボコなんだよバカヤロウ。カリンさんのが強かったよ。
 ケーキの柔らかいスポンジとクリームに足を取られながらも、俺はアルファ・レイの移動スピードを活かしブレードガンやらの爆撃を躱す。
 爆撃も止み、向かい合う俺達。そして、同時に走り出し、ガンを互いに向かって撃つ。しかし、ダッシュしながらでは当たりが悪いのか、互いに掠める程度。ついには掴み合い、力比べになる。
「ふん、ぐッぐぐぐぐ……!!」
「はああああああッ……!!」
 マーキュリーに、いたずらにニヤリと笑い、俺も笑い返した。掴み合い、メンチを切り合う。しかし、やつはここから先、どうしていいのかわかっていないらしく、何かを仕掛けてくる雰囲気もない。
 バカめ、ニヤリと笑うのは俺の方だ。
「――お前、取っ組み合いの喧嘩、したことねえだろ」
「え?」
 全身に力を込め、俺はマーキュリーを持ち上げる。
「え、嘘、ちょ!?」
 真上に持ちあげられ、うろたえるマーキュリーに、俺は笑い返した。
「うるぅああああああああッ!!」
 そして、傍らに置かれていたでっかい苺に思いっきりマーキュリーを叩きつける。
「かふっ……!」
「アホめ! 相手掴んだらぶん投げるは常識だ!!」
「そ、それ、どんな常識よ……!!」
 妹が居るやつの常識だ。何回ぶん投げたと思ってんだ。時には投げられたこともあったが(というより、確実に投げられた回数の方が多い。二対一だから)。
「立てコラ。まだやれんだろ」
 苺の上に横たわるマーキュリーは、俺の足を蟹挟みし、引っ張って倒してきた。
「んがッ!」
 クリームに埋もれるという素敵体験に引きずり込まれ、倒した張本人であるマーキュリーが、俺の上に馬乗りになり、顔面にむかって何度も何度も拳を叩き落とす。
「苺の上に、叩き落としやがって! 痛かったん、です、けどッ!!」
 俺の顔が右へ左へ行ったり来たり。殴られっぱなしという癪な状況に我慢出来ず、俺はマーキュリーの首を掴む。
「てんめええ……。女の子がぼこぼこ暴力振るいやがって……!!」
「――首から手ぇ、離しなさいよ」
「ああ、離してやる、よおッ!」
 足で背中を押し、ついでに首を引っ張って、巴投げの要領で後方にぶん投げた。顔面からケーキに突っ込むマーキュリー。ギャグマンガみたいになってて笑いそうになったが、俺のボムはマーキュリーへ照準を合わせ、射出。頭抜くのに手間取ったのか、爆風によってケーキの縁まで吹き飛ばされた。
「ミズキ! 氷結の舞ってやつあどうしたぁ!」
 起き上がってきたマーキュリーは、顔のクリームを拭うと、高く飛び上がった。
「さっきみたいな殴り合いも初めてで楽しかったけどね……。やっぱりカスタムロボとして、本気でぶつかるのが一番じゃない!?」
 やつのポッドからミサイルが飛ぶ。UFO型のそれは、ふよふよと漂っている。なんだよあれ、と思いつつ、対空系の物なのだろうと当たりをつけ走る。そのUFOの下を通った瞬間、UFOが縦長の青い爆発を起こし、俺の身体が固まった。
「な、なな、これ、あれじゃん、フリーズ系装備じゃねえかああ……!!」
 あ、俺馬鹿だ。今更氷結の舞がフリーズ系装備のコンボだって気づいた。俺馬鹿だろ。泣きそうになっていると、上空から剣が無数に降ってくる。あ、やばいこれやばいこれ。涙目になってるもの。
「うああああああ!!」
 掠ったもの、地面に突き刺さったもの、たくさんあるが、俺の腕や足、果ては頭にまで刺さった。
「い、いってええ……」
 エネルギー弾だから、刺さっても物の数秒で消えるが、トラウマはなかなか消えない物だ。カスタムロボはトラウマ生産機なのか。
 さらに飛んでくるフリーズボム。もうスカイフリーズポッド(カリンさんに訊いた)のフリーズから開放されたので、フリーズボムの爆風を躱す。フレイムガンで目前を焼き払い、近づいてきていたマーキュリーを突き放した。
「氷にはお前、炎だろ!!」
「北極の氷にガスコンロ如き通じないってのよぉぉぉぉ!!」
 向こうのブレードガンはフレイムガンで弾き落とすが、ブレードガンは発射時の隙が少ない。その所為で、打ち終わりを躱すなり撃ち落とすなりしていると、あいつはスカイフリーズポッドなりフリーズボムなりで俺の動きを止めて、ブレードガンで串刺しにする。
「あ……これ、やばいかもしれねえなあ……」
 俺のHPは残り僅か。あいつはまだまだ元気だ。半分くらい残ってやがる。息を切らす俺に、やつのしたり顔がすごい染みる。
「もう終わりにしましょう。疲れたから」
「バカヤロウ。疲れたでやめられるかってーの。今、ちょっとした秘策を思いついたんだ。やめられんのは、そっちが泣き入れた時だけだぁぁぁぁッ!!」
 今度は俺が跳び、マーキュリーの周辺を飛びながら、ヤジューポッドを撒き散らす。三方向からのヤジューポッド攻め。逃げ場なんて――
「逃げ場なら、真上にあるでしょ!」
 と、真上に爆風を躱し、ジャンプするマーキュリーだが、真上にはもちろん、俺が居る。
「おるぅあッ!!」
 空中でのフレイムガン命中。再び爆風の中心地へと落ちて行くマーキュリー。
「どうだ! これぞ野獣殺法!!」
 退路を限定して、相手に一撃叩きこむアキラの技。
 そうして、爆発の向こう側に着地した俺に、マーキュリーは爆炎越しにブレードガンを連射してくる。だが、俺はわざと隙を見せたのだ。脇から右手のフレイムガンを発射し、それらすべてをたたき落とした。
 これはカズマの技だ。っていうか、これはもうほとんど勘でやったから、もう二度とできないし、しないと思う。
「そんなわけでぇえ……! 俺の勝ちだぁぁぁぁぁッ!!」
 爆風の引いた中に居たマーキュリーに向かって、拳を叩き込んだ。


  ■

 マーキュリーがぶっ倒れた瞬間、俺の意識がアルファ・レイから剥がれた。それと同時に、レフェリーが叫ぶ。
『決勝戦を制したのは、期待の新星、セイジ選手だぁぁぁぁぁぁっ!!』
 そして、歓声が会場を包む。俺に向けられた歓声だと一瞬わからず、うるさいなと思ってしまったが、自分のものだとわかった瞬間、愛着が湧く。もっと浴びていたいと思う。しかし、段々と小さくなっていく歓声を惜しみ、目の前に立つミズキを見た。やつは、ポケットからアメを取り出し、咥える。
「あーあ。負けちゃった。――ま、楽しかったから、いいか」
「俺も楽しかったよ、ミズキ」
 決勝という大舞台なのに楽しめたのは、ミズキのおかげだろう。やつも全力で俺との決着を望んでくれたおかげで、楽しかった。

 一位は俺、二位はミズキ、三位はカズマ。表彰台に登り、俺はトロフィーをレフェリーの係員から受け取り、ダンベルくらいのサイズは割と隠し通せる物だ。目立たない様に自宅へ帰る。

「よう、兄ちゃんおかえりー。なんか今日遅かったな」
 玄関にて靴を脱いでいると、シイナとエリナが二人して出迎えてくれた。
「――なんか、お兄ちゃん嬉しそうだけど、なんかあった?」
 実はカスタムロボの大会で優勝してさー、と語ってやりたかったが。近所の大会レベル、報告しても鼻で笑われそうな気がして、俺は「なんでもねえよ」とぶっきらぼうに務める。
「ふーん。ま、兄ちゃんがそう言うんならいいんだけど。今日の晩飯はカレーだってよ。早くリビング来なよ」
 そう言い残してリビングに引っ込んでいく二人を横目に、俺は階段を登って、自室へと戻った。もらってきた小さなトロフィーをデスクの上に置いて、部屋を出ようとした、その時だった。

『今日はバトルしたライバル達に助けられたね。仲間から学ぶことで、どんどん強くなるのがカスタムロボだから、これからも頑張って』

 なんて、そんな声がトロフィーから聞こえた。
 ――気がしただけだ。馬鹿らしい。

       

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